表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火炎審判  作者: 天幻 桃
序章 〈火炎〉の能力者
4/5

3話


(⋯⋯っ!?)


 遠くで起こるその出来事に、悠陽は驚き、声を失う。

 あの何とも言えない感じのした工場の場所から、火柱が上がり渦巻いているからだ。


 悠陽が感じたあの悪寒。そしてその悪寒を感じた工場のある場所から火柱が発生した。

 悪寒を感じた場所に火柱が上がったのだから、あの工場と火柱が全くの無関係だと決めつけるには、不可解な点が多過ぎる。


 だとしても悠陽は一切能力を使っていない。だから本来なら悠陽は関係ないと言い切れたが、あまりにもタイミングが良すぎる。

 自然発火はまずありえない。

 そして普段から能力が発動しないようにしている全神経を注いでる悠陽が、能力で起こしたものでも無い。

 ならばあの火柱は誰かが起こしたもの。

 それはつまりあの工場の場所に悠陽以外の、あの威力の火柱を発生させることが出来る能力を持つ者がいると言う事だ。


 一番の候補はあの屋敷で会った〝文使(ふみつか) 笑美(えみ)〟と言う少女だ。

 確証は無いし、あの少女の能力を悠陽は知らない。だからあの少女が上げたとは決めつけられないが、可能性としてはあの少女が一番高い。

 だがあの少女が、工場に火柱を上げる理由が悠陽には分からなかった。


 ただの興味でそんな事をするようには見えなかったが、人は外見では判断出来ない。

 世の中には笑顔で人に暴力を振るう人がいるのだ。もしあの少女がそのタイプだったのなら、悠陽には外見による判断は出来ない。

 むしろあの少女の目に留まらないように頑張るし、もし目に留まってしまったら悠陽は全力で逃げる気でいる。


 半分現実逃避をしていた悠陽は未だに燃え上がっている火柱を見上げ、今目の前の起こっている受け入れ難い現実を見た。


 轟轟(ごうごう)と唸りを上げ、火柱は周りを焼き尽くしていく。その威力は悠陽がかつて家族を殺してしまった時の炎と互角の威力。

 炎はあの時のように無慈悲で巨大で、誰の邪魔も、誰の悲鳴を聞かず、淡々と工場とその周りを焼き尽くしていく。


 自然には人類は敵わない。だからこそ人類は脅威を味方に付ける手段を用いた。

 自然にとって人類は、自然を利用して自然のおこぼれに預からなければ生きていけない、か弱い存在。だからこそ人類は自然を愛し、恐れる。

 恐れるが人類は自然を排除は出来ない。何故ならば、その自然の存在や力がなければ人類は生きていけないから。

 だというのに人類は自然を恐れて、排除しようとする。そのくせその自然の力だけは求めてくるのだ。


 私たちは自然を排除しようとするけど、自然は私たちの為に自然の力を使ってね、って。


 普通に考えたら嫌に決まっている。

 何故己を害する者の為に、己が苦しい思いをしなくてはならないのか。

 だがその人達は拒まれる事など考えもしないのだ。

 全てが自分達に都合の良いようになると本気で思っているのだから、本当に救えない。


 あの人達だってそうだ。あの街の人達や家主達が廃都で起こった火柱の事を知れば、皆悠陽の仕業だと決めつけて悠陽を責めてくるだろう。

 もしかしたら家主達に今度こそ追い出されるかもしれない。その光景が簡単に想像出来る。


 龍のように唸り風に煽られて動く火柱は、天まで届いている。あまりにも大きく巨大なその炎は、悠陽が幼い頃に発現させた全てを焼き尽くす自分の炎を彷彿とさせた。

 轟轟(ごうごう)と唸り周りを照らしながら焼き尽くすその火柱は、悠陽でも一瞬自分の炎だと勘違いしてしまった程だ。


 常に能力を抑える事に全神経を注いでいる為、能力を使う事は愚か、能力の炎が漏れ出る事はありえないと知っている悠陽でさえ一瞬勘違いしてしまったのだ。

 悠陽の能力の炎を見た事もなくても、あの街の人達は悠陽の能力が火によるものなのは知っている。

 恐らくこの火柱は悠陽の出したものだと思うだろう。


 天まで届くこの威力の火柱だ。きっと街の方でも見えているだろう。

 街の人達も家主達も悠陽の能力でこれ程までの威力の炎を出したと知ったら、すぐさま悠陽を追い出す筈だ。

 家主達はこんな事を起こしても家に置いてくれる程、慈悲深い訳ではない。

 今までは世間体を気にしてあの家にいる事を許していてくれただけだ。

 それが今、悠陽を追い出すのにもっともな理由が出来た。あの家主達は嬉々として悠陽を追い出すだろう。

 もしかしたら今、悠陽を追い出す準備をしているかもしれない。


 どれだけ長い間追い出されないように頑張っても、結局は家族を殺してしまった罪人である悠陽に救いは無いのだ。

 家族を害した悠陽は同じように、他人の手によって悠陽は今までの頑張りを壊されて悠陽はあの家を追い出される。

 悠陽は仕事も着く事も厳しく、仕事が無いからお金も得られず、お金も無いから食べ物も買えない。

 そうなれば栄養を取れず死ぬしか無いだろう。


 だがそれも仕方ない。

 家族を害し殺してしまった罪人である悠陽は、他人の手によってこの身を害され死んでいくのだ。悠陽が家族にしたのと同じように。

 家族を害して殺したのだから、他人に害されて殺されても文句は言えない。

 因果応報とは正にこの事。神はやはり見ているものだ。


 今のうちに覚悟しておかなくては。

 諦めの感情を抱きながら悠陽はふぅ、と息を吐いて、その目にあらゆる光景を焼き付けるようにゆっくりと歩き出す。

 この光景を見るのは最後になるかも知れない。その為悠陽はいつもより少し遅く歩いた。

 この先に待ち受けるのは地獄だ。ならば最後くらい、この親しみのある街を見て回ってもいいだろう。

 これから先救いなどありはしないのだから、今だけは好きな事をしたい。


 ゆっくりと歩いて街を見て回る。

 屋敷の奥に隠れるように建っているのは服屋で、その隣りに佇むのは肉屋。

 服屋の隣りに肉屋があるって事は、服に肉の匂いがついてしまった事とかあったりしたのだろうか。


 廃れた建物を見てその時の光景を想像すれば、自分もその場所にいる気分になれる。

 何故そう思ったのかは分からない。それでも悠陽は想像の中の街にいると、幸せな気分になれるのだ。


 想像の中でのこの街はとても活気づいていて楽しく、想像の中の街にいると悠陽は普通の人間に戻れた。

 そうやって楽しんで現実に戻ってくると、悠陽はたまに思ってしまう。


 何故悠陽は〈火炎〉の能力者なのだろう、と。



 両親から貰った唯一の能力にそう思ってしまう自分が悠陽は心底嫌で、心底嫌いだった。

 もし、なんて考えても現実は変わらないのに、楽になりたいが為に救いを求めて大切な人達がくれたものを(けな)してしまう。


 こんな自分が情けなくて、こんな自分を消してしまいたい。だけど唯一残った両親から貰ったこの身を捨てる事なんて悠陽には出来ないのだ。


 死ぬ事も家族を忘れる事も何も出来ないくせに、悠陽はいつも悲劇のヒロインぶって苦しむ。

 悠陽はヒロインなんかじゃなく、家族を殺した犯罪者なのだから責められて当然だというのに。


 ツン、と鼻の奥が痛くなったような気がしたが、悠陽は無視した。きっと悠陽には必要の無いものだから。


 そうやって想像に沈みながら悠陽はゆっくりと歩いて行く。

 そしてとうとう廃都の出入り口───終わりへと辿り着いてしまった悠陽は目を閉じる。廃都にお別れをするかのように。


 悠陽が次に目を開けた時には、悠陽の中に何の感情も存在していなかった。先程まで少しあった廃都への感情の一欠片も。


 いつもみたいに悠陽は感情を消した。これからは感情なんてもの、必要ないのだから。あったところで邪魔なだけ。

 悠陽は無意識の内に廃都を大切に思っていたらしい。だがそれは今捨てた。もうこの廃都に何も感じないし、何も思わない。


 いつもの悠陽に戻る。違う、先程までが変だっただけだ。

 悠陽はいつものように楽になっていくのを感じた。


 悠陽は無感情のまま廃都から出て、廃都に背を向ける。そして悠陽はいつものように、走って木植街へと戻る。


 いつもは早くに戻ると怒られるが、今日に限っては早く戻って来てほしいだろうな、と思ったからだ。

 走って木植街に着いた悠陽は街に入った瞬間、じろり、と色んな人から見られた。


 隠れながら人に見つからないようにしたとはいえ、今は人が活発になる時間帯。

 普通に街を歩いている時よりは見られるのが少ないとはいえ、かなりの人に見られている。

 だが街には沢山の人がいる。見つかるのはしょうがないだろう。全く見つからないとは悠陽も思っていない。


 気配を薄くしながら街を進む悠陽に、様々な視線がぶつけられる。

 その目には様々な感情が浮かんではいたが、一番目に浮かべられているのは、ああやっぱりか、やると思った、だった。


 やはり悠陽がやったと思われているらしい。想像通り過ぎて笑ってしまいそうになる。

 あの火柱を上げたのは悠陽ではないが、弁明した所で聞いてはくれないだろう。

 それならば弁明するだけ時間の無駄だ。悠陽は沢山の視線を無視して、気にせず家へと戻って行く。


 悠陽が一番驚いたのは、この街からもあの火柱は見えた事だ。

 この街から廃都まではかなりの距離がある。それなのに見えたと言う事は、だいぶ高く火柱が上がっていたと言う事だ。


 それまでに高く火柱が上がっていると言う事は、恐らく威力も高い。悠陽でもあそこまでの火柱は上げられないだろう。

 あそこまでの火柱を上げようとしたら、悠陽は身を燃やす程の勢いで能力を使わないと無理だ。

 もしそこまでしても、あそこまでの火柱が上がるかどうか微妙なところではある。半分もいかないかもしれない。


 などとどうでもいい考えをしていたら、悠陽は家へと着いた。悠陽は警戒しながらも家の扉を開いた。


 今回は何が飛んでくるのだろう。食器や道具などの軽いものなら、血が出るだけで済むからまだ良い。

 だが能力を使った殺意のある攻撃は、流石に悠陽も危機的状況に、本能で反撃に出てしまう恐れがあった。


「っ⋯⋯」


 飛んできたのは椅子と食器。咄嗟に防御した腕に椅子が当たり、床に落下する。

 その後に飛んで来ていた食器が、がしゃん、と床に落ちて割れて、その破片が足を切り裂いた。

 チリ、と足に痛みが走ったが、家主達の機嫌を損ねないように黙ったまま立ち続けた。

 痛がった所で更に暴力と暴言を与えられるだけだろうから。



「遅い!! 何ちんたらやっているのよ! 誰のおかげで生きていられると思っているの!?」

「お父さんも何でこんな奴引き取ったのよ!? こんな何の役にも立たない家族殺しを!」

「⋯⋯⋯」


 家族殺しと言う言葉に、ぴり、とした痛みが心臓に入った気がしたが、おそらく気のせいだ。


 今目の前にいる人達は悠陽を引き取った親戚の家主達一家で、最初に怒鳴ったのが椅子を投げてきた奥様。

 その次が食器を投げてきた娘様。

 何も投げずただ黙って悠陽を睨んでいるのが、この家の家主の旦那様だ。

 三人は各々違う反応をしながらも、悠陽を睨んでいた。


 その殺意にも似た感情を浮かべた家主達の目を、悠陽は何の感情も抱かぬまま、無表情のまま受け止める。

 それが気に食わなかったのか娘様は顔を真っ赤にして激昂しかけ、ハッと何かに気付いたように悠陽の足元にある割れた食器を見た。

 そしてにやけた顔をして、割れた食器を指差して言った。


「ねぇ、それ早く片付けてくれない? あんたって本当に気が効かないんだから! 五秒以内にその割れた食器を片付けなさいよ。出来なかったらあんたは夜までわたしのサンドバッグだから。」

「そうね、それが良いわ。あんたに出来る事なんてそれしかないでしょう。」


 にやにやと笑ってそう言う娘様と、娘様の言う事に便乗する奥様。

 そしてその光景を見て見ぬふりをする旦那様。


 家主達にやられる事に反応すれば怒られ、反応しなくても怒られる。

 悠陽はどうすればいいのだろう。

 黙っていても駄目。反応しても駄目。感情を見せる事も、行動する事も、全て。


 悠陽は娘様に言われた通りに片付けようとした時、娘様の嘲るような声が聞こえた。


「五秒以内に片付けられる訳ないわよね。あんた無能だもん。あ、別に、サンドバッグが嫌なら能力を使っても良いのよ? あ、そうだった! そう言えばあんた、能力を使えないんだったわね? あんたの能力で家族を殺した時から。」


 あははは、と楽しそうに娘様が笑うのを、悠陽は意識とは遠い所で聞いていた。

 ちり、と何かが弾ける音がする。


 悠陽は能力が使えない訳じゃ無い。使おうと思えば能力を使う事だって出来る。

 ただ能力を使わないようにしているだけなのだ。


 今だって家主達は悠陽が能力を使えないと思っているからこそ、能力が使えない悠陽を馬鹿にしているのだ。

 もし仮に悠陽が能力を使ったとしたら家主達は、今度はわたし達を殺すつもりだわ、と言って怯えるだろう。

 もしかしたら殺されそうになったから悠陽を殺す、なんて事になりかねない。


 それならば悠陽は無能のままで良い。

 与えられる理不尽に耐えていれば、殺される事などないのだから。

 そうすれば生きている事だけは許される。


 悠陽はその場にしゃがみ込んで、袋などは無い為手の平に破片を乗せて、食器の破片達を片付けていく。

 悠陽のその姿を見た娘様はニヤニヤと楽しそうに笑っていた。その目に浮かぶのは歓喜と侮辱。

 あまりにも分かりやすい。そう思っていた次の瞬間。


「⋯ッ、カヒュッ⋯」


 お腹──鳩尾へと誰かの攻撃が入り、悠陽は空気を全て吐き出してその場に倒れ込んだ。

 そしてがん!と言う音と共に頭に衝撃が来て、視界が暗くなっていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ