2回目の悪魔狩り
資材室は偶然にも開いていた。
「出てきなさい!悪魔!」
勢いよくドアを開き、部屋に入る。
悪魔の姿は―――無かった。
(いないじゃん・・・・・・)
なんか興ざめしちゃったわ。
ため息をつきながら、ゆっくりドアを閉めた。
トン…と壁にドアが静かに当たった、その瞬間。
「ケファファファファ!」
天井から、化け物が落ちてきた。
緑色の体に、白い髪。カエルみたいな全身。
うわぁ。キモぉ。
「貴様だな、悪魔を狩る人間は。このネメネメが、地獄に叩き落としてくれるっ!」
そう宣言すると、カエル足で跳んできた。
軽く左にはねて避ける。
ネメネメとかいう悪魔は壁に激突。
体が軟らかいから、傷つくことも壁を壊すこともなく、ぶに〜ってなった。
「ふうむ。すばしっこい小娘だな」
「キモいんだよ黙れ。てか、何であたしのこと知ってるわけ」
第一声が『貴様だな、悪魔を狩る人間は』だし。
なぜかこいつは、あたしのこと知ってるみたい。
「サタン王が復活した疫病神の気配を探知したのだ。エクスポーズとなった、お前の気配もな」
なるほど、そういうこと。
グレッ厶はバカにしてたけど、サタンも雑魚じゃないみたいね。
「サタンに命令されて来たんだ」
「いいや違う。俺の意思で来た。人間の世界で好きにやるのを邪魔されたくないからな」
「好きにやるのってさ、殺しも入ってんの」
「もちろん。貧弱な人間共を殺して一気に50万も稼げる。こんな良い話が他にあるかってんだ」
「そう。だったらあたしも譲らないわ。金のためだけに殺すとか、人間の命甘く見てんじゃねぇよ!」
言うと同時に、爪で裂きにかかった。
ネメネメは右に避けた。
「ケファファ。ひょろい小娘だからすぐ死ぬと思ったが・・・・・・これは楽しめそうだ」
嬉しそうに口角を上げた。キモいんだよやめろ。
すると、ネメネメは急に舌を伸ばしてきた。
あまりにも速くて避けられず、腹にぴたりとくっついた。
「ひっ」
ガチやめろ!ねばねばしてるし、キモすぎる!
爪で切り裂こうとした―――でも、できなかった。
(軟らかすぎる・・・・・・)
ネメネメの舌も体も、衝撃を吸収する低反発の軟らかい物質。
今度は離そうとした。けど粘着力が強くて、全然離れられない。
「ほへはへひゃはいふぉ!(これだけじゃないぞ!)」
舌を出してるせいで喋りづらいみたい。
「は?何言ってんの?」
ネメネメはニヤリと笑って、顔をぐわっと上に動かした。
それに伴って舌にくっついてるあたしも動く。
「キャアァァァ!」
そして勢いよく顔を振り下げた。
あたしはすごい勢いで床に叩きつけられた。
「ぐぅっ、げほぉっ」
痛い・・・・・・。
腹を抑えて、咳き込む。
「ケファファファ。いふぁいふぁふぉう?(痛いだろう?)」
「げほっ、げほっ。てめぇ・・・・・・」
「まはまはふふふほ!(まだまだ続くぞ!)」
必死に裂いたり、外そうとしたりしたけど、やっぱり無理。
舌をしならせ、あたしを打ちつける。
次は天井に。その次は壁に。再び床に。それを繰り返す。
時折、立てかけてある看板とか、使われてるか分からない棚なんかに当たる。
正直、床や壁よりも痛い。
「うぐっ、げほっ、がはっ、ぐっ・・・・・・」
痛すぎて、苦しくて、声も出せなくなった。
もう、戦う力は残ってない―――
「ふぉほふぉほ、ほはひひひふょう(そろそろ、終わりにしよう)」
ずるずると無抵抗になったあたしを引きずって、舌を縮めて口に近づける。
(食べられるのかな・・・・・・)
もう逃げられないよね。
生きるのを諦めると、人はとても無気力になるらしい。
もう腕を上げる力も湧いてこなかった。
色んな人の顔が脳裏をよぎる。
霞、角山、涼波、剛沢、より子さん、グレッム、そして疫病神。
過去の色んな瞬間がフラッシュバックする。
これが走馬灯?あたし、もう死ぬんだ。
さよなら、皆―――。
「諦めんの、早すぎだろぉぉ!」
ガラスを破って、誰かが教室に入ってきた。
ゆっくり首を回してそっちを見る。
そこにいたのは、グレッ厶と疫病神。
ガラスを破ったのはグレッムみたい。少し顔から出血してる。頭突きしたの?
「諦めんなよ!お前の覚悟は、その程度かよ!」
言うと同時にネメネメに向かって発砲した。
持っていたのは拳銃。黒くて、禍々しい触手みたいなデザインの。
「ボワファッ!」
頭に命中して、ネメネメはぐらりと姿勢を崩した。
休む間も与えず、疫病神が鎌を振り下ろす。
斬れるわけない―――そう思っていた。だけど。
鎌の刃は舌の肉を貫通した。そう、斬ったの。
「え・・・・・・?」
「ギャアアアアアア!」
ネメネメの舌は音と蒸気を立てて、一部が離れていた。
疫病神はゆっくりと静かに下りた。
よく見ると鎌から液体が滴り落ちてる。
強酸?斬ったっていうより溶かしたってこと?
「ひさふぁあ、ひざふぁあ!(貴様ぁ、貴様ぁ!)」
ネメネメは舌を縮めつつ、疫病神を睨みつけた。
「はい?何ですって?」
疫病神は、耳を傾け『よく聞こえない』と言わんばかりの顔をした。
「ぐっ。ううぅ・・・・・・」
「油断すんなよ!」
グレッムがまた横から発砲する。
「ゴワアアア!!」
攻撃を受け、ネメネメは倒れる。
「疫病神!少しの間、ヤツを引きつけてくれ!」
グレッムはそう言うと、あたしに近づき背中に触れた。
すると、何だか温かい感覚が伝わってきた。
お風呂に入ってるみたいな、ぽかぽかとした感じ。
「何、してるの」
「回復魔法だよ。全回復とはいかないが、動ける程度には治せるはずだ」
「まだあたしに戦わせる気?」
少しの間、グレッ厶は黙ってた。
「ああ。そうだな」
「ははっ。やっぱり―――」
「でも」
また一拍空けて、グレッ厶は続けた。
「そう思ってるのは二割程度。未来ある奴が死にまくる地獄なんて、見たくねぇよ・・・・・・!」
振り絞る声で答えた。嘘だとは思えない。
「本当なの・・・・・・」
「ああ。だから無理すんな。逃げたいって思ったら逃げてもいい。ほら、あるだろ?日本の言葉で、逃げるは恥だが―――えっと、この後は」
「逃げるは恥だが役に立つ?」
「ああ。それだな」
「そっか」
フフッと笑いがこぼれた。
グレッ厶は思ったよりもずっと、良い奴なのかもしれない。
あたしは体を起こして、う〜んと背伸びする。
すごい!全然痛くない!
「戦うのか」
「まあね。あんなヤツに負けるなんて嫌だし」
軽く腕や脚を伸ばして、姿勢を低める。
一気に力を解放して、速く走るために。
「俺も援護する。無理すんなよ」
「分かったわよ」
さて、反撃といきますか!




