そもそも悪魔とは
「そういえば昨日はどうしたの?」
帰り道。
前でグレッムと並んで歩いてる、疫病神に聞く。
あたしが一人で帰ろうとしたら、暗くなって危ないからと勝手についてきた。
前にいるから“ついて来る“とはちょっと違うかも。
「どうしたとは?」
「泊まるとこないって言ってたじゃん」
「ああ。それですか」
「うん」
「グレッムくんのお家に泊めさせていただきました」
「え。悪魔って家持ってんの」
「そりゃあ持ってるだろ」
「持ってたとしても、どこで暮らすわけ」
「もちろん悪魔の国だ」
悪魔の国・・・・・・!?
「そんなのあるの!?」
「あるぜ。1000年くらい前の悪魔達が開拓した土地がな。ま、小さいけど」
へー。初耳。
ん?あれ?ていうか――
「だったらさ、そこにいる悪魔達を殺せば良くない?」
「レミィさん」
疫病神が顔をずいっと近づけてきた。
なに?キモいんですけど。圧すごい感じるし。
「な、何?」
「私は人間界に潜む悪魔共を狩ってほしいと言いました。悪魔の国で平和に暮らす者達は対象外です」
「はあ?めんどっ」
あたしは顔をそらす。すごい怖かったから、こいつが。
疫病神はすっと、あたしから一歩離れた。
「その条件でお願いしますね、レミィさん」
「はー。分かったわよ」
その後、あたし達は話すことなく歩き続けてた。
でも。ふと、あたしの中で疑問が生まれた。
(そもそも悪魔って何者?)
今までただ『悪魔』って認識してたけど。
それ以前に、悪魔をよく知らない。
疫病神から「快楽と欲の塊」って聞いたぐらい。
グレッムの後ろ姿を見つめるうちに、頭に浮かんだ。
「俺の背中、何か付いてるか?」
視線に気づいたみたい。
まあ付いてるけどね。立派な翼が。
「別にそうじゃなくて。そもそも悪魔ってどんな存在なのかなーって、気になっただけ」
「え?疫病神から教えられてないのか」
「うん。詳しくは」
「ああ、そういえば。してなかったですね」
「あんたなぁ」
グレッムが額を押さえて、ため息をつく。
「それでな。レミィ」
「え。いきなり呼び捨て」
「嫌?」
「嫌じゃないけど、急に馴れ馴れしいなって」
「そうか。それは置いといてだな。悪魔は、人間からこぼれ落ちた欲と魔力が合わさってできた存在だ」
「へー。欲ってこぼれ落ちるもんなんだ」
「ただこぼれるんじゃない。人間が死んで転生する時に、まっさらな赤ん坊に産まれるよう、削ぎ落とすんだ」
「え。生まれ変わりって、ほんとにあんの?」
「ある。命は完全に消えて無になるんじゃない。一度生まれた命は簡単には消えない。何度も廻る」
「へえ、そうなんだ・・・・・・」
なんか壮大な話。
「人間から削ぎ落とされた後、その欲望やら何やらは、悪魔の国に集められる。そして―――なんやかんやあって、悪魔になる」
え?
「なんやかんや・・・・・・?」
「俺もどうやって悪魔が生まれるか知らないんだよ」
照れてるのかも。頭をポリポリかいて目が泳いでる。
「悪魔のこと調べようと思わなかったの」
「思った。サタンの城に何かしら秘密があるのは分かったが、奴が頑に入るなって」
「サタン嫌いなんじゃないの?従ったわけ?」
「無理やり入ろうとしたけど、捕まってな。釈放はされたものの、入れなかったんだ」
「不法侵入したわけ?」
「まあな。サタンは大臣と兵士以外、城に入れないからな」
「それで諦めたの?」
「いや。その後も侵入を試みたが毎回見つかって、ことごとく失敗。28回で諦めたよ」
逆によく28回も侵入しようと思ったな。
あと処刑されずに済んだな。
「少なくとも。俺らが生物じゃないこと、有性生殖じゃないことも分かったか」
「ゆうせい・・・・・・?」
「オスとメスで生殖することだ。それが無いってことは、必然的に親子関係もなくなる。俺ら悪魔は互いに何の繋がりも無く、各々が分かれているんだ」
「へえ・・・・・・」
悪魔って、そんな変わった存在だったんだ。
あれ?でも―――
新たな疑問が生まれた。
「あの三人組殺したとき、真っ黒な血が出てきたんだけど?」
もし悪魔が生物じゃないのなら。
それはおかしいんじゃない?
グレッムは違う違うと首を横に振った。
「あれこそが、人間から削ぎ落とされた欲望だ」
「え!?あんなキショい物なの?」
「まあ、気持ち悪い見た目してるよな。それらは俺達を構成してる物で、人間の筋肉や血液なんかと一緒なんだよ」
そこまで言うと。グレッムは顎に手を当て、考えるような素振りを見せた。
「真っ黒だったってことは―――あいつら、まだまだ若いな。生まれて3年くらいってとこか」
あいつら3歳!?ガキじゃん。
「成長すると色変わるの?」
「他の色が混ざるだけだ。混ざる色は、鮮やかだったり淡かったりしないけどな。澱んでる」
「へえ。そうなんだ」
悪魔について知れた帰り道だった。
△ △ △
「じゃ。ここからは大丈夫だから。あとちょっとだし」
施設の一つ前の曲がり角で二人を引き離す。
―――施設で暮らしてることを知られたくなかったから。
「ここの角曲がれば、“タンポポの園“だもんな」
「は?」
「暗くなる前に着いてよかったですね。じゃないと、より子さんの雷が落ちるところでしたし」
「は??」
“タンポポの園“は施設の名前。
何で知ってるの?あと、より子さんのことも―――
「何であんたら知ってるの―――?」
既に知っていたことが信じられない。
少し呆然とした状態で問いかけた。
「調べたからな。お前のこと」
「私も」
「なっ・・・・・・!?」
人のプライベートを―――!
「何勝手に調べてんだ!!」
「おわっ」
「おおっと」
二人に向かって蹴りかかる。けど、避けられた。
「ケンカっ早いなーほんと」
「危ない危ない」
「うぅぅ・・・・・・ぐぐぅ」
悔しくて、唸り声まで出た。
「猛獣か?お前は」
「ふっざけんなよ!!知られたくないこと、いつの間にか調べられてた、こっちの身になってみろ!」
視界が少し滲んでた。涙ぐんだあたしを見て、グレッムは驚いた顔をした。
「悪かった。お前の気持ち考えずに調べたの」
「反省してんの!?」
「ああ―――」
グレッムは眉を寄せ、心苦しそうな表情をしてた。
・・・・・・悪いとは思ってるみたいね。
一方、疫病神は―――
「何笑ってんだテメェ!!」
ニヤニヤしてた。
「反省しろぉぉぉ!」
「おっと」
殴りかかったけど、避けられた。
「あんた、申し訳ないって思ってないのか」
「不快そうな表情もいいなって思いまして」
「「変態だな。あ」」
あたしとグレッムの声が重なった。
「じゃ、あたし帰るから」
あたしは二人の顔も見ずに施設に入った。
△ △ △
「じゃあ、俺達も帰るか」
「ですね」
「あの」
俺と疫病神が振り返ると、髪を下ろした眼鏡の少女がいた。
「君は?」
「わ、私は獄炎 霞と申します。レミィちゃんの友達です」
霞と名乗る少女は、こちらを威嚇してるみたいだ。
レミィとは対象的なタイプ。この子が友達というのは、ちょっと意外だ。
「あ、あなた達、レミィちゃんとどんな関係なんですか!変なこと、考えてませんよね!?」
睨み、手足を震わせながら聞いてきた。
あー。怖がってるなー。
「ただの友達だよ、俺らも」
「う、うう、ウソついたって分かりますから!悪魔みたいなコスプレを普通にしてる人と、明らかに年上の男性が友達なんて―――信じられません!」
だよな。そう言われるよな。
人間に見える幻想魔法を使っとけばよかったな。
「あなた達は信用できません!金輪際、レミィちゃんには近づかないでください!」
それだけ言うと、霞ちゃんは施設に入って行った。
「今ので効果あったと思ったのかね?」
「本当に悪い人に言うとしても、今のじゃダメでしょうねぇ」
俺達は顔を見合わせ、同じように肩をすくめた。




