薄情な悪魔
「―――ん。―――ちゃん。レミィちゃん起きて」
「ん?うん・・・・・・」
体を起こすと、傍に霞がいた。起こしてくれたみたい。
「ありがと。霞」
「うん」
制服に着替えて、食卓に向かう。
その最中。
「ねぇ。レミィちゃん聞いた?」
「何を」
「昨日速報で入ったニュース」
速報で?そんなんあったっけ。
昨日はメディアに全く触れずに寝たから知らない。
「いや聞いてない」
答えると、霞は耳元で囁くように話した。
「あのね。ここらで有名な心霊スポットになってる、廃墟のホテルあるじゃない?そことその周辺の森が焼け焦げたってニュース」
「あ・・・・・・」
ああ。じゃあやっぱり昨日のは―――
「現実なんだ―――」
「え?レミィちゃん、どうしたの?大丈夫?」
霞の気遣いにも応えず、あたしは落胆していた。
朝食を終え、支度をしてると。
「ん?何これ」
机の上に、変な付箋があることに気づいた。
付箋なんて使ってないのに。
そこには『放課後、学校の屋上に来てください』というメッセージがあった。
筆跡は霞じゃない。より子さんのでもない。
じゃあ他の子?でもこの字、なんかヨレヨレ。
子供の字っていうより、大人の字って感じ。
一体誰が―――
「なにしてるのレミィちゃん!遅刻するわよ!」
はっとした。そうだ今から学校行かなきゃ。
付箋のことはとりま置いといて。
急いで施設を出た。
△ △ △
放課後。
てか時飛ばしすぎでしょ。この間色々あったのに。
あたしは屋上に向かった。
何となーく書いた奴が分かったから。授業中に。
屋上のドアを開けると―――
やっぱり奴がいた。
「お疲れ様です、レミィさん」
「やっぱり。疫病神だったんだ」
昨日と変わらない姿の疫病神がそこにいた。
「あたしをここに呼んだ理由は?」
「我々の新たな仲間を紹介しようと思いまして」
「仲間?」
え?仲間?いつの間に入ったの?
「いいですよー」
疫病神が合図を出すと―――
少し離れたところに何者かが現れた。
黒い翼を持った、全身黒い悪魔。
って!こいつは―――!
「テンプレ悪魔!」
「何だよその呼び名!?あのバカ三人組から名前聞いてないのか?」
「いや聞いてる。確か、グレッムだっけ」
「ああ。俺はグレッム。よろしくな」
腕を伸ばしてきた。あたしはちょっと離れる。
「ただの握手だぞ?」
「いやだって。悪魔は敵だし。てか何でこっちに来たわけ?どういう風の吹き回し?」
悪魔達は頭が悪い。でも嘘はつける。演技もできる。
だから信用しない。
あたしに離れられてグレッムは。
「確かに信用ならんかもな。じゃあ疫病神、アレ出してくれ」
アレ?アレとは?
「了解しました。アレですね」
すると懐から一枚の巻紙を出した。
紐を解いて、紙を広げる。
そこには―――何かが書かれていた。
いや読めないわよ!日本語でも簡単な英語でもないんだから!
「何それ」
「これは契約書です」
「契約書?」
そんな物、なんで今見せてきたんだろう。
「内容としては『グレッムが協力する代わりに、疫病神は神や魔術の知識を与える。ただしグレッムが人を殺した場合は死を持って償う』ってことが書かれてる」
「はあ!?」
驚いた。そんな契約結んでたなんて。
てかそれで得られる物って―――
「あんた、神と魔術の知識が欲しくて協力したの?それを得て何がしたいの?」
聞くと、グレッムはきょとんとした表情になった。
「別に何かがしたいって訳じゃないが」
「え?じゃあ何でそれらが必要なの」
急に俯いて肩を震わせた。
「どうした?」
「必要?そういうんじゃねーよ!俺はぁ!ただ知りたいんだよぉぉ!!」
「へっ」
いきなり大声出したからびっくりした。
グレッムの勢いは止まらない。
「俺はな、昔から知識欲が旺盛だった。新しいことを知れるのが最大の喜びでな。よく本を読んで、知識を蓄えていた。いつからか神と魔術に興味を持ち始めて。様々な本を読み漁り、仮定づけ、ついには実験や発明も始めた」
「グレッム?」
なんか一人語り始まったんだけど。
「実験すればするほどに知識欲は強くなっていった。成功しても失敗してもだ。でも、そのうち資料は集め終えてしまった。もう情報源は無くなったんだ・・・・・・」
ため息をついてうなだれた。そんな悲しむこと?
「しかし!」
急に顔と声を上げた。
「奇跡が起きた!疫病神が長い眠りから覚め、再び悪魔狩りを始めたぁ!俺はあんた達を見て思った。こりゃもう仲間になるしかないと。そして!さらに知識を深めたいと!」
「ハーッハッハッハッハ!!」と大笑いするグレッム。
悪魔って変なやつしかいないのかな。
「仲間を裏切ることになってもですか?」
疫病神の質問に大きく頷いた。
「さらに神や魔術について知れるなら、あんな馬鹿どもの命なんてどうでもいい!」
何こいつ、薄情すぎるでしょ。
自分の知識欲のために仲間を裏切るなんて。
「サタン王は恐ろしくないのですか?」
「あんな、不良グループのイキってるリーダー的なやつ尊敬も信頼もしてねーよ。あいつの命なんざどーでもいい」
「薄情だなほんとに!?」
ついに口から出た。
「と。そんな理由だ。改めてよろしく」
勝手にまとめて、また握手を求めてきた。
「それだけで信用すると思う?」
あたしはまだ信用しない。
「レミィさん。そんな警戒しなくても」
「うるさい。てかあんたは何ですんなり信用したわけ!?」
全く警戒しない疫病神が不思議で仕方ない。
「素敵な物を作ってくれましたからね」
「は?」
素敵な物?
「あー。そういえば言ってなかったな。ちょっと待っててくれ」
そう言うと屋上の柵に近づいていった。
「グレッム?」
そして―――飛び降りた。
「え?は!?ちょ―――」
慌てて柵まで駆け寄る。
だって目の前で人―――いや悪魔が飛び降りたんだもん。
そりゃ誰だって焦る。
見下ろすと、グレッムは翼を風に乗せて滑空してた。
「は?」
無事だったのかよ!死んだかと思ったわ!
「あ〜あ。心配して損した」
「心配してあげてたんですねぇ。レミィさん、お優しい」
なっ―――!
「別に仲間って認めたわけじゃないから!飛び降りたら全然知らない人でも心配するでしょ、普通!」
「はいはい」
こいつ、ほんとムカつくぅぅぅ・・・・・・!
するとグレッ厶が突然現れた。
「それ、どうやってんの?」
「それ?ああ、瞬間移動のことか。フツーに魔法」
「フツーに魔法って・・・・・・」
あたし達にとって魔法って非日常なんですけど。
さっきと違って、今度はリュックを背負ってた。
「何持ってきたの」
グレッムは答える代わりに、リュックを下ろして中を漁り始めた。
「んーと。確かここに―――お。あった」
取り出したのは―――黒猫のストラップ?
「何それ」
「お手軽にエクスポーズに変身できる道具だ」
「え」
驚いた。まさかそんな物だったとは。
てか『お手軽に』って。変身と家事は違うわよ。
「これを使えば、長ったらしい詠唱を唱える必要が無くなる!それに加え、2秒で変身できる!」
「2秒!?」
短っ!?この前のなんて30秒くらいあったのに。
「さあさあ。このすごい変身アイテム、受け取らないわけないだろう?」
なんか通販の人みたいな宣伝してきたんだけど。
「ま、まあ。それで本当に2秒で変身できるなら」
「じゃあ使ってみるか?」
「まあ、とりあえずね」
グレッムから手渡され、まじまじとそれを見つめる。
モフモフの体の黒猫は、キラキラと瞳が輝いてた。
デコストーンかな、これ。
「目に魔石を埋め込んで変身の魔法を刻んだ。あとは発動のきっかけとなる言葉を決めるだけだ」
あ。これ魔石なんだ。
「てか、きっかけとなる言葉って。言う必要ある?」
「触るだけで変身できるようにしたら、生活しづらいだろ」
「あ。確かに。でもどんな言葉にすれば―――」
「別に何でもいい。『変身!』でも。その道具に『あ。これを言ったら発動すればいいのか』って覚えさせればいいんだ」
「ふうん。じゃあ―――」
あたしは二人から少し離れた。
そのストラップを左手に持って、天高く上げた。
じゃあここはシンプルに―――
【エクスポーズ!】
そう声を張って唱えた瞬間、またあの光に包まれた。
でもそれは一瞬で終わって。
光が消えたとき、あたしは変身してた。
え!?すごっ!
「な?すぐ終わったろ」
グレッムがニヤニヤ笑いながら、話してきた。
「マジでヤバいわ、これ」
あたしはじっくり感動を噛み締める。
そうしているうちに、変身が解けた。
「レミィさん。感動してる所、悪いと思いますけど。私の話も聞いてくれませんかね」
ここまで黙ってた疫病神が、話しかけてきた。
「ん?何?話って」
「グレッムくんは、私のためにも道具を作ってきてくれたのです」
「へー。どんなの?」
答える代わりに片手を伸ばし、手の平を立てた。
すると、手の平に小さな闇?が渦巻いた。
その中から現れたは―――鎌!?
デカい鎌。死神が持ってるようなやつだ。
全体が現れると闇が消え、疫病神は鎌の柄を持った。
「それがあんたの道具?」
「ええ。魔力を調節できない私に、武器を作ってくれました」
「へー」
「新たな仲間への手土産にってことで。徹夜で作ったんだぜ?」
フフンと得意げなグレッム。
「まあ。ここまでやったなら、ちょっとは信用してもいいかもね?」
ほんとはかなり信用してるけど。
徹夜で手土産を作って、持ってきてくれた訳だし。
「じゃ。三度目の正直。改めてよろしく!」
「こちらこそ」
今度こそ、ちゃんと握手した。
こうして、あたし達に新しい仲間が増えた。




