神様の力ってすげー
「君は〜ほ〜んとに〜お〜こり〜ぽいね。まった〜く・・・・・・え?」
ニコラスは目を見開いて止まってた。
そりゃそうだよね。さっきまで雑談してた仲間が、ズタボロで大量出血して動かないんだから。
「オーセキ・・・・・・?」
近づいて声をかけるも反応なし。
これで悟ったと思う。彼は死んだって。
「なんで?」
ニコラスはゆっくりこっちに向き返った。目には涙が溜まって、口はわなわな震えてた。
「なんでなんでなんでなんでなんで!!なんで彼を殺したんだああああ!!」
絶望の咆哮。それは冷たいコンクリートの壁に消えた。
「う、うぅ、うぅぅ〜〜〜」
悔しそうに唸りながら、ボロボロ涙を流してる。
さすがに罪悪感が湧いた。
でも。あたしにだって譲れないものがある。
人の命を奪う奴、侮辱する奴は許せない。
どんな奴でも。どれだけ周りから愛されていても。
それがあたしの信念だ。それだけは譲れない。
それにあたしは、オーセキを葬った。ならもう悪魔の敵だ。
ちゃんと答えて、ちゃんと殺そう。
「人を殺したから」
「え?」
「それが彼を殺した理由」
「・・・・・・」
ニコラスは何も言わずにオーセキの亡骸を見つめてる。
「確かに。オーセキは沢山殺したね」
いつもの間延びした喋り方じゃなかった。
静かに淡々と、述べている感じの喋り方。
「サタン王が決めたことでね。人間一人を殺すごとに50万円支払われるっていう制度があるんだ。謎だよね。まぁ噂によるとサタン王が“人間差別主義者だから“らしいけど」
吐き捨てるような言い方。
「オーセキはそこそこ稼いでたよ。沢山殺してたから。それを悔いることもなく、むしろ自慢してた。だから人間達に恨まれるのも、君みたいに殺そうとする存在が現れるのも、当然だと思う」
そこまで言って、顔をこっちに向けてきた。
「でも!!」
急に声を張り上げたと思ったら、黙り込んだ。
唇噛みすぎ。出血してるし。
絞り出すような、恨めしそうな声で彼は言った。
「だからって殺して良いわけないだろ!!オーセキにだって死んで悲しむひとがいる。ぼくがその一人だ!世界がぁ!君のしたことを正しいと言っても!ぼくは君を絶対に許さない!!」
ニコラスは口を開いて、あたしに向かってきた。
初めて知ったけど、牙生えてるじゃん。
尖りすぎ!長すぎ!
ちょっとびっくりしたけど、余裕で躱す。
「ああああああああ!!」
もうヤケになってる。声をあげて、とにかく突っ込んでくる。
彼にとってあたしは友の仇。
何としてでも殺したいのか、何度も諦めずに襲ってくる。
今度は避けつつも、爪を立て顔を裂く。
「ぎゃああああああ!!」
悲鳴をあげて、ついにニコラスは止まった。
動かなくなったニコラスをあたしは見つめた。
ただじっと。何の理由も感情もなく。
「ニコラス君の先ほどの話、事実なのでしょうか?いや、そうだとしたら―――」
隣で疫病神がぶつぶつ何か言ってる。
「うるさい。知るかよ」
ほんと空気読めない奴だな。
「事実だ」
え!?誰?
声のした方を見ると、そこにいたのは貞○。
そういえば忘れてたけど、こいつもいたわ。
初めて声聞いたけど、めちゃイケボじゃん。
「それにしては死者が少ないのでは?」
「別に人間狩り以外でも稼げる。それにお前が思うほど、悪魔達はサタン王に忠実じゃない。だから人間狩りは、ぼちぼちやってるんだ。故に死者数はあまり多くない」
顔をうつむけて、こっちを見もせず答えた。
「自己紹介がまだだったな。おれはドゥー厶」
ドゥー厶。
貞○とは似ても似つかない名前だった。
「ドゥー厶君は私達のこと、どうします?」
疫病神が尋ねた。
すると、ドゥー厶の肩が震え出す。
「ドゥー厶君?」
「ははは、あははは、ひゃっははははは!!!」
背をそらし、天を仰いで、腕を広げて、大笑いした。
狂ったように笑い続け、急にピタリと止めた。
そして、ゆっくりとあたし達の方を見る。
「殺すに決まってんだろ、阿呆ども」
やっぱり、そうなるか。
ドゥー厶は懐からクナイみたいな刃物を取り出して、投げつけてきた。
全部で十五本くらい。
あたしは素早く動いて避けたり、爪を伸ばして弾き返したりした。
「クソ!!」
尽きたのか、悔しそうな声を出した。
それに無意味に手をバタバタさせてる。
だいぶ焦ってんだなこいつ。
じゃあ反撃開始!
あたしは全速力で奴の腹に突っ込んでいった。
爪を立て、腹を裂こうとした。
その瞬間。
奴の長すぎる髪が、あたしの体に巻きついた。
さらに、足が届かないくらい高い位地に持って行かれた。
「はあ!?」
ウソでしょ!?さっきの演技!?
ヤバい、まんまと引っかかった。
てか首に巻きついたやつ、力が強くなってる!
「ぐ、うぅ、ぐうぅぅぅ―――」
苦しい、苦しい、苦しい苦しい苦しい苦しい―――!
奴の髪を掴み、足を振り、必死に抵抗する。
―――無意味だと分かっていても。
ヤバいヤバいヤバい、絞め殺される・・・・・・!
「じゃあな。地獄で二人に詫びろ」
最期に奴の言葉を聞いて、あたしの意識は切れた。
△ △ △
暗い。狭い。息苦しい。
ここはどこ?どうしてここに?
気づいたら、あたしは全然知らない場所にいた。
そこは暗闇。
先も後も上も下もない、ただの真っ暗闇。
多分さっきの攻撃で死んだんだろうけど。
じゃあここって三途の川?いや、川無いんだけど。
とりあえず辺りを調べてみようか。
ここは閉塞感があって、得体の知れない恐怖があった。
とにかく走った。走って走って走り続けた。
でも何も見つからない。出口も人も。
恐怖と疲れでもう―――泣きそう。
その時。
向こうから何かが迫ってきた。
こんな暗闇でも確認できるくらい明るい何か。
しかもかなり速い。
その“何か“が3mくらいまで近づいてきたとき。
それが光の手の群れであることが分かった。
およそ十本。
そしてそれらは、一瞬であたしの体を包みこんだ。
―――温かい。
包まれた瞬間、感じたこと。
ただ温かくて、何か優しくて、どこか心地よくて。
心の底から安心できる空間だった。
もし胎児の時に何かを感じられるなら。
子宮の中はこんな感じなのかな。
そんな表現が思いついた。柄じゃないのに。
てか瞼が重たくなってきた。ヤバい寝る。
でもいいか寝ちゃっても。だって脅威は何も無い。
あたしはただ、これに身を委ねればいいんだ。
この空間に全てを―――
「寝ちゃダメですよー。レミィさん」
△ △ △
「え?」
目を覚ますと、疫病神が傍にいた。
あたしは奴の胸に頭を乗せてた。
うおいっ!
バッと奴から離れる。
「気づきましたかね」
「変なことしてねーだろうな!?」
「してませんよ。一度死んだあなたを、安全な場所に運び蘇生を待っていただけです。死んだレミィの姿、とても美しかった・・・・・・」
頬を赤く染めて、恍惚の表情を浮かべる疫病神。
え―――?
全身の毛が逆立ったと思うくらい、気味悪かった。
死体に興奮する癖。
気味悪さと恐怖で、あたしは奴の腹を抉る。
「痛ぁい。ひどいじゃないですか」
足を踏まれたときと同じ反応。
いや腹抉ったんだけど!?何こいつバケモノ!?
「なぜいきなり攻撃してきたんですか」
腹を擦りながら聞いてきた。
「近づくな!話しかけんな!」
とにかく拒絶した。
目の前にいる奴が恐ろしくて、気持ち悪くて、たまらなかった。
死体に興奮するのなら、死ぬ姿が見たかったのなら。
さっきドゥー厶に殺されたときに、助けなかったのも合点がいく。
「あたしの死ぬ姿が見たくて助けなかったわけ!?最っ低だな、てめぇ!!」
「まあ、それもありますがね」
平然と答えやがった。悪いとか思ってないのかよ。
あとそれもあるって―――。
「どういうこと?」
すると疫病神はあたしから目を逸らした。
「いや〜、それがですねぇ。私、上手く魔力を調節できなくて・・・・・・」
目を泳がせて、動揺が丸分かり。
「調節できないって。あんた神でしょ」
「神にだって得意不得意がありますよ」
「えー?本当は弱くて戦えないの隠してんじゃないのー?」
煽る口調で言ってみる。実質、煽ってる。
調節できないのが信じられないのが、理由の半分。
もう半分はドゥー厶を代わりに倒してほしいから。
この煽りでカチンときて倒してくれたらいいのに。
でも疫病神は。
「まあ別に。私の力を見せる訳にもいきませんから」
と冷静に対応した。“見せる訳にもいきませんから“って。
どういうこと?
「なにー?見せるレベルでもないほどショボい訳ー?」
さらに煽って探ってみる。
「その逆なんですがね・・・・・・」
「逆?」
「この話は終わりにしましょう」
勝手に話切り上げやがった。
「さ、レミィさん。いってらっしゃい」
こいつ、まだ戦わせる気だ。
分かってないかもしれないけど。
あたしは今、すごく怖がってる。
蘇生してから指先が微かに震えてる。
体も心も死の恐怖に怯えてる。
それなのに戦わせんの!?
「はあ?あんたは戦わず高みの見物して、あたしは死と隣り合わせの危険な戦いしろっての!?」
この怒りとSOSをぶつける。
叶うことなら、もう奴とは戦いたくない。
お願いだから、代わりに戦って。奴を倒して。
「レミィさん」
疫病神はどこか失望した顔をした。
そして。
「分かりました。あなたのその願い、届きましたよ」
なんだか不満げな態度。
いいでしょ、あんたは!死なないんだから!
「お前―――」「はい。どうぞ」
文句を言おうとしたら、何か渡された。
それは―――。
「懐中時計?」
銀色の懐中時計だった。
中身もシンプル。
黒い数字が白い文字盤に書かれてるだけ。
「それは《神心の懐中時計》。レミィさんのことを守ってくれますよ」
「はあ・・・・・・?」
懐中時計があたしを守ってくれる?
どうやって?どう見てもただの懐中時計ですけど。
あたしがわけ分かんなくなってるうちに、疫病神は歩き出してた。
「じゃあ行ってきますね。あ。レミィさん」
けど。何か思い出したのか、突然寄ってきた。
「なに?」
奴は顔を近づけてきた。キモいって。
「ぜっっったいに。その時計、持っていてくださいね」
「え」
そう言う奴の顔は、とても真剣だった。
これは命に関する警告―――
そう感じさせた。
疫病神はくるりと背を向けると、さっさと階段を上っていった。
(あ。ここ、1階なんだ)
今更ながら気づいた。
ガタッ。
(ん?何か音した?)
物音がした・・・・・・気がした。
辺りを見回すも誰もいないし、何もない。
気のせいだったのかも。
疫病神が去ってから少しして、怒号のような声が聞こえた。
これはドゥームのだと思う。
何言ってるか分かんないけど。
ものすごく怒っているのが伝わる。
怒りを、悲しみを、苦しみを訴えてる。
それが伝わると、また罪悪感がこみ上げてきた。
胸が苦しい。息を吐いても吐いても、苦しみはおさまらない。
そのとき。
声が突然止まった。
代わりに―――
「ぎゃああああ!!!」
悲鳴が聞こえてきた。
疫病神がドゥームに攻撃してるんだ。
悲鳴だけじゃなく、物を落として割るような音もする。のたうち回ってるのかも。
一体どんな攻撃してるんだよ、あいつ。
すると。
コン、コロロ…
空き缶の転がる音がした。その次の瞬間。
あたしの視界を赤色が包んだ。
ゆらめく赤色。形の定まっていない赤色。
最初、何かわからなかった。
分からないうちに、あたしは赤に包まれた。
(熱い!熱い熱い熱い!!)
分かった。これは炎だ。
熱を感じて、やっと正体が分かった。
だけど安堵できる状況じゃない。
こんな炎に包まれたら―――
(焼死する!!)
怖くて、その場にうずくまる。
でも、炎があたしに燃え移ることはなかった。
ゆっくり顔を上げると。
(え・・・・・・?)
あたしの周りだけ、炎が近づいてきてなかった。
まるでバリアを張っているみたいに。
炎があたしだけを避けてた。
これってまさか―――
手の中の懐中時計を見つめる。
本当にあたしを守ってくれた・・・・・・?
「ええっと。その、ありがと」
懐中時計に礼を言うなんてバカらしいけど。
それが一番正しい行動だと思った。
そんなとき。
急に炎が消えた。
辺りを見回して愕然とした。
もう、焼け野原だった。
廃墟の跡なんて全くない。
周りの草木も全部焼け焦げてた。
オーセキもニコラスも、そしてドゥームも。
全部燃えて無くなったと悟った。
「ね。言ったでしょう?」
振り返ると疫病神がいた。
呆れたような表情で「やれやれ」とばかりに肩をすくめた。
「調節ミスったの?」
まだ呆然としてたけど、口が動いた。
「はい。途中までは上手くいってたんですが、空き缶に躓いてしまって」
あ。あの音、躓いた時の音か。
え?てか『躓いた』・・・・・・?
躓いただけで、この威力・・・・・・?
こんな力を持ってるだなんて。
神様の力ってすげー。
唖然としてると変身が解けて、元の姿に戻った。




