噂になっている悪魔
「うそ・・・・・・!午後の授業始まっちゃう!」
「何がまずいんですか」
「あたし昼ご飯の前だったんだけど!?」
「あ。そういえばそうだったな」
「それは残念でした。レミィさん、午後も頑張って」
疫病神が腕を胸の前に持ってきて、拳を握った。
『ファイト!』と言わんばかりの動き、それをやろうとする軽い対応にカチンとくる。
「はあ!?昼抜きで午後頑張れっていうの!?」
午後の学生の大変さを、微塵も理解してねぇな!
「はい。だってもう、食べる時間ないでしょう?」
「ぐっ。うう〜。ちょっとグレッ厶!時間止める魔法とかないの!?」
「ねぇよ、そんなの」
「疫病神あんたは!?」
「できませんよぉ、さすがに」
「あーもう!」
あたしは全速力で教室に向かった。
昼抜きはキツイ、マジで無理。
階段は一段ずつ飛ばしながら駆け上る。
あたしは焦ってた。だから角から曲がってくる人に気づかなかった。
そうなれば当然、ぶつかる。
柔らかい感覚に押され、あたしは尻もちをついた。
「いった。ちょっと、気をつけて―――」
こっちが走ってたけど、あたしは文句を言いかけた。けど、止まった。
ぶつかったのが誰か分かったから―――
「あ、アサシン・・・・・・!」
悲鳴に近い声で青ざめながら、その名を呟いた。
あたしがアサシンと呼んだ彼女の本名は孤歩 月。
登校初日に、怪我してないのに血まみれで教室に入って来たことが理由で、生徒達から「アサシン」って呼ばれてる。
しかも彼女の血ではなかったらしく、その時は学校中で大騒ぎになった。
血まみれだった理由は知らない。別のクラスだし。
巨乳なんだけど、目つきが悪くて男子は近寄らない。
無口で何を考えてるか、よく分からない子。
本当に暗殺者やってるとか、親が裏社会の人間だとか、背中にタトゥーしてるとか、そんな噂を聞く。
もう皆、キラキラネームとか気にしてない。
それくらい彼女は周りから恐れられてる。
そんな子とぶつかった上に文句を言うなんて―――
ヤバい!ヤバすぎる・・・・・・!
あたしはそ〜っと孤歩の顔を見上げた。
彼女の目は鋭く、獲物を狙う猛獣のよう。
表情もむっとしてて、なんか不満げに見える。
ヤバい絶対怒ってる・・・・・・!
あたしは飛び起きて、深く頭を下げる。
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!あたしの不注意でした!」
「あのさ」
「ひっ―――!」
なんかまずいこと言ったかも。早く逃げないと!
あたしは階段の方を向いて全速力で駆け出した。
「君って―――」
彼女の言葉を聞かずに、あたしはその場から去って行った。
△ △ △
「いえーい!ラッキー!」
あたしは今、帰り道でスキップしてる。
時間は午後2時をちょっと過ぎたくらい。
なぜこんな時間に帰っているのかというと―――
資材室が爆発するなんて異常事態が起きたから、学校側が『生徒の安全を最優先する』ということで、すぐに帰らせたわけよ!
全校生徒の無事を確認するとか面倒なことはあったけど、いつもより早い時間に帰れた!
しかも明日から3日間休みだって!
「マジラッキー!ピース!!」
ピースを天高くあげ、とびきりの幸運を喜ぶ。
「ご機嫌だな」
後ろからグレッ厶が声をかけてきた。
「んっふふ。まあね〜」
「レミィさん、そんな浮かれた調子で大丈夫なんですか。これから毎日、悪魔と戦うことになるかもしれませんよ。緊張感無さすぎでは」
「それはないでしょ」
なによー。いい気分だったのに。
「ないとも言えないぞ。ネメネメはお前のことを知っていた。あいつと同じように個人的にお前を消しに来る奴、サタンに命令された奴、ただの気まぐれで殺しに来る奴。これから色々な悪魔が来るだろうな」
「めんどっ」
グレッ厶まで言ってくんの?ダルぅ。
「言っておくけどな。お前、2回負けてるんだぞ。面倒で済む話じゃないだろ」
グレッ厶が指を二本立てながら指摘した。
「あいつらの能力がキショいだけでしょー」
「お前の予想不足もあるけどな」
「ぐっ・・・・・・」
言葉に詰まった。返す言葉が―――て。いやいや!
「それ以前にさ!何か悪魔の情報とか無いわけ!?グレッ厶、悪魔の国で暮らしてるんでしょ!?」
それがあればもっと戦いやすくなるのに!
「俺が知ってんの、サタンとあの三人組くらいだよ」
「失せろボッチが」
「ボッチじゃねーし!―――あ。そういや、噂で聞いたな。ゴミの山に悪魔がいるって」
「はあ?」
ゴミの山?
「ほら。街のはずれに鉄のスクラップとか解体された自動車なんかを保管してる場所、あるだろ?あそこだよ」
「ああ〜」
あそこかぁ。確かそういう場所って、スクラップヤードって言うと思うんだけど。
え・・・・・・てか、それマジ?
「本当にあそこにいんの?悪魔なんて」
「噂だからなぁ。20年くらい前から言われてる」
「20年。もはや都市伝説じゃん、それって」
「まあ、そうだな。いない可能性の方が高いかもな」
「いいえ。いると思います」
疫病神が話に入ってきた。
「何でそう言えるんだ」
「その場所の近くを通った時、微量ながらも魔力を感じました」
マジで・・・・・・?
あたしとグレッ厶は顔を見合わせた。
「弱い悪魔ってことか?」
「う〜ん。どちらかというと、弱っている感じです。もしかしたら身動きが取れずに困っているのかも」
「ははっ。よかった、倒す手間が省けたじゃん」
敵にならないならよかった。今まで悪魔倒すの大変だったし。勝手に死んでくれるなら都合が良い。
「そうですねぇ。もう風前の灯って感じでしたし」
あたしと疫病神が一頻り笑う。―――ん?
「風前の灯?」
「もう死ぬ間際ってことか」
「死ぬ間際―――」
あたしは口をつぐんだ。
確かに悪魔が死ぬのは良いことだ。犠牲者が減るんだから。
でもそれは。人を殺す悪い悪魔の話であって。
件の悪魔が悪い奴かどうかなんて、分からない。
それに疫病神が言った通り、身動きが取れなくて困ってるんだとしたら?
少なくとも20年はその状態でいるってことだよね。
ずっとゴミの山に埋もれたままで、誰にも見つけてもらえずに孤独に最期を迎える―――。
例え悪魔でも、それはあまりにも可哀想だと思った。
だからせめて―――見つけてあげようかな。
「行ってみようよ、その場所」
「え。行くんですか」
「まあね。どんな間抜けな悪魔なのか、死に顔くらい拝んであげてもいいかなって」
そう言ったけど。これは本心じゃない。
正直に気持ちを言うのが、なんか恥ずかしかった。
「なるほど。あなたらしい」
「・・・・・・それ、どういう意味?」
あたしの性格がそんなに悪いと思ってんのかよ。
「まあまあ。行ってみようぜ、とりあえず。まだ人がいると思うから、夜になるまで待つか」
こうして、あたし達はスクラップヤードの調査に行くことになった。
三人とも気づいていませんが、この計画は普通に犯罪です。
読者の皆様は、決してスクラップヤードに不法侵入しないでください。
妖怪ウォッチ3の男の子編の第2章と内容が似てますね。
あ。でもクレーン動かすことはないので。




