4.
強い日差しが地面をじわりと焼いている。昼下がりの陽は、木々の葉の隙間から零れ落ち、不自然に黒くそびえる大木の影を揺らしていた。
「……どうやら今すぐに何かが起きる気配はないようだな」
御影は黒い大木を一瞥し、ゆるやかに背を向けた。だがその足取りには、どこか周囲を探るような慎重さが滲んでいる。
「この場所……わずかに磁場の揺らぎを感じる。夜になれば“開く”だろうな」
「開く、って……何がですか?」
戸惑いを隠せない桃原の問いかけに、御影は振り返らず、淡々と答えた。
「夜は亡者の領域だ。夜の帳が降りると、やつらが本性を現す」
その声音は低く、どこか皮肉めいてすらあった。昼の光に照らされた黒い木は、まるで何事もなかったかのように静まり返っており、桃原の胸にも微かな違和感がよぎる。
「……木が泣く、か」
御影がふと足を止め呟いた。その顔には、感情の色がまるでなかった。ただの独り言――そう思いたいのに、どこか底知れぬ響きが耳に残り、桃原はぞわりと背筋を冷やした。
「まずは礼を通す。領主館へ行くぞ」
そう言って歩き出した御影の後を、久世がすっと追う。桃原も慌てて続こうとしたところ、隣に並んだ久世がふいに声をかけてきた。
「……なぜついてくるんです?」
「え、ええと……仕事なので……」
無言で細められる目に、桃原は慌てて言葉をつけ足す。
「上司から、この村で起きたことを調査して報告せよと……ええ、一応、正式な任務なんです!」
そのやりとりを横目で聞いていた御影が、ほんの少しだけ足を止めて、小さく吐き捨てた。
「……うっとうしいやつだな」
その美しい顔には似合わない、辛辣な言葉だった。かろうじて聞き取れるほどの声量だったが、耳に入った桃原は、苦笑いを浮かべて三歩ほど距離をとることにした。
三人は背後に静かな緊張を漂わせながら領主館へと足を向ける。
まばゆい午後の光の中、ただ静かに物語の歯車が音もなく回り始めていた。
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