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帝国直属霊媒師の心霊事件簿ー夜に泣く木のひみつー  作者: 水瀬カフカ
最終章 白き守り木、継がれる想い
36/42

1.

 昼下がりの陽が、障子越しにやわらかく部屋へと差し込んでいた。

 遠くで鳥の声が聞こえる。騒がしさのない、静かな午後だった。


 部屋にはまだ、薬草の匂いがほのかに残っていた。僕は寝台に身を沈め、書き上げたばかりの報告書に目を通している。


 ――あの感動の再会のあと。

 “泣く木”のもとに二人を残し、御影様と久世さんとともに、僕たちは領主館へと戻った。


 帰りが遅くなったことで、領主様や館の女中たちが心配して待っていたが、僕たちの姿を見るなり一転、大騒ぎに。

「きゃあ!」「これは……血!?」「早く薬師を!」と、まるで誰かが瀕死で戻ってきたかのような大騒動だった。

 いや、確かに僕はボロボロだったけど。ほんの、かすり傷と擦り傷と打撲が数カ所……あと煤まみれ。

 あれ?もしかして結構ひどい?


 そんな騒ぎの中、御影様はふらりと足元をよろめかせ、そのまま崩れ落ちた。すかさず久世さんが受け止め、従者たちが慌てて駆け寄ってくる。額に手を当ててみればすぐに高熱と分かり、御影様はそのまま寝台に運ばれていった。


 そこからの久世さんの手際の良さといったら……

 水を換えたり、額に布を当てて薬を用意し、とにかく付きっきり。御影様のそばを、頑として離れようとしない。

 ――なんというか、妙に慣れているというか、自然というか。

 なんだかあの二人って……主人と従者というより、恋人のような……いやいや、下世話な想像はやめよう。

 世の中には、知らないほうがいいこともある。久世さん、怖いし。

 


 ……というか、僕をボコボコにしたのに、あの人、なんであんなに元気なんですか。

 鬼に取り憑かれてたはずなのに。


 ほんと、納得いかない。理不尽だ。


 

 僕はというと、全身打ち身と擦り傷で、ようやく手当てされてこの寝台に。

 はあ……。


 

 そういえばこの報告書、“鬼に取り憑かれた従者が剣を振るいながら暴走”なんて書いたところで、信じてもらえるのかな。

 上司に「創作話じゃあるまいし」と鼻で笑われそうだ。でも、どこからどう見ても事実なのだから困る。どうしよう、なんて書けばいいんだ。


 

 

 報告書を閉じ、そっと目を閉じる。すると自然に、あの夜のことが胸に蘇る。


 

 見えないし、感じない。

 霊なんて、正直、信じているわけじゃない。

 けれど――


 あの夜、御影様が教えてくれた。

「2人は抱き合いながら泣いてたよ。ようやく、約束を果たせたもんな」


 その言葉を聞いたとき、不意に思い浮かんだ。

 あの大木の下で、手を取り合い再会する、綾女様と暁様の姿が――


(……暁様と綾女様が会えたことだけは……それだけは信じたいな)



 御影様に再び会えたのは、それから三日ほど経った頃のことだった。

 

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