第1話 な……何が起きているんだ……
新年、明けましておめでとうございます
楽しいお正月をお迎えでしょうか
本年も良い年でありますようにお祈り申し上げます
「ティアナお嬢様を、死んでもお守りするんだ!」
〝グシャッ!〟
「アッ……グ……グァア〜〜!く……くそっ……お……お嬢様〜〜!」
背中から腹にかけて、剣が貫かれた。
激痛……というより、刺された所が酷く熱かった。
最も簡単に、少女を奪われてしまった護衛の騎士達……
「ハハハ!馬鹿か?後ろも、ちゃんと用心しないとな?
良いか!お前達。1人も逃すんじゃないぞ!この小娘以外は皆殺しにしろ!」
〝ティアナお嬢様〟と呼ばれた12歳の少女の髪を、
乱暴に掴み拘束する賊のリーダー。
髪は透き通る様なブルーロング。
大きな目の、その瞳は、少しだけピンクがかった紫色。
カールがかかった長い睫毛。
白く透き通る様な、きめの細かい美しい肌。
誰もが振り向く美少女だ。
「い……痛い!止めて!離して!」
乗ってきた馬車は転倒し、ティアナは、あちらこちらから血を流している。
護るべき者を囚われ、手出しが出来なくなる騎士達。
次々と切り捨てられていく。
残るは、ティアナと、その侍女ラニィーだけだ。
そのラニーも、左肩から右横腹迄、切り裂かれ、大量の出血をしている。
息も絶え絶えだ。
「こんなもんか?大体片付いた様だな……」
「た……隊長!そ……それ……貴方の……く……首っ……」
「ん?俺の首がどうした?」
〝隊長〟と呼ばれた賊の、首周り斜めに一周、微かに血が滲んでいた。
「あ……あれ?……」
ズルズルと首がずれ、ストンと頭が落ちる。
痛みすら感じず、いつ斬られたのか分からなかった。
少女を掴んでいた手が緩み、ティアナは解放される。
「た……隊長!どうし……隊長〜〜!」
そう叫んだ賊の腹からは、血と内臓が弾け飛んだ。
「な……何が起きているんだ……」
恐怖に顔を引き攣らせる賊30人。
数秒の後、賊の大半が同じ運命を辿っていった。
キョロキョロ、辺りを見回す、残り少なくなった賊の残党。
「何もいないじゃないか……いないよな?
一体俺達は、何にやられているんだ?
目に見えない魔物か何かか?……」
「ハハハ……おじさん達、どこ見てんの?下だよ下!」
そこにはティアナと同じ位の、戝の半分位の背丈にしか見えない小さな少年が立っていた。
「おじさん達、いつも大人しか相手してないでしょ?
何時もの様に、目の高さしか見てないから、僕が見えてないんだよ。
目に見えない魔物なんて、こんな所に居る訳ないじゃない」
「お……お前が?……嘘こけ!
こんなチビのお前に、精鋭の俺らが、こうも簡単に、やられる訳ないだろ!」
「そう?でもここには、僕しかいないじゃん?他に誰かいる?」
「いや?……まさか……」
まさかとは言うものの、確かに、ここには、この少年しかいない。
着ている物は、かなりくたびれた、
でも動き易そうな、剣士の胴着の様な衣服だ。
そして、その手には、ブルーの模様が美しく光り、
全体も銀色に輝く剣を持っていた。
少し長めで、その少年のなりとは不釣り合いな剣だった。
サラサラと白銀の髪を風になびかせ、
目に掛かった前髪の奥から、サファイア色の瞳が輝いている。
「こんなチビのガキが?……」
疑心暗鬼ではあるが、残った10人で少年を取り囲む。
なぜなら、他に敵らしき者の姿は、ないからだ。
「そうきた?取り囲むんだ〜?悪手だね?
この陣形だと、一手で片付くよ?」
「何を生意気な……お前がやったと言うのが嘘だったら……
こんな所に、しゃしゃり出て来て後悔するぞ?……」
「え……と……なんにしようかな?
トルネードとか?ん、それが良いか?」
「聞いているのか?こいつ何をぶつぶつ言っている?
少し頭が弱いのか?」
「失礼な……今から、おじさん達を倒す、その技の名前考えてたの!
せっかくだから、かっこよくなきゃダメでしょ?……決めた!」
〝トルネードスラ〜〜ッシュ〜〜!〝
そう叫ぶと少年は忽然と姿を消し、
そこには土埃で、小さな竜巻の様な渦が出来ていた。
「どこ行った? あ……あれ?」
バランスを崩し、全員が尻餅をつく。
目の前には自分の膝下だけが立ったままだ。
膝からは大量の血が吹き出している。
(あ……足を切断された?
クルッと回りながら一瞬で全員の足を?)
「い……痛え痛え!」
痛みに体を捩りながら、のたうち回る賊達。
「ね?悪手だったでしょ?」
「んじゃあね……」
スタッと片手を上げ、後ろを振り向き、スタスタと歩き出す少年。
「ちょ……ちょっと待て……た……助けてくれ……
このままじゃ、出血で死ぬ……」
「やだよ?この騎士さん達殺したの、おじさん達なんでしょ?
その賊っぽい姿……おじさん達、悪者なんだよね?
僕にも切り掛かってきたし……そんな人なんで助けなきゃならないの?」
「ま……待ってくれ!家にはお前と同じ位の子供が居るんだ……
俺が死んだら……」
「それを聞いたら、余計助ける気がしなくなったよ……
子供が居る親なのに、平気で子供を誘拐するんだ?
怪我させて、乱暴に髪を掴んで……
おじさん達からは、子供を持つ親の心が感じられない」
「ま……待ってくれ!仕方なかったんだ……」
「ん?仕方なかった?こんなにたくさん殺しておいて?
この人達にも、子供が居たかもしれないじゃない」
「………」
「ん?おじさん副隊長?」
「な……何故そう思う?」
「さっきの〝隊長〟って呼ばれた人が、5本ラインの紋章をしてたでしょ?
何で紋章を隠す様にしてるの?って気になって見てたんだ……
おじさんのは4本だから、隊長の次に偉い人かなって……」
「……だったらどうだって言うんだ?」
「使い道あるかもね?」
「つ……使い道?俺がか?」
「そ。 まあ良いや、助けてあげるよ。
え……と……ヒール?いや、足を縛って止血するだけにしとこかな?」
「お前、ヒールが使えるのか?」
「ま、一応出来るは出来るんだけど……
魔力量をコントロール出来ないから、
変な事になっちゃうかも……やっぱり縛るだけにしとくね?」
手品のように、何処からか細長い布を取り出し、
賊の足を縛った。
「よし、これで取り敢えず死ぬ事はないかな?」
「ガ〜ハハハハ!このガキ!油断したな!観念しやがれ!」
少年の首に手を回し、絞めあげようとする副隊長。
でもその手は、肘から先が無かった。地面に落ちてしまっている。
あまりの剣の速さに、痛みを感じる事なく腕を落とされたのだ。
「止めてよね?手も縛らなきゃなんなくなったじゃない……面倒くさ……」
そう言うと、おでこに強烈なデコピン1発。
賊は白目を剥いて、後ろにひっくり返った。
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