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【短編】異世界恋愛

悪役令嬢たちの『黙示録』~やられる前に、即断罪!後悔しても、もう遅い~


「先の『黄札・・』につき、断罪が完了したことを、ここにご報告いたします」


 蝋燭の灯りがひとつあるだけの小さな部屋で、座していた者達からパラパラと拍手が起こる。


「また一人、見事本懐を遂げられましたこと、大変喜ばしく思います……それでは、御本人から直接お話を伺いましょう」


 円卓を囲みつどうのは、信じていた恋人や婚約者に騙され、脅され、裏切られ……。


 さらには加害者に仕立て上げられた挙げ句、世間から『悪役令嬢』のレッテルを貼られた淑女たち。


 ――そう。

 ここはターゲットを滅びへといざな断罪組織・・・・……悪役令嬢たちの『黙示録』。


 合言葉は、『やられる前に、即断罪』。


 裏社会にも精通するこの闇組織は、厳しい審査を経て、墓場まで秘密を守ることを誓った者だけが入会を許される。


 そしてその結束力は、血よりも固い――。


 誰がどこにいるかも分からない暗がりの中、身動ぎとともに視線が自分へと向けられたのを感じ、リオーネはゆっくりと立ち上がった。


「ただ今、御紹介に預かりました此度の執行者、リオーネ・フェルディアと申します。それではこれより、コトの顛末を皆様にお話し致します……」



 ***



(第一工程:伯爵令嬢リオーネの相談)


 早くに母を亡くした私は、父と二人きり……寂しい時もございましたが穏やかに日々を過ごし、幸せに暮らしておりました。


 ですが男爵家の出身である新しい母を迎えてから、その平凡な幸せは終わりを告げたのです。


 連れ子である義理の妹カミラは、私よりも二つ年下。


 私の持ち物を何でも欲しがり、貴族としてのマナーもまるでなっておらず、いつも我儘放題でした。


 初めは注意していた父も、甘え上手な義妹を溺愛するようになり、私は次第に屋敷内で孤立していったのです。


 よくある話ですが、前妻の娘である私は、彼女らにとって邪魔者でしかありません。


 父が仕事で留守がちなのを良いことに、義母は屋敷の使用人を配下の者に入れ替え、私の立場はますます弱くなっていきました。


「お前の食事はこれで充分よね」

「いつもつけているネックレス、私のほうが似合うから貰ってあげるわ」


 義母の指示により出される食事は粗末になり、服も着古した物ばかり。


 母の形見の宝飾品は、すべて義妹に奪われてしまいました。


 さらにはパーティーやお茶会の招待状もすべて握りつぶされ、新しい交友関係を作ることも儘なりません。


 懇意にする友人も、信頼できる大人もおらず……かといって義母妹に愛情を注ぐ父に言うのははばかられ、結局誰にも相談はできませんでした。


 ですがこんな私にも婚約者がおりまして、彼だけは味方になってくれると、そう信じていたある日のこと。


 それがただの幻想だったと思い知らされたのです――。


「その辛気臭い顔を見たら、ルシウス様が御気分を害されてしまうわ。代わりに私が対応してあげる!」


 前述のとおり、私の持ち物はなんでも欲しがる義妹のカミラ。

 もちろん婚約者であるルシウス様も例外ではありませんでした。


 私を部屋に閉じ込め、ルシウス様とカミラは庭園へと向かいます。


 見張りの侍女が席を外した隙に私はこっそりと部屋を抜け出し、後を付けました。


 柱の陰から覗くと、結婚前だからと私には触れもしなかったルシウス様がカミラの腰を抱き、二人はまるで恋人のように身を寄せあっていたのです。


「ルシウス様、いつ私と婚約をしてくださるの?」

「今すぐにでもと言いたいところだが、リオーネが首を縦に振らなそうだな」


「それではお姉様がいなくなったらいかがですか?」

「……ああ、それは良い考えだ。あいつが死ねば、すべてが丸く収まる」

「どのように死んでいただくのが良いかしら? 毒などはいかがでしょう」


 良いことを思いついたとばかりに微笑みあう二人。


 これまで婚約者として何年も共に過ごし、愛とまではいかないまでも、多少の情は持ち合わせてくれていると信じていたのに。


 まさか殺すなどと……私は必死に涙をこらえました。


 そして、翌日。


 身の危険を感じた私は、なけなしのお金を握りしめてこっそりと屋敷を抜け出し、侍女たちの噂話で漏れ聞いた、こちらの『恋愛相談所』へと足を運んだのです――。



 ***



(第二工程:『札色選定会議』)


「さて皆様、本件につき、断罪の是非を伺います」


 蝋燭の灯りがひとつ揺らめく暗闇で、五人の幹部たちが物々しく円卓を囲み座していた。


「なおフェルディア伯爵家の長女リオーネ様のご相談内容につきまして、既に裏取りはできており、義母妹が共謀し、婚約者のルシウス様を通じて内密に『毒』を入手したことを確認済です」


 それぞれの手元には、左から順に白、青、黄、赤……手に収まる大きさの、四枚の木札が並べられている。


「それではご説明いたします。白色は『無罪』……断罪不要の意思表示です。賛同される方は箱に白札を入れてください」


 誰一人動かず、白札は『否』となる。


「次は青色。『警告』……何かしらの方法により注意喚起を行います。賛同される方は箱に青札を入れてください」


 またしても動く者はおらず、青札は『否』となる。


「次は黄色。『社会的制裁』を加えます。程度により、ちょっぴり信用を損ねるコースから、身ぐるみはがされるコースまで種々様々ございます。それでは、賛同される方は箱に黄札を入れてください」


 五人のうち四人が動き、木札を箱に入れた。


「なるほど、今回は得票多数により『黄札』に決定いたしました。ちなみに私は最後の赤色。『社会的かつ物理的な制裁』を希望しておりましたが、それはまた次の機会に」


 残念だわ……と、ぽつりと漏らし、進行役は赤札を箱に入れる。


 断罪候補案件における、『札色選定会議』。


 極めて民主主義に近いこの会議により、五人の幹部令嬢たちは断罪の是非を問うのだ。


「フェルディア伯爵家のリオーネ様とは、前伯爵夫人がまだご存命だった頃にお会いしたことがございます。……すでに『毒』を入手されているため、早急に動く必要がございますね」


 幹部のうち、過去に面識のあった一人が指輪を外し、箱の中に投げ入れた。


 カランと音を立てて転がり、蝋燭の下で浮かび上がる指輪の紋章は『犬鷲』。


 進行役はそっと箱の蓋を閉め、真鍮で造られた釣り鐘状のスナッファーを手に取った。


「それでは、裁定します。本件は『黄札』とし、執行者は『リオーネ・フェルディア』。支援者は『犬鷲』とします」


「「「「異存なし」」」」


 揺らめく蝋燭の炎にスナッファーを被せると、ボッと残り火を瞬かせ、沈黙とともにとばりが下りる。


 暗闇の中、名乗りをあげた支援者と進行役の二名を残し、幹部たちは順に退室していく。


 今宵も全会一致のうちに『札色選定会議』は幕を閉じた。


 続けて進行役が呼び鈴を鳴らすと、どこからともなく侍女が現れ、手持ちランタンの灯を頼りに最奥の部屋へと誘われる。


 くて裁定は下された――ここからは、『謀議』の時間。


 さぁ、不義者たちよ。

 その顔を苦悶に歪ませ、後悔のうちに滅びのときを迎えるのだ。



 ***



(第三工程:断罪劇)


 フェルディア伯爵家の庭園で、幼子の笑い声が響きわたる。


「しばらく姿をお見掛けしなかったので心配しておりましたが、御病気だったのですね」

「ええ、ここ一年ほど原因不明の病気で体調を崩し、外出もままならない状態でして」


 生前お世話になった前伯爵夫人の愛娘、リオーネ様にお会いしたい。


 そう手紙を寄越すなり来訪したミナロフ公爵夫人を前に、フェルディア伯爵夫人が言い訳をしながら、額に汗をにじませる。


 せっかくなのでリオーネの婚約者ルシウスとも話がしたいと呼び出され、フェルディア伯爵夫妻と娘のカミラ、そしてルシウスが勢揃いで座していた。


「お母様、池に可愛いお魚がいます!」

「まぁそうなの? でもあまり身を乗り出すと危ないわ。大変不躾なお願いで恐縮ですが、ガラス鉢などで、こちらにお持ちいただく事は可能でしょうか」


 遠慮がちにお願いをするのは現国王の妹であり、ミナロフ公爵の妻である公爵夫人……断る選択肢などあろうはずがない。


 すぐに願いは叶い、ガラス鉢に入った魚がテーブルの上に置かれ、夫人とともに来訪した幼い御令息は目を輝かせながら、ゆったりと泳ぐ魚を見つめた。


「……リオーネ様がそのような状況にも関わらず、我が兄(・・・)が遠方での長期任務を命じるなど、申し訳ない限りです」

「いえ、そんな、国王陛下から直々に命じられた任務ですので……!」


 伯爵夫妻へと順に話しかけ、ミナロフ公爵夫人は二人の顔色をつぶさに観察する。


 実の父親もこの件に加担しているのかと疑ったが、伯爵夫人を信頼し、すべてを任せているだけのようだ。


「ところで妹のカミラ様はご婚約がまだのようですね。先日の夜会はルシウス様がエスコートされていたようですが、なにか特別な理由でも?」


 通常、姉の婚約者が未婚の妹をエスコートするなどありえない。


「……随分と仲が良いと聞き及んでおりますが」


 にこりと微笑むその目は冷ややかで、うしろめたいことのある三人はぎくりと肩を揺らす。


「まぁいいでしょう。リオーネ様の体調が優れないのであれば、本日お会いするのは難しそうですね」

「そ、そうなんです! はるばる御足労頂いたのに申し訳ございません」


 急に都合のいい展開になり、前のめりで肯定する伯爵夫人。


 魚に飽きた幼い公爵令息は眠くなり、正午を告げる鐘の音とともに護衛騎士に連れられ、先に馬車へと戻っていった。


「それでは残念ですが、わたくしはこれで……」

「お待ちください!!」


 帰る素振りを見せたミナロフ公爵夫人に一同ホッとした表情を浮かべ、ではお見送りを……と腰を浮かせたその時、庭園から見える二階の窓から一人の少女が身を乗り出した。


「きゃああああああ!」

「リオーネ!?」


 次の瞬間つるりと足を踏み外し、窓枠にぶら下がった状態で悲鳴をあげる……原因不明の病に臥しているはずのリオーネ。


 ミナロフ公爵夫人は後方に控える一人の護衛騎士に、そっと目配せをした。



 ***



 扉口は侍女に見張られ、部屋から出る事ができないリオーネ。

 でも下はふかふかの芝生だし、窓枠からぶら下がる感じでぴょんと飛び降りれば、大きなケガはしないはず。


 そう思っていたのだが、いざとなると高さに身がすくんでしまう。


 だがここで諦めては計画が水の泡、と勇気をふりしぼったまではよかったが、つるりと足を滑らせてしまった。


 当初の計画通り、窓枠からぶら下がるところまではできたのだが、怖くて飛び降りることができない。


「受け止めますので、そのまま手を離してください!」


 半ばパニックで悲鳴を上げ必死にしがみついていると、よく通る声が耳へと届き、リオーネはそろそろと下に目を向けた。


 公爵家の護衛騎士だろうか。

 見たことのない青年が腕を開き、ジェスチャーで飛び降りるよう促している。


 覚悟を決めてギュッと瞼を閉じ、窓枠を手離すと、逞しい腕にすっぽりと収まるように力強く抱き留められた。


 胸が合わさるように縦抱きにされ、ほんのりと伝わる体温に恐々と目を開けると、あまりの距離の近さにリオーネはピシリと固まる。


「あ、ああありがとうございます……」

「いえ、お怪我がなく何よりです」


 熟れた林檎のように真っ赤に染まるリオーネの、すぐ目の前で護衛騎士はニコリと微笑む。


 軽々と腕に抱いたまま庭園へと戻ると、ミナロフ公爵夫人の隣にリオーネをストンと降ろしてくれた。


「……伺っていたよりも、随分と元気そうねぇ。原因不明の病ではなかったのかしら?」


 責めるような強い視線を受け、伯爵夫人とカミラ、ルシウスの三人は青褪める。


「それにしても暑いこと」


 ミナロフ公爵夫人の呟きに、これ以上機嫌を損ねては一大事と、すぐさま冷たい果実水が運ばれた。


「リ、リオーネは近頃奇行が目立ち、伯爵家の恥とならぬよう人前に出るのを禁じていたのです。外聞が悪いものですから、病という形でお伝えした次第でして」

「お母様は嘘ばかり。お父様が屋敷にいないのをよいことに、外出どころか十分な食事すら与えてくださらなかったではありませんか」

「まぁこの子ったら申し訳ございません。妄想癖もあるようで……」


 わたわたと言い訳を始めた伯爵夫人を遮り、リオーネは一歩前へ出た。


「それでも結婚するまでのこと、と我慢してきたのですが、その想いも裏切られました。カミラとルシウス様が恋人のように寄り添い、私を毒で殺そうと密談していたのです。そうよね、カミラ」

「お姉様、何を訳の分からないことを……!?」

「もちろん、お母様も御存じですよね?」

「……ッ!!」


 母娘が仲良く過ごしていると思っていたフェルディア伯爵は、驚きのあまり声も出ない。


「その日以降、お母様が手ずから作ったという桃香の果実水が、なぜか(・・・)差し入れられるようになったのです――口を付ける気にはならず、そのまま捨てていました」


 リオーネの言葉に、先程ミナロフ公爵夫人の目の前に置かれた果実水へと皆が目を向ける。


「……この果実水も桃の香りだわ」

「左様でございましたか。急ぎ指示された侍女が、私用に作られたもの(・・・・・・・・・)と間違えたのかもしれません」


 失礼、と声をかけ、リオーネはテーブルに置かれた果実水のグラスを手に取った。


 そして幼い公爵令息が嬉しげに眺めていたガラス鉢へと、流し入れる。


「ああ、魚が死んでしまったわ」

「……ッ!?」

「こんなに強い毒を飲まされるところだったのですね。ミナロフ公爵夫人が口にされなくて本当に良かった……あのまま飲んでいたら、死んでいたかもしれませんね」


 微笑むリオーネの頬はこけ、年頃の貴族令嬢ではありえないほどに痩せた腕が袖口からのぞいた。


「まさか、何かの間違いです!」

「お姉様が自分で入れたに決まってるわ! それに毒はまだ使っていない(・・・・・・・・)……!!」


 ミナロフ公爵夫人の毒殺未遂ともなれば、間違いなく死罪。


 なんとしてでも身の潔白を晴らさねばと伯爵夫人とカミラは無罪を主張したが、語るに落ちるとはまさにこのこと。


 うっかり毒について言及してしまったカミラを伯爵夫人が慌てて制止するが、もはや手遅れである。


 公爵家の護衛騎士が歩み寄り、二人を取り押さえた。


「……愚かなことを。毒は厳しく管理されており、外出も儘ならない令嬢がおいそれと手にできる代物ではありません。その程度の知識すらないのですか?」

「お待ちください、誤解です!」

「私ではありません! 毒を取り寄せたのはルシウス様です」


 もはやリオーネを言い訳に使うのは無駄だと悟り、今度はルシウスに罪をなすりつけようとカミラが叫ぶ。


「お、お前、自分の罪を俺になすりつける気か!?」

「毒を盛れと命令したのはルシウス様よ! 私は脅されて……!!」

「黙りなさい、言い訳は結構です。待機させてある牢馬車へ連れて行きなさい」


 続けてルシウスも取り押さえられ、三人そろって引きずられるようにして連行される。


 残されたのはミナロフ公爵夫人、フェルディア伯爵とリオーネのみ。


 突然の出来事に頭がついていかないのか、伯爵は三人が去った方向を呆然と眺めていた。


「何かの間違いではないのか?」

「お父様、現にご自身の目でご覧になったでしょう? ミナロフ公爵夫人がいらっしゃらなければ、私は婚約者をカミラに奪われ、そう遠くないうちに命を落としていたはずです」

「なぜ、言ってくれなかったんだ」

「……お母様が亡くなり、気落ちしていたお父様がやっと見つけた幸せですもの。私が我慢して済む話であれば、それが最善だと思ったのですよ」


 リオーネの言葉に「すまなかった」と何度も繰り返し、フェルディア伯爵は両手で顔を覆い泣き崩れてしまった。


「ミナロフ公爵夫人、三人はこの後どうなるのでしょうか」

「今回はわたくしのみ知るところ。すべてを任せてくださるのなら、関係各所に連絡の上、内々に処理させていただきます。これより関係者の部屋を(あらた)めさせていただきますが、よろしいですね?」

「はい、お心遣いに感謝申しあげます」


 間をおかず部屋を(あらた)めると、カミラの部屋にて毒物が確認され、加えて毒殺をほのめかすルシウスの手紙もあり、もはや言い逃れができない状況となった。


 リオーネ様と二人きりで話がしたいとミナロフ公爵夫人に告げられ、伯爵は侍従に支えられるようにして屋敷へと戻って行く。


「此度のお力添え、誠にありがとうございました」

「いえいえ、これもリオーネ様の勇気があってこそです。それで、これからどうされるおつもりですか?」

「婚約も破談になり、結婚は難しいかもしれません。しばらくは父のもとで領地経営を学びたいと思います」

「素晴らしいわ! でも良い方がいたら……もしご迷惑でなければ、ご紹介してもいいかしら?」

「ふふふ、勿論です。のんびりとお待ちしていますね」


 微笑みのうちに、公爵家の馬車が遠ざかっていく。


 描かれた『犬鷲』の紋章がみるみるうちに小さくなり、小さな点になるまで、リオーネはその馬車を見つめ続けた――。



 ***



 その後、公爵家の厳しい取り調べにより、三人は一切の個人資産を凍結された上で身分を剥奪され、何ひとつ持たない平民となった。


 義母と義妹カミラは山頂に位置する修道院へと送られ、厳しい監視のもと、労働と祈ること以外は何も許されない孤立した環境で、残りの人生を費やすことになった。


 一方ルシウスは水夫として公爵家の保有する船に押し込まれ、厳しい労働環境と過酷な処遇に耐えながら、海の上で死ぬまで強制労働を課されることとなる。


 ――そして。


 紹介したい令息がいるから会ってみないかとミナロフ公爵夫人から連絡を受け、目の前に現れたのは、窓から落ちるところを受け止めてくれたいつぞやの護衛騎士。


「とても誠実な方だから、お似合いだと思うわ!」


 その言葉通り、穏やかな時間が心地良く、程なくして二人は幸せのうちに結ばれたのである――。



 ***



(第四工程:終幕)


「――こうしてお力添えをいただき、この度本懐を遂げましたこと、重ねて御礼申し上げます。そして取るに足らない身ではありますが、必要とあらば助力することをここに誓います」


「「「「「新たなる同志に祝福を!」」」」」


 パラパラと拍手が起こり、進行役が呼び鈴を鳴らす。

 その音を合図にリオーネが退室し、ひとり、またひとりと幹部たちが退室していく。


 後には進行役と今回の支援役、二人だけが残された。


「今回も鮮やかなお手並み、お見事です」

「浅はかな伯爵夫人のもとに、息のかかった侍女を滑り込ませるなど造作もないことです」

「リオーネ様の御相手は、先日ご相談にいらした子爵夫人の御令息ですか?」

「ええ、ちょうど(・・・・)条件に合うご令嬢を探しておりまして……リオーネ様であれば、渡りに船」


 性格も良く腕も確かなのだが、我儘な貴族令嬢に嫌気が差して結婚を嫌がり、なかなか首を縦に振らない寡黙な子爵家のご令息。


 『恋愛相談所』に足を運んだ子爵夫人の相談を受け、そういえば……と思い出したのが数年前に会った伯爵令嬢リオーネである。


 だが最近はまったく姿を見せず、連絡を取っている者すらいない。


 これはおかしいと心配し、侍女を潜入させたら思った通りの状況であった。


 リオーネの前で侍女が偶然『恋愛相談所』について噂するなど、出来過ぎた状況があるはずもなく、すべてはミナロフ公爵夫人の指示によるもの。


 外出できるよう手配し、『執行者』となるリオーネに気付かれぬよう、伯爵夫人と義妹カミラが毒入りの果実水を用意したかのように偽装する。


 加えて、公爵家の護衛騎士を務める子爵令息との出会いも演出しなければならない。


 潜入させた侍女に命じ身だしなみを整えさせ、無事二人を接触させることに成功した。


 あとは喉が渇いたと要望し、毒を仕込ませた果実水を侍女に持ってこさせる。


 毒と言っても誰かが間違えて飲んだら大変なことになるため、人間が飲んでもすぐに無毒化できる安全性の高いもの……特定の生物にだけ効果を示す、『選択毒性』のあるものを選んだ。


 可愛らしい白花を咲かせる多年草……乾燥させた花から抽出できる成分は水溶性であり、主に虫除けに使用されることが多いが魚毒性も強いため、視覚的に効果を示すにはうってつけである。


『お母様が亡くなり、気落ちしていたお父様がやっと見つけた幸せですもの。私が我慢して済む話であれば、それが最善だと思ったのですよ』


 父に告げるリオーネは可憐で美しく、見つめる護衛騎士(・・・・)の瞳に微かに熱が宿ったのを、ミナロフ公爵夫人は見逃さなかった。


 そうして間をおかず部屋を検めると、カミラの部屋から未使用(・・・)の毒物が発見される。


「相手が動くのを待っていては、遅いのです」


 その言葉に、クスクスと忍び笑いを漏らす進行役。


 今でこそ大きくなった本組織……そもそもは結婚直前に婚約を破棄された、とある令嬢……進行役の思いつきに端を発する。


 相手の有責による婚約破棄だったはずなのに。


 婚約話の立ち消えは醜聞となり、被害者であるはずの令嬢に良い縁談はもはや見込めず、幸せな結婚は夢のうちに消えてしまった。


 であれば自力で生計を立て、なおかつ同じ境遇にある者を助ける方法はないものか。


 公然と言いにくい話でも、予め守秘義務で守られている有償相談であれば、何かしら力になれることがあるかもしれない。


 なけなしの慰謝料を有効活用すべく、単身始めた悩める女性のための『恋愛相談所』。


『相手の有責で婚約破棄された』令嬢が、親身になって相談に乗るというコンセプトが功を奏し、その評判は瞬く間に広がっていった。


 泣き寝入りをする羽目になったあげく、悪くもないのに反省を迫られる、立場の弱い女性たち。


 その尊厳を、なんとかして守ってあげたい。

 一人じゃ無理でも皆となら――。


 女性同士、年齢問わず、身分が違えばできることも多種多様。

 一人より二人、多ければなお素晴らしい。


 人が人を呼び、相互扶助の形で復讐を遂げるその成功率たるや、なんと驚異の百パーセント。


 社交界を代表する極太パトロンのおかげで、資金繰りも極めて良好である。


 幹部はすべて悪役令嬢。

 今や国内随一の闇組織へと飛躍したこの集いに、綺麗ごとはいらない。


 酸いも甘いも噛み分けて、辛酸を嘗め尽くした彼女らは、手を汚すことを厭わない。


 密やかに下りた夜の帳はすべての不都合を覆い隠し、あらゆるものを闇一色に染めていく。




 そう、ここはターゲットを滅びへといざなう断罪組織。

 ――悪役令嬢たちの、『黙示録』。









読んでくださり、ありがとうございました!

短編連作の形でシリーズ化させていただきました(本作が1作目です)

また思いつきましたら、ポツリと更新させてください。


お気に召しましたら、ブクマや評価(★)で応援いただけると嬉しいです!

他にも小説をアップしておりますので、是非ご覧ください(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*.


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[良い点] 某仕事人を思い出しつつ、悪役令嬢というヴィランがヒーローになる感じで…淡々ときっちりした手際が良かったです。 [一言] 連作短編のような感じでシリーズ化したら嬉しいです、という希望を勝手に…
[一言] 毒を用意した以上、赤札キルでいい気もしますが。 黄札でも生涯隔離労役という、厳しめな罰が下されたのが良かったです。 ざまぁタグ付けてるのに捕縛しただけで刑罰の決定すらない、タグ詐欺が多い中…
[一言] 黄でこれなら赤は文字通り赤く染まるんだろうなぁそれが血か炎かはさておき
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