舞台用シナリオプロット
合戦劇のシナリオプロットです。
小説としては中途半端かもしれません。
戦国時代後半、豊臣秀吉統治の時代に刀狩りの発端となった肥後国衆一揆と、それに巻き込まれていく人達の物語。
今回は肥後を分割統治する国衆の1人、和仁親実の第四姫、綾姫の視点から紡がれる戦国歴史絵巻。
プロローグ
一章 ことのはじまり
綾は肥後一帯を統べる豪族、和仁家の当主、和仁親実の四女として生を受け、天真爛漫な性格で身分に分け隔てなく誰にでも笑顔で接し、皆から愛されて育った、逆に皆から恐れられていた当主の親実でさえ、末っ子の綾にだけは甘かった。
綾が15歳を向かえた時、とうとう嫁入りの話が出てきた、嫁ぎ先は親実の家臣で数多くの武勲を立てた斎藤離十郎という男であった。
斎藤は数年前に士官してきた武将で、合戦で数多くの武勲を立てる事により出世した家臣の一人ではあるが、第四姫が嫁ぐにはあまりに身分が低いかと思われた
綾の乳母として長年つかえていたマツは「あまりにも綾様が不憫でならない」と大層憤慨したが政略結婚である以上、覆ることはなかった。
和仁家五男の信親とは年も近く何でも話せる仲であったが、その信親が綾の元を訪れ斎藤に関する情報を教えてくれた。
綾と斎藤離十郎とは父と娘ほど年が離れていること
数年前に妻を亡くしたこと
離十郎は数年前に士官してきた武将で、一代で武勲を立てのし上がって来たこと
今では兵法指南役として、門下生からは鬼の斎藤やら鬼十郎やら呼ばれ恐れられている事
道場では親実の実子である信親にさえ一切遠慮なく、稽古で信親が散々しごかれた事
先の戦では単独で敵陣に乗り込みあわや命を落とすかと言うところでギリギリ敵将を討ち、手柄を上げた事
等と話してくれ、最後にあんな恐ろしい男の元に嫁ぐのが不備でならぬと綾の事を心配しながら去っていった。
そんな事もありながら数日嫁入りの準備をしていたある日、親実に呼ばれた綾は父の元に向かった。
部屋に入ると他には誰も居らず、綾にだけは甘い親実は、配下には見せない優しい目で話しかけてきた。
「お前のことだ、斎藤離十郎の事は既に聞き及んでおるのだろう?」
信親から聞いたと言えばきっと信親が怒られるのだろうなと思い、特定の名前は出さずに答えた
「はい、一通りは聞き及んでおりまする」
「猛将として名を馳せているが、お前とは親子ほども年が離れ、前妻を病で亡くし、兵法指南役として若い者共に剣術を教えている、、とこんな感じか?」
「はい、門下生達から鬼十郎と呼ばれ恐れられていることも」
綾はクスリと笑った
親実も少し笑い
「敵にとってはそれより遥かに恐ろしい武将であろうがな」
親実は少し間を置き、
「実は離十郎には愛妻家の面もあってな、、」
何故か少しだけ寂しそうな表情を浮かべ後に続けた
「数年前に流行り病で妻を亡くしてからは早く妻の元に逝きたいと言わんばかりに死に急ぎ、戦場で無謀な行いが増えてきたのだ」
綾は先の戦で斎藤が単身敵陣に乗り込んだ事を思い出した
「離十郎は忠義にも厚く、知勇兼備の猛将で、この国には必要な男なのだ、自分の命を粗末に扱ってもらってはかなわぬ」
親実は綾を真っ直ぐに見つめ、ゆっくりと語った
「綾、お前には周りを笑顔にさせる不思議な力がある」
「どうか離十郎を死に急がせぬ様、この世とのかすがいになって貰えぬか?」
綾はなるほどと、合点がいった。
幼き頃から戦国の世の姫ならば政略結婚も当然と覚悟を決めていた綾にとっては、斎藤がこの国にとって必要な人材であり、それを支える事により和仁家、そして肥後の民の為になるのであれば、なんら異存はなかった。
「そういう事であれば喜んで嫁いでゆきましょう、そして二度と斎藤様がお命を粗末にせぬ様努めまする」
自信に溢れた綾の笑顔につられて親実も思わず微笑んだ。
第二章 新しい暮し
質素で形式だけの婚礼の義が執り行われ、綾は初めて斎藤と言う男を見た。
如何にも武人然とした姿は家臣の中でも異彩を放っていたが、目の中を深い鉛色の影が色濃く支配しており、まるで生気を感じられなかった。
斎藤は一度も笑みを見せることなく形式だけの婚礼の義が終わり、何事もなく数日が過ぎて行った。
斎藤家は離十郎の他に六兵衛と言う年老いた使用人が居るだけの質素な家で、六兵衛は綾の事を姫さま姫さまと呼ぶので綾は、もう姫ではなく斎藤家の妻なのだから、綾か奥方と呼んで欲しいと伝えたが全く理解出来ないようで、いまだに綾を姫さまと呼んでいる。
嫁いで来てから数日は綾も離十郎も忙しくしていたが、ようやくゆっくりと出来たある日、綾は離十郎から呼ばれて部屋へと向かった、部屋の中には離十郎と六兵衛が座っており、綾が離十郎の正面に座ると離十郎がゆっくりと話し始めた。
「綾姫におかれましては、下級武士には身に余る御下賜をたまわり、この様な狭苦しい処で不自由な生活を余儀なくされる事、心苦しく存じます。
しかしなれど某は、いずれ戦場で死地に赴く身、さすれば直ぐにでも和仁家に帰りあそばし、また元の生活に戻れます故、今暫く我慢なさって下され」
「離十郎さまぁ、、」
たまらない表情で六兵衛が声を絞り出したが、離十郎から静かに
「控えよ」
と制され、力なく下を向いた。
綾は正面から真っ直ぐに離十郎を見つめ返し
「妻として嫁がせて頂く上で斎藤様に3つだけ申し上げたい事があります」
と言い、離十郎は
「何なりと」
と真っ直ぐに綾を見つめ返した
「一つ目ですが、、
綾は既に斎藤家の妻で御座います、もう和仁家に戻る気は毛頭ございませぬ」
キョトンとした離十郎を置き去りにして綾は続けた
「二つ目は、、
斎藤様が前の奥様を失われた事、私も伺っておりまする、私には到底計り知れぬほどの哀しみの中にいるのでしょう」
離十郎の目の中の深い鉛色の影がより暗さを増していった。
「斎藤様は死地に向かわれる身とおっしゃいましたが、この綾に斎藤様と同じ想いをさせるおつもりですか?」
「ん??、、」
上手く理解出来ない離十郎をよそ目に綾は続けた
「斎藤さまが前の奥方を大事に思われていた様に、わたくしも斎藤さまを大事に思うておりまする」
「もし斎藤さまが命をないがしろにし、死地に向かわれるのであれば、わたくしは今の斎藤さまの様に哀しみの中を彷徨う事になりまする、斎藤さまはこの綾に同じ様な想いをさせるおつもりですか?」
「いや、、そのような事は、、」
「もし斎藤様が天寿を全うしこの家で息を引き取るのなら、私もこの家と世継ぎを守りながら天寿を全う致しまする」
「もし斎藤様が戦場で死地に向かわれるのであれば綾もお供致しまする」
「馬鹿な事を!」
「わたくしは戦国の世の武人の妻、覚悟はとうに出来ておりまする。
どんなに斎藤さまが嫌がろうとも、最後まで傍から離れませぬ」
綾は強い決意と深い慈悲を兼ね揃えた瞳で真っ直ぐに離十郎を見つめた。
「姫さまぁぁ」
何故か六兵衛が号泣しながら駆け寄り、綾の手を大事そうに握ってきた
綾は六兵衛をたしなべながら、離十郎に向き直り、
「そして三つ目は、、
わたくしは既に斎藤さまの妻、もう和仁家の姫ではありませぬ」
「綾と呼んで下さい」
一切空気を読めなくなっていた六兵衛が
「姫ぇぇ」
と泣きついてきたが、離十郎は静かに話し始めた
「私はなんと愚かな男であったろうか、、、」
「綾姫、、いや綾。
これからは二人とも斎藤ゆえ、私の事は離十郎と呼んで頂きたい」
「はい、離十郎さま」
離十郎の表情は暗いまま特に変わりはしなかったが、目の中の深い鉛色の影は既に消えていた。
第三章 綾と離十郎
それからは少しぎこちないが、唯々穏やかな日々が続いた。
六兵衛は綾をとても大事にしてくれ、一緒に家事や炊事をやってくれた。
ある日慣れない家業で綾は手に火傷をしてまい、思わずキャッ!と叫んでしまった。
すると奥からけたたましい音を立てながら離十郎が走ってきて
「何事か!?」
「綾、大事ないか!?」
と見たことのない慌てた顔で矢継ぎ早でまくし立ててきた。
綾は何が起きたか分からず、一瞬返答に迷い、そのまま固まってしまった。
離十郎は慌てふためき
「しばし待っていろ!」
と言い残すや凄い勢いで外に飛び出していった。
その直ぐ後から六兵衛が「どうしました?」と暢気な顔で問いかけてきたので、「少し火傷をしたのだけど、離十郎さまがいきなり飛び出していって、、、」
とポカンとした顔で六兵衛に答えた。
それから四半刻(30分)ほどしてから、やはり凄い勢いで離十郎が帰ってきて、
「綾、大事ないか!?」
「早う腕を見せよ!」
「この薬が効くらしい!」
と同じ様に矢継ぎ早にまくし立てると、右手に薬を持っていた
どうやら薬屋まで走って行き、薬を買ってきたようだった。
六兵衛がやはり暢気な声で
「離十郎さま、その薬なら家にありましたんで、もう姫さまに塗っておきましたよ?」
「それにそんなに大騒ぎする怪我じゃあありません」
「まことか、綾!?」
「はい、六兵衛が直ぐに水で冷やしてくれて薬も塗ってくれたので、もう痛みもありませぬ」
「離十郎さま、慌てすぎでごさいますよ」
と六兵衛に呆れられ、綾が見たことのないほどの情けない顔をしながらすごすごと奥の自室に歩いて行った。
初めてみるしょんぼりとした後姿に綾と六兵衛は笑いを噛み殺すのに随分と苦労した。
そんな事があり離十郎は肩の力が抜けたのか、二人の会話も徐々に増えていった。
綾が嫁いで来てから半年ほど経った頃には、公務を終え、兵法道場で稽古を付けた離十郎が家に帰ってくると、夕食を取りながら綾が一日に起きたことを話し、離十郎は微笑みながら話をきくといった一日の流れが出来ていた。
既に離十郎の目の中に鉛色の影は無く、死に急いでいる雰囲気はまるで感じられなくなっていた。
唯々穏やかな日々が続いていった。
綾にとっては最も話し易い兄である信親は月に一度は綾を訪ねて来て、話したい事だけまくし立てスッキリしたら帰っていったが、綾にとっては本当にありがたい存在であった。
ある日、信親が慌てた様子で綾の元に訪れ、あまり離十郎に生気を取り戻させないで欲しい、最近またどんどん稽古が厳しくなり、門下生達は皆たまったものではないと話している、と苦情を述べてきた。
勿論、綾は丁重に苦情を差し戻し、意地の悪い笑顔でお稽古頑張って下さいねと兄を追い返した。
第四章 肥後国衆一揆
それから数年は大きな戦も無く、穏やかな日々が続いたが、新しく肥後大名として赴任してきた佐々成政は、和仁家が豊臣秀吉から領地を安堵すると言う約束を勝手に破り、和仁家の領地を取り上げようとしてきた。
それに対抗した和仁家は佐々成政に対して反旗を翻し、後に『刀狩り令』の原因となった肥後国衆一揆が勃発した。
和仁軍は地の利を活かし、数倍もの佐々成政の軍を苦しめたが、肥後の地方豪族ごときに反乱を許しては示しがつかない秀吉は、和仁軍の十倍もの軍勢で肥後に進軍した。
合戦当初、離十郎の活躍もめざましく、敵の軍を打ち負かした事や、離十郎が活躍した事が町の噂となり皆喜んでいたが、綾と六兵衛は全く嬉しくもなかった。
只々離十郎に無事で帰ってきて欲しかった。
戦が始まる時には、戦国の世の武人の妻として、離十郎を戦地に送り出してはみたものの、いつ離十郎の身に何が起こるかと心配で、その日以来たった一度足りともぐっすりと眠る事が出来なかった。
暫くして戦況は厳しいものとなり、徐々に敗戦が色濃くなってきたが、それでも離十郎の活躍の噂は綾のところまで届いてきた。
皆は口々に、斎藤様が居るからきっと大丈夫だと喜んだり、励ましてくれたりしたが、綾にとっては何の励ましにもならなかった。
日に日に戦況が悪くなって行く中、町に流れる噂もきな臭いものに変わっていった。
そんな中、綾の元に最も歳の近い兄、信親が戦死したと言う知らせが届いた。
多少無責任ではあったが、優しく温かな存在が亡くなったと聞き、綾は一晩中泣き明かした。
それから和仁軍は敗戦を重ね、とうとう本拠地の田中城まで撤退し籠城する事となった。
悪霊に心臓を掴まれたかの様な心境で家で待っていた綾は、離十郎が戻って来たと聞いた途端に飛び上がり、急いで玄関まで向かえに行った。
そこにはボロボロになっても尚、武人としての威風を漂わせる離十郎が立っていたが、その目の中を再び深い鉛色の影が支配しており、それを見た綾は思わず離十郎の胸にしがみついていた。
離十郎が無事に帰って来たら言おうと思っていた言葉は沢山あったのに何一つ綾の口から出ては来ず、代わりにその何倍もの涙が目から溢れた。
離十郎はそっと綾の髪を撫で
「大事ないか?」
と短いが慈愛のこもった言葉を吐いた。
更に多くの涙を溢れさせた綾はようやく
「よくご無事で」
とだけ返事し、隠そうとしても隠せぬほどの涙を地面に落としていった。
号泣しながらその姿を見ていた六兵衛の目に、離十郎の目の中に支配していた深い鉛色の影がうっすらと消えて行くのが見えた。
湯浴みを終え、食事を済ませ、身を整えた離十郎は綾に、戦の顛末、この先の展望をゆっくりと、明確に話していった。
それは
秀吉が本隊を動かしてから、和仁軍が敗戦を重ねていった事
明日にでも10倍を超える敵に囲まれる事
民はまだしも、和仁家の一族は根絶やしにすると、秀吉が公言している事
そしてこの戦に勝ち目は無い事
以上の事を説明し終わると、離十郎は綾の目を真っ直ぐに見つめながらこう話した。
「綾、手はずは既に出来ておる、お前と六兵衛だけは民草に紛れ落ち延びてくれ」
綾は答えの分かっている質問を離十郎にぶつけた
「離十郎さまは、、一緒に落ち延びていてだけないのですか?」
「すまぬ、私は多くの家臣を死なせてきた。私一人が落ち延びて良いはずが無い」
「ならば私も連れて行って下さい」
「ならぬ、、、」
「お前が生きていてくれるのであれば思い残す事無く戦える」
「頼む、私の為に落ち延びてくれ」
綾は初めから分かっていた。
そう言われる事も。
こう言う結末になる事も。
それでも少しでも長く続けば良いと願わずにいられなかった。
「私は和仁家の四女、太閤様も私を逃してはくれないでしょう、大勢の兵から追い立てられ、一人死んでゆきとうはありませぬ」
「私はこの家に嫁いで来てからの数年が一番幸せでした、、、」
先程枯れ果てたと思っていた涙が再び溢れ落ちてきた。
「どうせ終わるのであれば一秒でも長く続いて欲しいのです、最後の最後まで離十郎さまの傍に居とうございます」
綾は先程と同じ様に離十郎の胸にしがみついた。
「綾の最後の我儘です、最後まで傍にいさせてください」
既に号泣しながら二人を見ていた六兵衛は、あまりに涙を零しぎて離十郎の頬にも涙が流れているのを見ることが出来なかった。
プロローグ終章
最後の決戦の朝、真紅の鎧に身を包んだ離十郎の横に、凛々しくそして美しく薙刀を携えた綾が立っていた。
朝日を受けた神々しいばかりの二人の立ち姿はその周辺いた兵達の視線を釘付けにしていた。
やがて出陣のドラが鳴り、総大将和仁親実の号令が響いた
「全軍突撃ー!」
二人は先陣を切り、戦場を駆け抜けて行った。
今後も他のキャラクター視点の物語を掲載していきます。