表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

4 男爵退場

 王子レオンとリーシャの出会いは、リーシャの父が働く城下町にある飲み屋だった。

 レオンは社会勉強の一環だと度々城下へ遊びに出かけていた。それはまあいい。彼もそれなりに勉学には励んでいたからだ。小国を守る次期王としてのプレッシャーもあっただろう。

 彼はその飲み屋で出会ったリーシャの虜になった。彼の知るどの女性より奔放で開放的な彼女にあっと言うまに夢中になった。リーシャの方はレオンの身なりの良さや振る舞いから、金持ちの息子だと当てを付け必要以上にサービスをしていた。そうして2人はあっという間に恋仲になった。それもまあいい。人の気持ちはどうしようもない。

 これを3日で調べ上げてきた従者達に感謝だ。


 何が良くないって、婚姻の場で誠実な愛を誓ったその日、初夜に、私がいるはずのベッドの中で、私を馬鹿にしたことだ。


(いや、それは少し違うか)


 結局、いつやられても関係ない。裏切られた、尊厳を傷つけられたことが悔しくて仕方ないのだ。まあタイミングで言えば最も私がショックを受ける時を狙ったのだろうからタチが悪いのは確かだが。


(私が何をしたって言うの~!?)


 これは政略結婚だ。愛がなくても仕方がない。それは承知の上だ。だからと言って、惨めな気持ちになるために祖国を離れたわけではない。私だってそれなりの覚悟と意欲を持って嫁いできたのだから。


(あんまりじゃない!)


 この話し合いは余計な馬鹿のせいで進まない。あの男爵は本気で自分が何を言ったかわかっていないのだ。


「そ、その者を地下牢へ入れておけ!!!」


 王が震える声で怒鳴った。もちろんこちらは誰が誰に暴言を吐いたかわかっている。王妃なんて顔面蒼白だ。


「な、なぜですか!?」

「ねぇどうして!? レオン! レオン!?」


 リーシャも同じく、男爵の罪の重さがわかっていないようだ。と言うか、もしかしたら私が誰なのかちゃんと理解できていないのかもしれない。

 レオンの方は悔しそうに唇を噛み締めている。


(そりゃ初夜に他の女と寝るくらいだもんな。私への暴言くらいで牢なんて……って思うのかしら)


 いやいやまさか。大国の姫で王子の妻へのあの暴言、簡単に許されるコトじゃないってわかるよね? ……ね?


 この場の雰囲気に、こちらの家臣どころかあちらの家臣達も表情が凍ってしまっている。

 とりあえず男爵は退場してくれた。これで少しは話が進むだろう。


「やっとですか」

「いや……本当に申し訳ない……」


 王は消え入りそうな声で搾り出すように呟いた。本当に気の毒だ。まあ私が言わせてるんだけど。


「それで、そこの男爵令嬢は何か言うことがあるのではなくて?」

「はぁ!? 何言ってんのこの……!」

「リーシャ!!!」


 あと少しのところで、レオンがリーシャの声を遮った。


(チッ!)


 思わず舌打ちしそうになったが、心の中でとどめておく。牢に入れてしまえば後は煮ようが焼こうがゆっくりできる。いや、暴言よりもさらにマズイことをしているのだが、王子の寵愛を受けての共犯ということでギリギリ牢行きを免れているに過ぎない……ことももちろん理解していないだろうな。

 この女とはまだ一度もまともに会話していない。が、特に勉強や教養を身につけるタイプでないことは聞いているので、話を続ければ簡単にボロを出してくれそうだ。


「殿下、今はこの方にお伺いしているのです。殿下の妻として」

「き、貴様の狙いはわかっている! この性悪女め!」

「レオン!!!」


 こちらがビックリするくらいの大声が響き渡る。この王様、そろそろ血圧大丈夫?


「アイリス様!!! 度重なる失礼申し訳ございません! 今しばしお時間をいただきたいのですが!」


 血管が切れそうな王を見て一瞬こちらが怯みかかる。流石に一国の王となると威厳……というか迫力が違う。

 そりゃあこれだけ失言が続けば、いよいよ王子と私の婚姻関係は修復不可能になると思ったのだろう。いや、もう終わってるんですけどね。


「先程から申し訳ないと何度も仰っていらっしゃいますが、このわずかな間にどれだけ無礼を重ねるのでしょうか?」


 ユリウスがゆっくりと、しかし王に負けないほどの威圧感を持って発言した。


「……言い訳のしようもない」

「それではしばらくアイリス様のお話を聞いていただきたい」


 大国の王の側近だと、王相手にこれだけ強気に出られるのか。いやはや頼もしい。


「ユリウスありがとう」


 私はあくまで余裕がある風に振る舞う。それがかえって彼らには不気味に見えたようだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ