10 離婚
結婚相手を変えるって……いやもう1回結婚してるんだけど。
「何を言い出すかと思えば!!! いい加減にしていただきたい!!!」
あっけにとられている私とは違い、案の定ユリウスは激怒した。今にも掴みかからんばかりに腕を震わせている。私側の兵士達も目を見開いて険しい顔だ。
「どう言うことですか父上! 叔父上はすでに王位継承権を放棄しています! 王になれるのは私だけです!」
まだまだ元気なレオンはいまだに床から喚いている。財政難にあえいだとしても王にはなりたいようだ。
「それはこの国が分裂しないようにと善意でやってくれたことだ! 王の権限を持ってすぐにでも王位継承権を復活させる! 誰にも文句は言わせんぞ!!!」
この場にいる全員が負けじと声を張り上げて主張している。王弟のリーベルトは国内外から評判が良い為、レオンがある程度年齢を重ねた後でもリーベルトを次期王に推す声がたくさんあったそうだ。
だがリーベルトはこの国の今後を考え、自ら身を引いた。この小さな国で内輪揉めしても良いことは何もないと考えての行動だった。
「陛下、恐れながら申し上げます。1度この場を仕切り直してはいかがでしょうか。まるで戦場のようです」
確かに全員が殺気だって物々しい雰囲気だ。どの道簡単にこの話は進みそうにないし、まとめてくれそうな人も出てきたし……。
ユリウス達とアイコンタクトで確認をとって、私は再び席に座った。床に膝をついたままの王達にもそう促す。
レオンとリーシャの側には兵士がいつでも取り押さえられるように控えていた。
その間にリーベルトにはことのあらましが伝えられていた。ふむふむと頷いているのが見える。
「それは困りましたね」
苦笑している。その笑顔がなんだか懐かしかった。
「アイリス様、単刀直入にお伺いいたします。1番のお望みはなんでしょうか」
「そのようなことを聞ける立場か!」
相変わらずユリウスの怒りは解けていない。鼻息が荒くそろそろ暴れ出しそうだ。
「少し前まではレオン様とリーシャ様からの謝罪と、それなりの罰を与えることでした」
そもそもそう言う場だったと認識している。それが離婚騒動にまで発展したのだ。
「ですが今はさっさと離婚をして国に帰りたい……と言いたいところですが、先程の陛下のお話、詳しく伺いたいですわ」
「アイリス様!」
ユリウスは驚いて口をあんぐりと開けていた。そんな無礼を許すのかと言いたそうだ。
「ごめんなさいねユリウス。でもこの国1つ潰したとして、私の気分は晴れないの」
おっといけない……国を潰すとか言っちゃった! だけどそれでユリウスの気持ちは収まってくれたようだ。こちらの王は汗をかいていたが。
「アイリス様にはこの国の次期王に嫁いでいただくと言うお約束で来ていただいております。それが変わった今となっては、このリーベルトとご結婚いただくのが一番適切かと」
この王、もしかしたらこうなる可能性を多少なりとも考えていたのかもしれない。契約書に息子の名前ではなく、次期王と曖昧に記載していただなんて。
「使い込んでしまった持参金についても必ず補填致しますので……」
こちらの台詞は小声気味だ。まあ、すぐに全額は無理だろうからこの場合分割かな。
「それで?」
「もし私と結婚してくださる場合、我が国が何を出来るかですね?」
リーベルトは話が早い。
「2人の謝罪と罰でしょうか?」
「そうですね。ですが謝罪は難しいでしょう。どうやら謝ると死ぬ病のようです。仕方ありません」
泣いて縋るくらい謝って欲しかったんだけどな。まだまだ私も力不足ということか。
「陛下」
少し低い声でリーベルトが王に促す。何か考えがあるようだ。
「……2人を流刑に処す。横領と……国家反逆罪だ……」
「父上!!? 何故ですか!!!」
「いや! いやよ!!!」
その瞬間、側にいた兵士達が2人を連れて外に出て行った。嫌だとか助けてとかごめんなさいとか大声で叫んでいるのが聞こえる。
(今更~!? 半刻前に言うべきだったわね~)
「流刑は不毛な地……離れ島で、雨風に曝されながら暮らしていかなければなりません。もちろんお付きもおりませんので、自分たちで何から何までやらねばなりません」
「反省を促すと?」
「はい。2人が心の底からアイリス様に謝罪をするまでいてもらいましょう」
まだ扉の向こう側から泣き叫んでいる声が聞こえてくる。これでちょっと溜飲が下がった。
(レオンにとって大事な次期王のポジションを奪えたからよしとするか)
「では一度離婚しないといけませんね」
「……ありがとうございます!」
(結婚4日目で離婚か~)
でもホッとして微笑んでいるリーベルトの顔を見て、これでよかったと思える。レオンと結婚する時よりよっぽど未来が楽しみだ。




