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6.悪魔になりたい

 キャリーが外出したのと時同じくして、シェリーは酔っ払いのように覚束ない足取りで畦道を歩いていた。行く宛もなく、ただ適当に村内をさまよっているだけだった。


 シェリーの剥き出しになった眼は充血して赤らみ、歯を立てて千切れた唇からは血が垂れている。手のひらに強く爪を食い込ませ握りしめている両手の指の間からも、血が滴っていた。


 キャリーへの腸の焼けるような憎しみが、血が滲み出るほど強く歯と爪に力を込めさせ、かつ痛覚を鈍くしていた。


 昨日からシェリーの胸は『どうしてロナが先に殺されて悔しいなどというふざけたことを言ったのか』という疑問と、親友を侮辱された憎しみではち切れそうになっていた。


 シェリーは手のひらに出来た傷口に更に深く爪を食い込ませた。


 キャリーにロナの死を告げたら、さすがに親友という間柄ゆえ悲しんでくれると思っていた。しかしキャリーはあろうことか「羨ましい、ずるい」とロナの死を愚弄した。キャリーは家族が死んでから村人たちを冷たくあしらうようになっただけでなく、他人を平気で嘲笑う下劣な人間に成り下がっていたのだ。


 この憎しみをキャリーにぶつけなければ気が狂ってしまいそうだった。しかしぶつけたところでまた拒絶されるだけだろう、という虚しさもまたあった。


 畦道をさまよい続けていると、道の遠くにキャリーの家が見えた。家を見た途端、憎しみが虚しさを押し切って爆発し、全身の毛穴から熱気が噴き出す。もしキャリーが家にいるなら殴り込んで罵倒してやる。シェリーは出会い頭に一発殴ってやろうと、握り拳を作った。


 シェリーはキャリーの家に接近した。昼間なのに全ての窓は閉じられている。まるで中を覗かれたくないというように。シェリーは玄関扉を叩き、「いるの?」と訊いたが反応はない。取っ手を押しても、内側に置かれた何かが扉を開かないようにしていた。


 その時、ごそごそっと布の擦れる微かな音が家の中から聞こえてきた。キャリーの友達が中にいるのかもしれない。反応しなかったのは居留守を決め込んでいるからだろう。人嫌いなキャリーと似た性格のようだ。キャリーがロナより大切にしているその友達にも憎悪が沸いた。


 友達は一体どんな奴なのだろう。そういえば昨日、『友達がいる』と告げたキャリーの顔が酷く焦っているように見えたのをシェリーは思い出す。友達に合わせたくないという必死の思いがあの顔に表れてきた。友達は、誰かに見つかったらまずいならず者なのだろうか。


 友達の正体を暴いて皆に告げ、キャリーを困らせてやりたい気持ちに駆られた。待ち伏せして、キャリーが戻ってきたら押しかけてやろう。シェリーはキャリーが帰ってくるまで、家の前の畑にある茂みに身を潜めて待機することにした。



 ◆ ◆ ◆



 キャリーは畦道を進んで少年の家へ向かっていた。道に転がっていた死体は退魔師が悪魔殺しをしてから回収されたのか、全て無くなっている。


 サクの家は村の東側の端にある。雨で腐食した木板の屋根と壁で構成された小屋が、畦道の向こうに見えてきた。窓際に葉巻を吸う中年男がいる。サクの父だ。村人たちの噂によると、彼は仕事をせず妻子を放置して夜な夜な街の酒場に入り浸っている荒れくれ者だという。


 サクの父親の背後には母親にご飯を食べさせているサクの姿があった。両腕のない母親を介護しているのだろう。


 迫ってくるキャリーに気づいたのか、サクの父が言った。


「キャリーじゃねぇが。どうすた?」


 黒ずんだ不健康な顔と眠そうな目が不気味なサクの父を余所目に、キャリーは玄関扉を叩いてサクを呼ぶ。


「サク、おめぇに用があんさね。来てや」


 サクが手を止めてこちらを見た。サクはぱっと明るい笑みを浮かべ、弾んだ声で言った。 


「キャリーおねぇ! どうしたん?」


「あたしと一緒に聖木を取りに行くべ」


「いいんか!? おら嬉すいよ!」


 サクの父が言った。


「サクはおっかぁの飯食わしとる最中さね。あと少ししで終わんよ。待っとき」


 待たされることになったキャリーは、母親にご飯を食べさせているサクの横顔を窓越しから見つめた。サクの表情はいつの間にか疲れたように暗くかげっていた。さっきの明るい笑みは何だったのか、とキャリーは首を傾げる。


 母親が咳き込んだ。飯が喉に詰まったのだろう。サクがスープを飲ませたが咳は止まらない。突然、父親が窓枠を拳で叩いてサクに罵声を浴びせた。


「咳がうるせぇ! はよ黙らせんか!」


 サクは落ち込んだ声で謝る。


「ごめん、おっとぅ⋯⋯」


 母親の咳は続いた。父親が我慢の限界だというように立ち上がり、サクに近づくやいきなり彼の片腹を思いっきり蹴り飛ばした。サクは悲鳴を上げて倒れる。父親が子供を蹴ったのに驚いて、キャリーは息を呑む。


 父親はサクの背を足で踏みながら罵った。


「黙らせろっつってんだろクソガキ! はよせぇ!」


 母親のほうはサクをかばうことも夫を止めることもせず、咳き込みながらサクにスープを催促する。


「サク、汁物はよ飲ませて⋯⋯」


 サクは震えながら立ち上がり、母親にスープを飲ませた。母親の咳が落ち着くと、父親は苛ついたような表情で窓辺に戻りまた煙草を蒸す。


 目の前で起きたのは明らかに虐待行為だった。親に虐げられたこともなく、親が子を虐げるなど今まで想像したことは一度もないキャリーにとっては、衝撃の光景であった。驚きはしたが、サクへの同情や夫の暴力を止めない母親への怒りは湧いてこなかった。


 サクは母親にご飯を全て食べ終わらせると、玄関扉を開けて満面の笑みで飛び出てきた。


「行こ、キャリーおねえ!」


 母親の声がした。


「サク、すぐ戻っておいで。おっかぁが便所したくなった時に困るだろ」


 サクは母親を無視してキャリーのほうを向き「行こ!」と言った。窓越しから視線を感じて目を向けると、母親がキャリーを睨みつけていた。憎しみのこもったようなとげとげしい眼差しで。


(? 何なん⋯⋯)


 母親に睨まれて苛っとし、キャリーは目を背けてサクに言った。


「サク、聖木のある場所まで案内してくんろ」


「わかったさね!」


 キャリーたちは家を離れ、森へ向かった。



 ◆ ◆ ◆



 枝々が頭上を天井のように覆っていて日光が遮られ、森の中は薄暗かった。森の茂みを刈り込んで出来た一本道を、サクは包帯を巻いた片足を引きずるように先導して歩いていく。


「なぁ、キャリーおねえ」


 サクは立ち止まってこちらを振り返った。


「おねえは家族のところに行きたくて死にてぇ死にてぇ言うとったんだな。なぁ?」


 また善人振ってやがるとキャリーは苛つく。


「うるせぇ偽善者、黙っとれ」


「お城に避難してた時、おねえ言ってたでしょ。死んだ家族のとこ逝きてぇから死にたい、殺されたいっで」


「だから何なん。おめぇに関係ねぇっぺよ」


 サクは小首を傾げた。


「死にてぇなら、何で自分で早よ死なんの?⋯⋯もしかして、死ぬのが怖いんか?」


 死ぬのが怖いのか? という言葉に、ぶつけたかったサクへの罵詈雑言が喉奥へ全て引っ込んでいき、キャリーは閉口する。何か言い返したいのに喉が塞がって声が出ず、悶えているとサクがこちらへゆっくりと歩み寄って、にったりと笑った。


「やっぱそうなんさね? 死ぬのが怖いんさね?」


 胸の奥深くをぐさりと突き刺されたような衝撃が走り、全身に鳥肌が立つ。

 首を吊る時、手首を刃物で斬ろうとした時、度々激痛のあまり半泣きになってやめた。しかしあれは痛いのが怖かったからであって、死ぬのが怖かったわけではない。などと言い訳がたくさん頭の中に浮かび、キャリーは上擦った声で「違うっ」とサクを罵る。サクはさも可笑しそうに口を押えてくすくす笑った。


「キャリーおねぇ、顔真っ赤だっぺよ。やっぱそうなんねぇ」


 そう言われて頬が熱いのを自覚し、恥ずかしさに頭がのぼせたキャリーは子供のように喚いた。


「うるせぇっつのっ! 口閉じろクソガキッ!」


 サクははじめからこうして自分を馬鹿にするため、聖木を取りに行こうと誘ったに違いない。悪意のこもった眼差しで微笑むサクの顔面を殴りつけてやりたくなったが、後で面倒なことになりそうなのでなんとか堪えた。


 サクはキャリーに背を向けて歩き出し、訊いてきた。


「この先どうすん? ずっと家に引きこもって死に方を考え続けるんか?」


 どうせいくじなしだからいつまでも死ねないだろうな、と嘲笑うような含みのある言い方だった。


「おめぇに関係ねぇっぺよ!」


「キャリーおねぇ、死ぬ時の痛みは避けて通れんよ。おらもおっかぁが両腕無くして血ぃだらだらでもう助からん思って、おっかぁが死んだ時に後追おう思うて首吊りしようとしたさ。そしたら息は苦しいわ首はいてぇわで結局死ねんかった。⋯⋯今思えば、あの時痛ぇの我慢して死んどけきゃよかったってすんげぇ後悔してる」


 やがて視界が開けて、日の差す明るい場所に出た。目の前に水草に覆われた大きな沼が広がっている。


「キャリーおねえ、ほら、あれ!」


 木立に囲まれた沼の畔の一角をサクは指差した。彼の指差すほうへ目を向けると、白みがかった葉を茂らせた風変わりな木が一本聳えていた。サクはその木に近寄り、こちらを振り返って言った。


「あれが聖木リーデンサクルムさね!」


 風が吹いて聖木の葉が揺れると、爽やかな香りが漂ってきた。退魔師の持っていた十字架の中にも入っていたあの木屑と同じ香りだった。


 サクは聖木の枝を折り、キャリーのほうに駆け寄ってきた。


「ほれ! 良い匂いするっしょ!」


 キャリーはサクから聖木を受け取った。これをポンコツに近づけたら、奴の魂は消えてしまうと思うと緊張で身体が強張る。


(ポンコツを殺さんように、せんとな⋯⋯)


「帰るっぺよ、キャリーおねえ!」


 サクが元来た道を戻っていくのをキャリーは背後から見つめた。


「一人ではしゃぎやがって、クソガキが」


 先程サクに侮辱された時の怒りが込み上げ、聖木を持つ手が震えた。


 森の道を進んでいると、途中サクが草生した分かれ道のほうへ入っていった。小便でもしにいったのかと気にせず一人帰ろうとした時、「キャリーおねぇ来て!」と呼び止められた。行かないとまたあいつにやかましいことを言われるのではとうんざりし、仕方なくキャリーは分かれ道へ入っていった。


 膝辺りまでの高さのある草の中を進んでいくと、生ごみが腐ったような悪臭が漂ってきてキャリーは顔をしかめた。


(何の臭いさね)


 一本の木の前に立つサクの姿が遠くに見えた。サクは片手に刃物のようなものを持ち、繰り返し木を突き刺している。キャリーはサクの背後に近寄った。


(何しとんね、あいつ。⋯⋯? 何だあれ)


 サクの肩越しに、木に蔓で縛り付けられた一羽の白い水鳥が見えた。鳥は弱々しく両翼を羽ばたかせ、くちばしから血を垂らしている。鳥の腹には刺し傷がたくさんあり、白い羽毛を血で真っ赤に染めていた。衰弱した鳥の腹をひたすら刺し続けるサクの奇行に、キャリーは眉をひそめる。


(鳥の腹を刺してる⋯⋯?)


 サクはキャリーのほうを笑顔で振り返った。彼の顔には鳥の返り血がべったりと付いていて、赤く濡れている。


「キャリーおねぇ、見てみ! おら、殺す練習してるんさ!」


 サクのそばに寄ったキャリーは、木の根元に転がるたくさんの動物の死骸を目にして立ち止まった。リス、野ウサギ、野良猫、小鳥。皮膚の腐乱した死骸にはハエが群がり、蛆虫が大量に集っている。悪臭の元はこれら死骸だったのだ。


「殺す練習? この動物たちを?」


「そうさね。おっとぅとおっかぁを殺す練習。人間を殺すのに慣れるためにさ、まずは動物から殺しとるんさね」


 父と母を殺すという、家族に愛された者には聞き苦しい言葉にキャリーは息を呑んだ。


「おら、何度も寝込みを襲っておっとぅとおっかぁを殺そう思うたんだけどな、刃物を振り下ろそうとしたら手が震えちまってさ。おかしーよな。毎日おっとぅに殴られて、おっかぁの飯や便所の介助押し付けられて、二人を殺したくて殺したくてたまんねぇのに、いざ刃物を向けた途端に手が震えるんだもん」


 キャリーは父親に殴られるサクの姿を思い出した。


 虐待する父親を殺したい。毎日介助しなければならない母親も殺したい。


 家族から苦痛を味わさせられた経験のないキャリーには、たとえ虐待されているのが辛いからというのが理由だとしても、サクの殺意を理解できなかった。わからないゆえサクが余計に屑同然の人間のように思えてきたが、同時に一縷の希望を感じて心臓が高鳴り出す。


(人殺しの練習、ね)


 肌が粟立つような高揚を覚え、自然と口元が吊り上がる。


 キャリーは一生懸命繰り返し鳥を刃物で突き刺すサクを背後から見つめた。サクに対し抱いていた苛立ちは高揚感に掻き消され、胸が高鳴っていた。


 サクはさも楽しそうな口調で言った。


「人殺しができるようになるには、人殺しちゃいかんと止めてくるもう一人の自分を殺さにゃいかんね。だからこーやって命あるものを殺すて、殺すて、心を麻痺させて、もう一人の自分の息の根を止めるんさね。キャリーおねぇも、死ぬの怖い思うて邪魔しとくるもう一人自分を殺してみるさね。そしたらきっと、逝けっぺよ。家族の待つ天国にさ!」


 サクは手を止め、キャリーを振り返った。


「おら、悪魔になりてぇ」


 サクは片手の指で頬に付いた返り血を拭い、唇全体に、目縁に塗った。サクの唇は赤く染まり、目からは血の涙のような線が垂れる。血で化粧した顔をサクはにったりと歪ませた。


「おっとぅとおっかぁを殺して、罪を背負って、処刑されて、地獄の業火に焼かれて、悪魔に堕ちて⋯⋯おらみたいに家族に苦しめられとる子供たちを助けてやりたいんさね。⋯⋯もしどうしても死ねなかったら、おらがキャリーおねぇを殺したるわ。おらが殺すのに慣れるまで、待っとれ!」


 血で塗られた唇を大きく開けて歯を剥き出しにし、サクは「ぎゃはははははは」と狂ったような笑い声を上げた。



 ◆ ◆ ◆



 キャリーとサクは村に戻った。別れ際、サクがキャリーに言った。


「おら、キャリーおねえん家行っていい?」


 来られてはまずいので拒否する。


「だめ」


「何でえ?」


「だめっつったらだめさね」


 サクは落ち込んだように項垂れた。


「⋯⋯おら、家に帰りとうない」


 自分を虐待する親のいる場所には行きたくないということだろうが、サクの気持ちなどキャリーにはどうでもよかった。とにかく自宅には来ないで欲しかった。


「はよ帰れ。おっかぁがお漏らししたら大変なんだろ?」


「⋯⋯はぁい」


 嫌々というようにそう返事をし、サクは自宅へ続く道を歩いていった。


「さて、帰るか」


 キャリーも帰路をたどった。サクが背後からこっそり付いてきていないか、時々何度も後ろを振り返る。サクの姿は見えなかった。


 帰路をたどる途中、サクの殺人の練習を見ていて高揚感を覚えたのをキャリーはふと思い出した。


 脳裏にサクの言葉が蘇る。


 ――⋯⋯もしどうしても死ねなかったら、おらがキャリーおねぇを殺したるわ。おらが殺すのに慣れるまで、待っとれ!


(使い物にならないポンコツの代わりに⋯⋯)


 何であのクソガキなんかに頼ろうとしているんだと我に返り、キャリーは自分に苛立った。


 自宅前に行くと、今度はポンコツを殺してしまわないよう気を付けなければという緊張に駆られ、心臓の鼓動が早まった。


 玄関扉の隙間に指を差し込み、心張り棒を外す。扉をそっと開けると、病床で寝ていたポンコツがこちらに目を向けた。聖木の枝先をポンコツにかざしてみたが、奴は眉をひそめるだけだった。


 この枝は悪魔の魂を消すというのに、なぜ怯えない? ポンコツが恐怖に暴れ出さないことに、キャリーは全身の体温が下がっていくのを感じた。


「こ、怖くねぇんか? これが?」


 キャリーはポンコツに枝を向けながら恐る恐る奴に接近する。ポンコツは「何それ?」と聞きたげに眉をひそめ、じっと枝を見つめるだけだった。枝先を奴の目と鼻の先に近づけても、一切怯えない。


 枝先を奴の額に近づけていく。もし枝先が当たったら、ポンコツは死ぬかもしれない。


 その時、ポンコツがキャリーから枝を奪い取った。


「あっ⋯⋯」


 ポンコツは枝を見つめて呟く。


「ルゥーデュンシェギァーリャヒャミゥ⋯⋯?」


 子音まみれの複雑な言葉だった。


("ルーデュンシギリャミュ"⋯⋯?)


 ポンコツは枝の匂いを深呼吸するように嗅ぎ、ぽいっと床に投げ捨てた。


 足元が崩れ落ちるような感覚に襲われ、キャリーは倒れる。


「は?⋯⋯えええぇ⋯⋯?」


 ポンコツは確かに枝に触れた。それなのに、死なないとは。


 全身が震え出す。


「効いてない、だと⋯⋯?」


 ポンコツは腰を抜かして倒れたキャリーを不思議そうに見下ろしていた。


(退魔師様⋯⋯どういうことだい。ちっとも効かねぇじゃねぇか) 


 キャリーは退魔師の言っていた言葉を思い出す。


 ――これは『聖木』といいます。悪魔の魂を消してしまうほどに強力な聖なる力を持つ木なのです。


 退魔師は皆の前で、聖木を使って悪魔殺しをやってみせた。だから退魔師を嘘ついたなんてことは有り得ないだろう。


 ということは、ポンコツは聖木が効かないほどに強靭な悪魔だというのか。もしかすると悪魔の上位存在なのかもしれない。怪我をして貧血でふらふらと身体は人間並みに脆いが、魂だけは最強だというのか。だから聖木など微塵にも効かないのだろうか。


 ポンコツが極悪非道の畜生以下の悪魔から急に人知を超えた神様のように思えてきて、全身の産毛が逆立つ。ポンコツに近づいてはならないような威圧感を覚え、強風に押されるようにキャリーは後退っていく。


(ポンコツ、一体何者なんだよ⋯⋯)


 その時、キャリーの身体に影が被った。影が伸びているほうを見ると、半開きになっていた玄関扉の前に誰かが立っていた。逆光で人影は暗く、誰かわからない。


 狼狽している中、更に誰かに覗き見されて追ち討ちをかけられたキャリーは、頭が真っ白になり硬直する。


「誰⋯⋯?」


 誰何すると、人影は喋った。


「キャリー」


 シェリーの声だった。


 人影の正体はシェリーだった。


「シェリー⋯⋯おねぇ⋯⋯?」


 身体が芯から凍てついていくのを感じた。

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