04 居酒屋のバイト
「子連れが少ないタイプの繁華街か。次のネタは居酒屋が良いと思うんだが、どうだ?」
緒環が佐々木に提案する。緒環の言う通り子供は少なく、大人が共感できるタイプのネタが良いと判断できそうだ。
「俺もそう思ってた。それでいこう」
昼休憩も程々に、間の確認やツッコミの言葉などを急いで確認する二人だった。
緒環「どうもー」
佐々木「どうぞよろしくおねがいしますー」
午後の出番となった。慣れた口調でトークを始める二人。
緒環「最近僕ねはまってることがあって」
佐々木「何にハマってるんですか?」
緒環「お酒にはまってて」
佐々木「あー、いいですね、美味しいですよね」
緒環「そうなんですよ果物とか潰してね、床下とかに数日放置して、あとばれないように周りも警戒して」
佐々木「ん?それって密造酒じゃねーの?」
緒環「えっ!?」
佐々木「普通さ、お酒ハマってるって言ったら飲む方だよね。まさかこっそり作る方にはまってるとは思わなかったよ」
緒環「そ、そんな密造酒だなんて……そんな悪いこと……」
佐々木「いや結構手慣れてそうそうだし、あとばれないように警戒って悪いことしてる自覚あるよね?」
緒環「い、いやそんな事するわけ無いじゃん」
佐々木「本当に?」
緒環「冗談だって、あごめんちょっと電話」
緒環「ごめん、例のアレ、バレちゃってさ。地獄耳なやつがいたもんだよ。そう、今すぐに捨てちゃってくれないかな。ごめんね、お願い」
佐々木「やっぱ密造酒じゃねーか」
緒環「いやいやそんなわけないでしょ」
佐々木「それに何、地獄耳なやつって。自分からぺらぺら言いだした話だよね!?」
緒環「そうじゃないって安心してって」
佐々木「本当かよ
緒環「お酒にハマってるってのは本当だから」
佐々木「じゃあどんなお酒が好きなの?」
緒環「炭酸がはいっててシュワシュワしてるやつが好きなんです」
佐々木「あー、ビールとかね?」
緒環「いや、ビールはあんまり」
佐々木「じゃあ何が好きなの?」
緒環「コークハイとか、ジンコークとか、ラムコークとか好きですね」
佐々木「コーラが好きなだけじゃねえか」
緒環「なんてったって、飲み物だったらコーラが一番美味しいですからね!」
佐々木「そんなにコーラ好きだったらお酒と飲むんじゃなくてコーラ単品で飲めよ」
緒環「いやそれだと健康に悪いって言うじゃないですか」
佐々木「どう考えたってお酒のほうが健康に悪いだろ!」
緒環「それでなんですけどね、僕、居酒屋の店員さんってのをやってみたくて」
佐々木「ああ」
緒環「佐々木さん酔いつぶれた客の役やってくれない?」
佐々木「なんで酔いつぶれた役なんだよ。寝てるだけなんだからやることねーじゃん」
緒環「あ、ごめんごめん、じゃあ普通の客やって」
佐々木「提案の内容がおかしいだろ…酔っ払ってんじゃねーの…?」
佐々木「ちょっと酒でも一杯飲んで帰りたいな~。お、こんなところに居酒屋さんあるじゃない。ちょっと寄っていこうかな」
緒環「へいらっしゃい!!芋焼酎でよろしかったですか!?」
佐々木「まてまて気が早すぎんだろ」
緒環「え?」
佐々木「なんでいきなり芋焼酎何だよ」
緒環「いや、ぴったりかなーって」
佐々木「ぴったりでどういうことだよ。普通はさ、お一人様ですかって聞いたり、席こちらですとかやるんじゃないの?」
緒環「なるほど~」
佐々木「しっかりしてくれよ」
佐々木「いや~ちょっと酒でも飲んで帰りたいな~。お、ここの居酒屋、ちょっと寄って行っちゃおうかな」
緒環「へいいらっしゃいー!、お客様独身ですか?」
佐々木「いやまてまて、え、なんで独身かどうか聞いた?」
緒環「だってさっきアドバイスしてくれたじゃん、お一人様ですかって」
佐々木「お一人様っていうのは来店人数の確認してねってことだからね」
緒環「あ、そっち~!」
佐々木「そっち~って、ここでお一人様の意味を人数なのか独身なのかで間違えるのお前くらいだよ」
佐々木「もうなんか俺だけ真面目にやっちゃってさ、小芝居までしちゃって。恥ずかしいんだけど」
緒環「ごめんごめん」
佐々木「もう席についてからでいいよ」
緒環「へい!こちらメニューです!」
佐々木「どうも、へ~お酒色々あるな~」
緒環「やっぱりうちはお酒が売りなんでね!」
佐々木「うーん決められないな。ここのおすすめってやっぱりさっき言ってた芋焼酎?」
緒環「いえ、ビールです!」
佐々木「おいちょっと待てくれ。じゃあなんでさっき芋焼酎って言ってきたんだよ」
緒環「あー、それはあなたがなんか垢抜けない見た目してるな~感じがして」
佐々木「どういうこと?」
緒環「芋っぽいな~って」
佐々木「田舎者って意味の芋っぽいな~から芋焼酎っぽいな~って繋げたってこと?!」
緒環「はい」
佐々木「お前それ、俺にも失礼だし、いろいろな方面にも失礼だから止めろ」
佐々木「あーじゃービールくださいビール」
緒環「へいビール一丁!」
客から見て右手側に一旦店員役の緒環が移動する。
佐々木「何食おっかな~」
緒環「へいビールお待ち!」
佐々木「食べ物は何がおすすめなの?」
緒環「やっぱりうちはこの刺し身の盛り合わせですね!」
佐々木「へ~何の刺し身?」
緒環「へい!ブリとメジロとハマチとツバスです(→ここからAパートかBパートに分岐)
佐々木「おいちょっと待ってくれ、それ出世魚じゃねえか」
緒環「え?」
佐々木「いやだから、その魚たちはサイズ違うってだけで全部同じ魚ってこと!!!」
緒環「あ、そうだったの!?」
佐々木「いや、知ってて言ってるよね。大きい順に言ってきてるし、ツバスなんてあんまり聞かないでしょ」
佐々木「何にしようかな…お、この本鮪の刺身って良いね!鮮度が命って」
緒環「へい!それもうちのおすすめですよ!」
佐々木「これにしようかな。すぐ出せる?」
緒環「へい!これだと大体1ヶ月後ですね」
佐々木「一ヶ月!?え?なんでそんなにかかるの?」
緒環「そりゃもう鮮度が命なんで!注文を受けてから釣ってきてもらうんです!」
佐々木「それくらいは店に置いとけよ。居酒屋で産地からの受注生産は初めて聞いたよ」
佐々木「え、じゃあ他になんかサッと出せる物ないの?」
緒環「それならポテトフライならすぐに出せますよ!」
佐々木「どれくらい?2.3分?」
緒環「へい!それくらいです!切って冷凍してあるんで油で揚げるだけですから!」
佐々木「いや、そんな店の裏側までは言わなくていいよ」
緒環「もうね、業務用の3キロの買ってあるんで!」
佐々木「いやいいよそこまでいわなくて」
緒環「近所の業務用スーパーで安く買えるんで!ありがたいですよほんと!」
佐々木「やめてくれ!飲食店の裏側はこっちも見て見ぬ振りしようとしてるんだから。な。そこは仲良くやっていこうよ
佐々木「他になんか作り置きでサッと出せるものなんか無いの?」
緒環「あるっちゃありますよ!」
佐々木「じゃあそれお願い」
そう言われた緒環は今までの元気さを無くし、急にあたりをきょろきょろ見渡し始めた。
そしてふところからこっそりと瓶を取り出した。
緒環「あの、これ、作りおきのお酒なんですけど、他の人にはヒミツにしといてくださいね」
佐々木「ってそれお前の密造酒じゃねーかいいかげんにしろ」
ふたり「どうもありがとうございました~」
そろそろ夕食にでもしようかという時間帯。
ネタ的にもちょうどいいタイミングのものとなっていた。