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02 新聞勧誘


 今日は小規模会場での漫才だ。

 午前の部の中盤頃の出番となった緒環(おだまき)佐々木(ささき)は意気揚々と舞台に臨む。

 

 

緒環「どうもー」



佐々木「よろしくおねがいしますー」



 センターのマイクを軸に、客席から見て左手側にボケ担当の緒環、右手側に佐々木が立つ形となって漫才が始まった。



緒環「最近ね、僕新聞取り始めたんですよ」



佐々木「へー良いじゃないですか」



緒環「それでねいくつかとって読み比べしてるんですよ」



佐々木「なかなか、気合入ってますね」



緒環「ただ書いてあることほとんど同じなんですよね」



佐々木「そんな事ある?」



緒環「うん、朝7時からニュースで、その後は……」



佐々木「それテレビ欄見てるよね」



緒環「あ、そういうことだったの!?じゃあ新聞の上の方に書いてある数字とかも同じだったのは?」



佐々木「それ日付だよね」



緒環「あ、そういう関係だったの?!」



佐々木「むしろそこバラバラだったら信頼性なくなっちゃうからね。違うところでなんか無いの?」



緒環「実は、僕新聞読むの自体がまだ苦手でさ、よくわかんないんだよね」



佐々木「なるほどね」



緒環「でも、なんと!4コマでまとまってる箇所があって」



佐々木「それコボちゃんだね、……もしくはとなりの山田くんだね」



緒環「いや、僕は緒環ですけど」



佐々木「俺の隣にいる人の話じゃなくて4コマのタイトルね!4コマ漫画すら大して読めてねえじゃねえか」



緒環「それほどでも」



佐々木「褒めてねえよ」



緒環「それでね、新聞勧誘のアレ、実際にされてみてすごかったからちょっとやらせてよ」



佐々木「しょうがねえな」



 挨拶を終わらせた緒環は、一旦コントへの仕切り直しをして漫才を続けた。



緒環「ピンポーン」



佐々木「はーい」



緒環「新聞でーす」



佐々木「いやちょっと待てよ、言い方ちがくね?」



緒環「え?だって新聞ですよ」



佐々木「その言い方は新聞配達の言い方であって勧誘では無いだろ」



 緒環は不満そうな顔をしながら若干左手側に移動し、最初からやり直し始めた。



緒環「ピーンポーン」



佐々木「はーい」



緒環「こんにちは~新聞の勧誘でーす」



 緒環はそう言いながら佐々木の横を通り玄関を通過しそうな素振りをする。



佐々木「まてまてまて、なんで家にあがろうとしてんの?」



緒環「今日勧誘全部断られてて心に来ちゃったので、ちょっと休ませてもらおうと思って」



佐々木「いや他人の家でくつろごうとするメンタルあるなら別に心に来てないでしょ。」



佐々木「というかちょっと待って、今まであがりこんでこようとする勧誘いた?」



緒環「一人いたけど、警察に通報してやりましたよ」



 ハハハッと爽やかに笑顔で緒環は返すが、佐々木は怪訝そうな顔だ。




佐々木「じゃなんで今演技に取り入れちゃったんだよ」



 佐々木のツッコミを無視するような形で緒環はボケ担当として演技を続ける。



緒環「奥さん新聞お願いします~一ヶ月だけでいいので~」



佐々木「困っちゃうわね~」



緒環「そこをなんとかお父さん~」



佐々木「う~んそう言われてもな~」



緒環「どうですかおじいちゃん」



佐々木「ちょっと待てよ。役を統一させろよ」



緒環「いやでも、実際に奥さんとお父さんとおじいちゃんがそこいるって設定だから」



佐々木「え!?勧誘相手に大人三人も必要?」



緒環「というか息子とペットもいる設定だから」



佐々木「家族総出なの?そこは一人で良いだろ」



緒環「じゃポチで」



佐々木「なんでペットにやらせんだよ。奥さんで良いだろ」





緒環「お願いしますよ~これ、今日の記事でサンプルです~受け取ってください~朝刊だけでもとってくれたらサービスしますんで~」



 これ見よがしな低姿勢と表情を取り繕う緒環だが、奥さん役の佐々木の表情は訝しげだ。



佐々木「そうね~。なにか特典があったりするの?」



緒環「今朝刊をとってくれたら、朝刊を2刊届けます」



佐々木「いらねえよ」



緒環「嬉しさ2倍じゃない?」



佐々木「なわけねえよ。ポイントカードじゃないんだから」



佐々木「その流れなら夕刊をサービスとかじゃないの普通」



緒環「いや、夕刊サービスしてほしかったらやっぱり夕刊取らないとだめでしょ」



佐々木「バランス考えろよ」



 奥さん役ではあるものの、ツッコミを入れるタイミングでは漫才冒頭と同じ口調に戻す佐々木。

 語勢とキレの良さはやはり譲れないものである。

 

 次の漫才の組もある関係上、二人はテンポ良くコントを続ける。



緒環「あそうだ、今新聞とってくれたら洗剤差し上げますよ!」



佐々木「あーそういうサービスもあるのね」



緒環「これ使ってくれたら綺麗になりますよ。車が」



佐々木「車用かよ。普通の服洗う用のないの?」



緒環「それが今だけ手持ちにないんですよ」



佐々木「なんで?」



緒環「これまでのご家庭に渡しちゃったんですよ」



佐々木「え?!まっておかしくね?さっき全部断られてたって言ってたよね?」



緒環「はい」



佐々木「断られた家にも洗剤あげてるの?」



緒環「はい」



佐々木「それもうただの良い人じゃん」



緒環「それほどでも」



佐々木「だから褒めてねえよ」





佐々木「それで?うちにくれるのはなんでしたっけ?」



緒環「車の洗剤です」



佐々木「余り物か~。うち車ないんですよね~」



緒環「あ!じゃあ車の洗剤受け取ってくれたら新聞サービスしますから!」



佐々木「逆だよ!」



佐々木「うーん、これなら別に新聞とらなくてもいいかしらね」



緒環「そんなこと言わないで奥さん、お願いします!」



緒環「ちょっとだけでいいんで!10年だけで!」



佐々木「長えな。さっき1ヶ月だけでもとか言ってなかったっけ」



緒環「す、すいません!一週間分、いえ、今日の分だけでもいいので!」



佐々木「今日の分はさっきサンプルで貰ったよ!」



 はあ、と一息つく佐々木。

 演技でもあるが、ネタの大部分は問題なく終わらせることが出来たので一安心という本心も少し混ざっていた。

 


佐々木「え、本当に新聞勧誘下手すぎない?」



緒環「うーん僕には向いてないのかもしれないですね」



佐々木「なんかさ、うちの新聞はここがすごいんです!ってのないの?」



緒環「あ、それなら、ここが面白くて好きなんですよ。この刈り上げの少年が主人公の、」



佐々木「ってやっぱ4コマ漫画じゃねーか、いい加減にしろ」



ふたり「どうも、ありがとうございました~」





 拍手と共に退場する二人。

 

 時間的には10秒程度余らせる程度になってしまい、練習が足りないなと緒環は考える。

 

 しかしその一方で佐々木は、拍手よりも笑い声の方が大きい中で退場したいなと考えていた。

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