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▼冒険の書に記録しますか?
町に帰り、ギルドに戻ったとき、初めに受付の人から聞いた言葉は一人でも生還できた事への喜びであり、二言目がその原因についてだった。
主犯が幹部であると聞いた受付の人は即座に連絡を取り合う為に行動し、ラグナはヒルデを連れて町外れの丘にある小屋に着いた。
「ここが俺の家、なにもないけど本当の意味で何もないよりはましさ」
部屋は暗く、ラグナが指を鳴らして周囲のランプに火を点けると部屋部屋に明かりが灯り、閉じていた窓を開き、日の光を入れる。
「......ずっと一人だったの?」
「いや、昔は色んな人がいたよ。......記憶が薄くなってきたけどそれだけは覚えている」
「......そうなんだ、私は記憶さえもないから......わからないけど」
「無いなら作っていけばいよ......。皆はじめは何もない無から始まるんだ」
そう言いながらラグナは台所に立って魔法で火をつけてその上に鍋をおき、棚から牛乳とチーズを入れ、ゆっくりとかき混ぜながら溶かす。
「......その、えと。私は何を」
「ラグナでいいよ。それと赤い棚にパンがあるから取り出して」
「わかった」
数分もするとラグナは台所の火を消して石の板に鍋を置いてそれをテーブルの上においたあと再び小さめの炎を点火してじんわりと暖めながら席に座る。
「困った時はとりあえずこれでいいんだよなぁ」
「??」
不思議そうにパンを持ちながら鍋を見るヒルデの手にラグナが自分の手を添えてゆっくりとチーズをつける。
ヒルデがそれを一口で食べると少し首元を掴んでばたばたとしているのをラグナは微笑ましく見ていた。
「ふふっ......流石にそれは熱いよ」
そんなこんながありながらも二人はパンを食べきり、火を消したラグナは立ち上がり、剣を一本持ってドアを開ける。
「ラグナ?」
「......正直今はじめて......いや、今日はじめてだったんだよ。魔法を使ったの......。とりあえず今日は魔法を使って軽く練習かな?ヒルデはどうする?」
「......面白そうだからついていく」
「グッド」
剣を持ったラグナは家の裏手の地面に剣を突き刺して魔力を込める。
すると土は水分を含み一瞬で泥になり、剣が抜ける。
「これぐらい掘り返せばいいか......よし」
二度目に剣を突き刺して魔力を込めると今度は剣の先を中心に凍り始め、数秒で泥の部分全てが凍り、剣を魔力で補強しながら持ち上げる。
「おぉぉお」
「お、重っ」
感動するヒルデをよそにラグナはすぐに凍った泥を投げ飛ばし剣を引き抜く。
正方形ぽい形で空いた穴に倉庫から薄い石を組み立てて一瞬のうちに浴場を作り上げる。
「?」
「絶対魔剣士の本来の使い方じゃ無いだろうけどいいや」
空の浴槽にナイフを投げ込み、同時にナイフの先から勢いよく水が出始め一瞬で水が張り、ナイフを回収して水を止める。
「後はさっきみたいにわざと作っておいた隙間に火をつけて暖めればよし」
「......何でこんなことするの?」
「本来は風呂屋っていう専用のところがあるけど遠いしあそこはうるさいから......」
「ふーん、色々あるんだね」
「いろいろ、ね。とりあえず先に服全部脱いで入ってて良いよ、俺は取りに行くものあるから」
そう言ってラグナは剣を持って何本か木を斬り倒した後、それを引っ張り、板にして浴槽のところへ向かう。
「......♪」
「成功か」
ぐったりしているヒルデをよそに次々と木の板を置いて家を拡張し、お風呂場を完成させる。
煙突を作り、その他の部分を火山灰等を使った泥を壁に塗って一瞬で凍らせて機密性を強めて天井を敷いてラグナは一度リビングに戻ると結構な魔力を使ったせいかラグナは少しぐったりして机に伏せる。
気がつけば空は暗く、星が夜空に輝いて、窓から入り込む風が肌寒く窓を閉める。
ゆっくりと瞳を閉じると今朝の光景が生々しく再生されるがそれに怯えず生半可な気持ちではなく、一人の『冒険者』ではなく『魔王を討つ者』としての覚悟を静かに決める。
「......乗り越えないと......。大丈夫、次は死なせない。一人でどうにかする......だから」
そのまま意識を失い、次に目が覚めた時、そこはベッドの上で隣にヒルデが寝ていて、椅子には受付の人が居た。
「ごめんなさい、昨日の件で......その」
「......なるほど」
ラグナが受付の人の手に持っている瓶を見て歯切れの悪いその言葉の意味を察した。
「数少ない最上級職の中でも希少な『魔剣士』を失うわけにはいかず、上から薬で意識を半分消してでも......」
「大丈夫ですよ。もう、立ち直りました」
ベッドから起き上がるラグナの瞳はもはや少年とは思えないほど、それこそ幾度となく死線を越えた冒険者のような冷たい瞳になっていた。
「......。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい......私があの時止めていれば」
泣き崩れ出す受付の人をラグナは抱き締め、頭を撫でる。
「なら、次から止めればいいじゃないですか。過去を悔やむのはいつでもできます、でも、あなたは生きていて、今も町には冒険者が溢れています、あなたは毎回こうなのですか?違いますよね、初めての状況に判断を間違えただけ......次に繋げれば良いのです......だから泣くな、立って自分の戦場に立って戦え!!それもできないならあなたこそその薬でくたばれ!!この世界は優しさだけでは出来ていないんだ!!!」
ラグナの優しい声から豹変した声に受付の人の涙は止まりゆっくりと顔を向ける。
「......ふふっ。私、5つぐらい歳上の筈なのに......そうですね、それではギルドで二人を御待ちしております」
そう言って家を出た受付の人の言葉に理解をする前に後ろからヒルデが抱きつく。
「よろしくねラグナ!!」
機械っぽい感情の薄い感じから急に人間みたいに声が出るヒルデに驚き、そのまま床に倒れる。
「......待って!!行くあてないから家に居るのはわかるけど来るの!?」
「当然だよ。私は何もないから、これらからラグナと作っていきたい」
その自分で言ってしまった事に折れないと察したラグナは抵抗することもなく折れてヒルデを退かして立ち上がって身支度を済ませる。
「じゃあ行こうか。ヒルデ!!」
「うん。行こうラグナ!!」
ギルドに入ると無数の冒険者がラグナにパーティーの誘いをかけるが一切耳を貸さずにラグナは受付の人の前に立つ。
「少し遠出したいから見合うクエストありますか?」
「はい!ギルドがある隣町の『シャルル』への荷物輸送の護衛です。『最上級職のお二人』なら余程の事が起こらない限り達成できます」
「......?あれ、もうやったの」
「はい。ヒルデさんは『エンチャンター』の適性があったので」
その一言で周囲の冒険者は黙り込んだ。
それも仕方がなく、この街は比較的平穏であるため熟練の上級職の冒険者はほぼ存在せず他の町へ流れ、基本的に下級職であり、そんな絶対的な力を持った存在が二人もいると基本的に自分達がただの足手まといだと察したからである。
「それでは行ってきます」
「いってらっしゃい。良い旅路を」
ギルドを出ようとした瞬間ラグナ達は周囲の冒険者に声をかけられる。
「?」
「こういうのは本来俺たち大人がどうにかしないとって思うが......ははっ。俺達は何年経っても弱いままでな......だから!!これは俺達弱い大人からのせめてもの心意気だ!!この銀貨で装備を整えて、必ず帰ってきてくれ!!」
そう言って一人の大柄な男が袋に銀貨がつまった袋を渡す。
それをラグナは受け取り、感謝した後、ギルドを出ていきその後をヒルデが追いかける。
そのまま二人は街道を歩いて鍛治場に着く、扉を開けるとそこには無数の剣や盾、鎧があり、カウンターの席で男が酒を飲んでいた。
「......悲しい世界だな。だが、ようこそ魔王を撃とうと志す戦士の瞳を持つ少年、子供のごっこ遊びの時間は終わったな」
「おじちゃん。彼女の武器とこの剣をもう一本と両手持ちの巨大な剣一本くれ。銀貨ならある」
袋を渡したがおっちゃんはその袋から三枚の銀貨を取り出しただけで突き返す。
「いや、流石にこれだけだと」
「馬鹿言え。残りの御代は全部その瞳と決意、そしてこれから確実に英雄になるお前の名前でお釣りが来るほど貰った。嬢ちゃん、いい武器見つけたか?」
「......これがいいです」
そう言って大きすぎるガントレットを振るヒルデ。
「ハハハ。力はあるがそれァ嬢ちゃんの手には合わねぇよ。ちょいと待ってろ、合いそうなサイズを持ってきてやる」
そう言っておっちゃんが裏手の倉庫に入り、数分してガントレットと二本の大きさの違う剣を持ってきた。
「どうよ、女性武闘家御用達ガントレット......この町には魔法金属系の品はないから特殊な効果はないが嬢ちゃんの力なら問題ないだろ......お前らもし遠くの町へ行って金属とか魔物の骨でもいいから持って帰ってこいよ、この鍜冶の天☆才『ヘパイストス』の俺がなーんでもつくってやるよ!!ここだけの話、俺も元勇者一行の『魔剣士』でな。あ、黙ってろよ。俺ァもう色々体にガタがきてるから隠居してぇんだからな!!」
笑いながらとんでもない事実を気軽に暴露するヘパイストスのおっちゃんにラグナは笑いながら「わかりました」と、言って剣を装備して鍛冶場を出る。
「ったく。魔剣士とエンチャンターか......。頑張れよ、英雄」
小さく呟いたあと再びヘパイストスは椅子に座って酒を飲み始める。
装備を整え、馬車の列を見たラグナは先頭の人にギルドからの護衛の紙を渡し、最後列の馬車に入る。
少しすると他の護衛の冒険者や観光客が馬車に乗り込みゆっくりと馬車が動きだし、シャルルの町へと向かい出す。
▼ヒルデが仲間に加わった!
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