出会い
チュートリアル
とある世界の小さな町『ホルスト』
煉瓦や木製の家が立ち並び、町は平穏な空気に包まれていた。
そんな平和な町でも世界に混沌と恐怖をもたらす魔王を倒そうと志す者達が居た。
「......えっと。その、ありがとう」
黒い短髪で紅い目の剣を持った少年が自分の前を歩く三人のパーティーに感謝する。
少年の名前は『ラグナ』、ある日ホルストの町から数キロ離れた農家の家の前に捨てられていてそのままその家の養子となった男の子。
「おいおいおいよしてくれよ、感謝するのはこっちだよ。まさか俺達と同じ歳で最上級職の中でもトップクラス、歴代勇者パーティーでも幾度となく名を連ねた『魔剣士』が他のパーティーじゃなくて俺のパーティーに来てくれるんだぜっ!」
パーティーのリーダーである金髪の少年が答える。
少年の名前はリュウという名前でギルドから『戦士』の職業を奨められ、右手にはショートソード、左手には丸い安物の鉄盾を装備していた。
「そうそう!......ただちょっと妬いちゃうなぁ、魔力の量も使える魔法の質も全部今はラグナに負けるからこれじゃあ荷物持ちで終わっちゃうよ」
続けて赤い髪の少女が喋る。
少女の名前はミレーユと言い、一本の長い木の杖を持っている。
その背中には大きなバッグがあり、その中には無数の傷薬やマナポーションが入っていた。
職業は『魔法使い』
「大丈夫だってラグナ君はわざわざ魔法を使わなくても剣に属性魔力を流し込んで斬る方が強いから。ミレーユは遠距離の魔法攻撃で役割が違うから安心して」
そう、軽く肩を叩いく弓を持った青い髪の少女が明るく接する。
少女の名前はルーイ、弓とナイフが武器であり、職業は『弓兵』。
四人は歩きながらあるところへ向かっていた。
「......。」
「どおしたラグナ?緊張しているのか?平気だって、確かにこれから行くところは魔物に占拠された遺跡だけど精々この地域で出るのはゴブリンやレッドウルフとかの雑魚だよざーこ」
「そうだよ、確かに受付の人はEランクの中でも最も難しいって言ってたけどラグナなら余裕だよ」
「確かに一度も実戦経験を積まずに行くのは私も反対だけど......大丈夫」
妙に冷や汗を流すラグナに三人は軽い気持ちで答え、道中に一切敵と会うことなく、四人は遺跡にたどり着いた。
遺跡は破損が酷く石造りであった為、どこか不気味さを感じさせた。
「よし、じゃあ俺が前衛、ラグナが一番後ろで背後からの奇襲を警戒、それでいいな」
「......わかった」
石の扉を開け、リュウ、ミレーユ、ルーイ、ラグナの順で階段を降りる。
松明の明かりを頼りにゆっくりと一本道を進むが不自然なほどに敵が現れず、四人は大きな扉の前で立ち止まった。
扉に耳を当てたリュウは少し黙り込んだ後、剣を構える。
「皆、静かに......。この分厚い扉の向こうに魔物の呻き声がする」
「嘘......」
「初戦闘がこんな狭い室内かぁ」
「......。ここは俺がやるよ」
少し震える女性二人に対し、ラグナが剣を構える。
「よしきた、じゃあ俺が扉を蹴っ飛ばすからおもいっきりぶっ飛ばしてやれ」
ラグナが剣を構えると剣の先から炎が現れ、その炎が剣身を包みこむ。
「よしっ」
リュウがドアを全力で蹴り破った瞬間
「な、なに「でやぁああああ!!!」」
司祭のような男が振り返った時には炎を纏ったラグナの剣はその欠けた頭に当たり、そのまま一気に両断され、叫ぶ間もなく炎で全身を焼き尽くされ灰になった。
「す、すげぇ一撃だ。今のって『ワイトプリースト』っていう中級だろ?」
「凄いじゃん!!やっぱりラグナは凄いよ!!」
「最上級職......やっぱり伝説を間近で見ると頼もしい」
近づく三人に対しラグナは少しだけ笑って剣を鞘に納める。
今の一撃で確実に自分の実力を理解したからこそラグナはその心に自信を持ち、元気が出た。
「......ところで、ここは一体何のために存在したんだろうな」
「だね。とりあえずこの階段を降りて調べよ?」
疑問に思ったリュウに対してミレーユが更に地下へと伸びる階段に指をさし、とりあえず四人は再び地下へと降りた。
階段を降りるとそこは大きな箱が有るだけの部屋であり、四人はただそこで立ち止まってしまった。
「......??まさかこれだけか?大したことねぇなぁ」
「そうだね、帰ろっか」
「あぁ。......?」
先に階段を上るリュウとミレーユに対しルーイはラグナに近寄る。
ラグナは手で棺の砂を払いながらそこに書かれてある文字を読んでいた。
しかし文字は一切読めず、ラグナは箱の蓋を退かす。
「ラグナ?」
「......ごめん、ただの人の棺だった」
「......そう。きっとこの遺跡は大切な人のお墓だったのでしょうね」
ラグナは無数の骨の入っていた棺の蓋を閉ざそうとした瞬間、何故か棺から見られた気がした。
しかし気の迷いだと思って蓋を閉め、二人で振り返ると
首だけになったリュウとミレーユを持った巨大な鉄の鎧の怪物がそこに居た。
「よぉ。ここは今、このオレ魔王軍幹部『フェンリル』様の別荘なんだぜ?勝手に入られたら困るだろうがよぉ!!!」
その瞬間、その鉄の体からは考えられないほど高速で巨大な鉄の拳がルーイごと壁に叩きつけ、その鉄の豪腕が壁を貫き、周囲にはルーイの潰れた肉が飛び散る。
「ケッ......雑魚かよ。アーったくしゃーねーなぁー!!!!魔王の雑魚が勇者出てきたから倒せって言うから来てやったのによぉ!!まぁ、あの馬鹿が言わなければなぁ」
乱暴な口調で軽くリュウとミレーユの首を握りつぶし、適当に投げ捨てた後、フェンリルはラグナに顔を向ける。
顔を向けた瞬間、ラグナは炎を纏った剣をそのメットの隙間に差し込み、その炎は全身の鎧の隙間から吹き出す。
数秒程で炎は消えたがフェンリルはラグナを左腕で払い飛ばし、壁に叩きつける。
ラグナは気絶し、そのままぐったりと倒れて剣を落とす。
「ッテェー!!オレの全身を焼きやがった!!!テメーやっぱりアイツか......ったく。アルラウネのお使いも簡単に達成できたしこれで貸し借り無しにしようかァってんだ」
フェンリルがゆっくりとラグナを掴もうとした瞬間、棺が動き、一人の長い金髪の女性が現れ、フェンリルを蹴り飛ばして壁に叩きつける。
「ハ!?......ックソ。気分悪い帰る!!!」
蹴り飛ばされ立ち上がって舞い上がる砂煙を振り払った頃にはそこにはただ血塗れの部屋以外は残っておらず、ふてくされたフェンリルは足元に魔方陣を展開し、一瞬で別の場所にテレポートした。
一方で遺跡を出た側の森林の小さな泉があるところで、金髪の女性はラグナを気に寝かせていた。
「ッ?!」
「大丈夫、私は敵じゃない。貴方の血で起きただけ」
警戒するラグナだが、その妙に下手くそな包帯の巻き方に気付き、警戒を解く。
「ありがとう。でもまずあなたは誰?」
「私?......わからない。私は作られて起動されなかった兵器......それだけ、名前は無い。与えて」
しょんぼりとする女性にラグナは
「......じゃあヒルデ。ヒルデで良い?」
「ヒルデ......ふふっ。わかった」
その妙に機械的な女性、ヒルデはゆっくりと立ち上がり、壁に吊るされていた仲間達の武器をラグナに渡す。
「その......」
「......この世界ではきっと沢山こうやって身近な人が死んでいくんだ、気にしなくていいよ......。それより一度、帰ろう」
「わかった」
ラグナは立ち上がってヒルデの手を掴んで町へと戻った。
魔界の境界に城があった。
無数のドラゴンが飛び回り、暗雲が立ち込め、大地が燃え盛り、空気が黒く濁っている中にあった城の内部は神秘的であり、とある部屋には複数の魔族がいた。
「帰ったぜ」
「フェンリル。私のお使いは?」
扉を開け、巨大な席に座ったフェンリルに対し女性のような魔族が問いかける。
「......。全身焼き殺された」
「そう、ならいずれ私が掛け合うわ」
「いずれってなぁ......俺じゃなけりゃ死んでたぜあれ!!!!あいつの強さは今現状のどの勇者パーティーよりも危険だ!!」
机を叩き怒鳴るフェンリルに対して隣に座っていた液体の怪物が喋り出す。
「うるさーい。アルラウネなら何とかするから大丈夫だって。私やカイザー、セイレン、シロにミラの最上位の幹部が負けるわけ無いでしょ。ぶっちゃけ私達は魔王様より強いし」
「......。俺は肉体を再生してからしか挑まねぇからもう知らないぞ」