1-3:日曜日3
「ろくじゅうー」
俺は床に身を落とした。背中が暑い。
「これでお……」
「次は腕立てのポーズで体幹」
「おい!だから、休憩を……」
「はい次―」
「あだだだだだ!」
再び髪の毛を引っ張られた。
「やるの?やらないの?」
「させていただきます」
髪の毛が痛くなくなった。
「腰上げすぎー」
「はい!」
「腰下げ過ぎー」
「はい!」
「片足あげてー」
「は……無理です」
「――ろくじゅうー」
「はぁはぁ」
どさっと体を落とした俺は、お腹フルフル。
「次、足あげての体幹」
「はぁはぁ」
「さっさとやる」
「はぁはぁ」
髪の毛が痛かったような、痛くなかったような。
脱水症状のように朦朧とした。
「足曲がってる」
「はぁはぁ」
「足上げすぎー」
「はぁはぁ」
「足ついてねぇかー?」
「はぁはぁ」
「――ろくしゅうー」
「はぁー」
もう無理。腹に感覚が無い。勝手に震えている。
「はい、終了。こんなものっしょ」
……終わったァー。
「終わって……いいのか?」
「いいよいいよ。あーた、よく頑張ったよ」
「そう言って……もらえると……うれしい」
「でも、バリ運痴って感じ」
「感謝……したとたん……その態度」
俺は痙攣している腹から声を震わせていた。
「あーし、バリ運動得意っしょ」
それは知らないが。
それを見せようとしているのか、先ほどの俺にさせた柔軟のポーズをとった。
俺のイメージでは、こういうギャルっぽいやつは運動が苦手のはずだが。でも、見た目はギャルっぽくないか。
「体柔らかいのか?」
「見てみてー」
足が180度開き、一直線を描いた。
「柔らかいな」
「ほらほらー」
べたーっと彼女の体が床にくっついた。地平編に沈む太陽のように彼女の頭が沈んでいった。
「おっ、すごい」
「おらおらー。もっと敬え」
そう態度のでかい彼女は起き上がり、額に輪ゴムをぶら下げていた。
おそらく床に落ちていたのだろう。
そういえば、最後に掃除したのはいつだったのか?
「あのー、額に……」
「次は腹筋っしょ」
めちゃくちゃ早く腹筋していた。その動きによって、額の輪ゴムがめちゃくちゃ揺れていた。彼女は気づいていない風だった。
「あのー」
「次は背筋」
そういう彼女の会の毛には白い紙くずがくっついていた。
おそらく床に落ちていたのだろう。
まぁ、掃除していなかったからな。
「あのー、髪の毛に……」
めちゃくちゃ早く背筋していた。その動きに合わせて、紙くずもめちゃくちゃ早く動いていた。彼女は気づいていない。
「あのー」
「次は体幹」
そういう彼女の顎には青のりがついていた。
おそらく床に落ちていたのだろう。
……なぜ?
「あのー……」
「次は……」