8-7:ある土曜日
・ある土曜日
土曜日、あいつが来る。
ゲームの中から出てきたような、なまけものだけどどこか憎めないあいつがやってきた。妹のようにうるさいガキンチョだ。
「兄ちゃん兄ちゃん。うちすごいやろ」
「確かにすごいけど」
「やろやろ?」
「けど」
「けど?」
「パズルゲームって、普通は連鎖させるだろ!」
もぐらたたきのようにコントローラーのボタンを押しているが。
「そうなの?うち、1つ1つ丁寧に消しているよ」
「いや、確かにそれはそれですごいよ。目にも止まらぬ速さでブロックを動かして、常に更地にしていくその瞬発力や動体視力や判断力」
「えへへ。兄ちゃん、照れるなー」
褒めて育ててもいいが。
「でも、連鎖しないと相手に大ダメージを与えられないぞ」
土に肥料をまく作業。
「そうなん?だからいつも勝つのに時間がかかるわけか」
「いや、普通なら負けるぞ。連鎖なしで買っているところはある意味スゴイが」
「でも、連鎖ってどうやるん?そもそも、なんやそれは」
「連鎖というのは、複数のブロックを続けて消すことだ」
「あぁ、たまに事故って起きるわ、それ」
砂場でコケるくらいの事故だ、大丈夫だ。
「いや、それは事故ではないのだよ。そういうことをして遊ぶゲームだよ、これ」
「ほんで、そういうふうにして連鎖をしていったら勝ちやすいのか?」
「そうだよ。普通ならそうしないと勝てないよ」
「でもどうやるん?連鎖」
「慣れるしかないけど、4つ以上揃えずにわざと分けるのだよ。例えば、3つのブロックを作ったら、次は別のブロックを上に置いて、その上に最初と同じブロックを置く。そして、真ん中に挟んだ別のブロックと同じブロックを使って真ん中のブロックを消して、そのまま上のブロックが下に落ちて3つのブロックを消す。連鎖はこういう感じだ」
彼女は泥をすするような顔。
「うーん、わかりにくい」
「とりあえずやってみるんだな」
「わかった」
泥に揉まれながらも頑張る様子。
「――兄ちゃん」
「どうして?上手くなったか?」
「勝てなくなった」
「何?」
泥沼にはまったらしい。
「なんか、このやりかた、うちには無理やわ。しんどいし」
「そうか?」
「だから、今までどおりのやり方で行くわ」
「おお。わかった」
「せっかく教えてくれたのに、かんにんやで」
「別にいいよ」
人はできる限り怠けるために発明してきたというが、彼女も自分のやり方を怠けながら発明していたということだろう。




