8-5:ある木曜日
〇ある木曜日
木曜日、それは奴が来る日だ。
見てくれはいいが、それ以外がとにかく残念なやつ。第一印象が悪いが接しているうちに印象が良くなるとは別に、第一印象がいいが接しているうちに印象が悪くなる奴だ。千年の恋も冷める出来事か。
「俺、お前にまっとうな恋愛感を持って欲しいんだぜ」
意地悪な笑顔。
「そうは言っても、恋愛に関してはピンと来ないです」
「そんなかなしいこと言うなよ。俺はお前のことが心配なんだぜ」
「そうかもしれないですけど」
「なんなら、俺と恋愛してみるか?」
「それは結構です」
「ひゃーははは。振られてしまった」
相変わらず馬鹿笑い。
「というか、あんた」
「なんだ?」
「どうして髪型や服装が変わっているのだ?」
髪は下に下ろして、服装もゆるふわ系になっていた。
「なーによ。お前みたいな童貞はこういう格好の方が好きなんだろ?」
「知らないよ。なんの情報だよ」
「へへ、照れない照れない」
「照れてねえよ。というか、お前が照れてないか?」
「なっ?どこが?」
彼女は根元から切られたようによろめいていた。
「いや、今のリアクションがそうだろ?」
「て、ててて、照れてねぇよ」
「いや、無理するなよ。慣れないことをするからだ」
「う、うっさい」
「そもそも、どうしてそんな格好で来るんだ?いつもどおりでいいだろ?」
「そ、それは」
「それともあれか?いつもイメチェンするのか」
「そ、そそそ、それ。いつものことだ」
「ふーん。色々と大変なんだな」
「へへ」
祝い時の花束のように嬉しそうな顔しているが。
「って、そんなわけないだろ!」
薪割りのような鋭い勢いになった。
「なっ。急にどうした?」
「お前、誰かに恋しているだろ?」
「はひ?」
草笛のような高い声を出していた。
「だから、イメチェンして、その人に好かれようとする。そうだろ」
「お、おおお、おい」
「それは別にいいけど、それに俺を巻き込むな。俺はそういうことはわからないのだ」
「お、おう、わかった」
「じゃあ、今度からいつもの格好な。無理するな。似合わないぞ」
「おう」
彼女もただの恋する乙女か。




