8-3:ある火曜日
・ある火曜日
火曜日の人は、来ていた。
嫉妬深い動画配信者は、あれからも動画配信をしていたらしい。
「そちらは上達したのか?」
「なぜ俺も動画配信をすることになっている?」
燃え移る炎のように巻き添えを食らっていた。
「この前一緒にしただろ?」
「だからといって、俺は続けるとは言っていないぞ」
「そちらの都合は聞いていない。こちらの事情を聴いて欲しいのだ」
「いや、あんたが動画配信するのは別にいいけど、それに俺を巻きこむな。自分1人でどうにかしろよ」
「巻き込んでいない。天才の力を借りたいのだ」
「まだ天才というか」
燃えかすが残っている感じの長いやりとり。
「しかし、実際の話、動画配信に関してはそちらのほうが才能が有るぞ」
「いや、お前のほうがヒドすぎるだけだろ。なんだよこの動画、ピンボケしているし文字と音楽がタイミングがバラバラだぞ」
「いやー面目ない」
「というか、動画配信2日前に止まっていない?」
「いやー、1日止めたら、やる気がなくなって」
燃え尽き症候群?
「毎日するのが大切と言っていたのに?」
「ほんと、毎日する動画配信者はすごいね」
「いや、あんたは再開しないのか?」
「うーん、やっぱり、こちらは動画配信の才能がないみたいだ」
てへへっと笑顔で諦めた表情。
「ちょっと待てよ、あんた」
「?」
「あんた、ここで諦めていいのかよ?」
「でも、才能がないのがわかったんだし」
「いや、あんた、これは才能というよりは努力がないでしょ」
「そんなことは……」
「ある!」
「?」
彼女の目に火花をつけた。
「あんた、嫉妬するのはいいけど、たぶんいつも諦めるのが早いでしょ?」
「そんなことはないと思うぞ」
「いや、諦めるのが早い。色々と表面的なところをかじってすぐに辞めるのは、諦めぐせがある人の特徴だ」
俺の感情が熱くなってきた。
「そうなのか?」
「あんた、天才に嫉妬しているのだはなく、努力できる人に嫉妬しているのではないのか?」
「努力?」
「そうだ。実際、俺がすぐに動画編集などを上手にしていることとかにあまり嫉妬しているようには見えなかった」
「……」
「だから、とりあえず努力してみたら?才能がなくても続けてみたら。それがあんたにとって大切なことじゃないのか?」
俺は勝手に燃え上がっていた。
「本当にそう思うか?」
「そう思う」
「そうか。わかった。そちらの言うとおり、続けてみようと思う」
彼女の切り替えの速さは、切り替えが遅い俺からしたら嫉妬するに値する。




