8-1:ある日曜日
8:数日後のある曜日
俺は少し思い返していた。
・ある日曜日
日曜日に来るあの女性は苦手なタイプだった。
傲慢なギャル。第一印象は最悪だった。しかし、不良がたまにいいことをしたらすごくいい人に見える現象と言おうか、所謂映画版ジャイアンの法則と言おうか、少しいいところを見た後なのでそこまで悪い印象でもなかった。そう、そこまで悪い印象ではなくなったのだが……
「はい、もっと腹式を意識してー」
「はい」
「違う違う。もっとお腹の底から」
「はい」
「違う。腹筋を使って」
「はい」
「うーん。あーた、ちゃんとしてるー?」
「いや、これは何をしているのですか?」
俺は日の出を見る感覚で彼女を見た。
「何ってー、発声の練習」
「何をさせているんだよ?!」
俺は大きな声が出せた。
「おっ?あーた、やればできるじゃん」
肘でゴリゴリ押してくる。
「いたたっ。やめてください」
その笑顔が怖かった。
「あーた、ちゃんと大声が出せるように成長したじゃない?すごいすごい」
頭をわちゃわちゃかきむしってくる。わちゃわちゃと。
「ハゲるわ!」
俺は彼女の手を振り払った。
「ハゲればいいじゃない。太陽みたいに明るくなるよ」
「そんな明るさいらないよ」
太陽に対するドラキュラのように相変わらず苦手だ。
「しっしっし。いいじゃないのー」
「というか、どうして発声を?」
「うーん。大きな声が出せないと、欲しいモノが手に入らないわよ」
「どういうこと?」
「何事も声が大きい人が採用されやすいの。バーゲンの時も、企画提案の時も、大声コンテストでも」
3つ目だけおかしくねぇ?
「俺は大きい声が出せるようになったとして、あんたは何ができるようになったのだ?」
「どーゆーこと?」
「俺はあんたの言われたとおりしてきました。それは、この前の運動の頃からそうです」
「そだねー」
「それにたいして、あんたはなにかできるようになったのですか?」
「別にできるようになる必要もないっしょ」
干からびたように乾いた態度。
「たしかにそうですけど、傲慢ですね」
「だーかーら、言ったでしょ?あーしは傲慢だって」
「ですけど、傲慢でいるのは大変だとも言いました」
「言ったっけー?」
「言いました」
夕日のように顔が沈みかかっていた。
「うーん。言ったのかー」
「そうです。つまり、傲慢であるためには何かができている必要があるのでしょ?なにか突出した成果が必要なのでしょ?」
「そーね」
「だったら、あんたには何ができるのですか?」
彼女は腕を組んで考える。
「うー、あーしね、むかしー、運動できたのよー。インハイ出るくらい」
「そんな気がしましたよ」
「でもー、所詮はインハイ行ける程度なだけー。優勝なんかマジ無理―」
「それで?」
「でも、あーしは勘違いしていてー、傲慢だったのー。でもー高校卒業して競技から離れたら誰も言うこと聞いてくれないー」
「そんなに態度が悪かったのですか?」
「そうよー。ウイルスで大会中止になって困っている人を見たら嬉しくて笑ったもんー」
「本当に態度悪いですね」
俺は正直に言った。
「でも、そんなものだよー。大会で得る名声やいいことは全部自分のものにしたいのー。だから、ほかの人のしあわせなんかいらないー」
「そうですか」
「でもー。あーたが頑張っているのはいいと思うよー」
彼女は太陽のように笑った。
「そうですか?」
「あーしが手塩にかけて育てたあーたはあーしの一部みたいなものだからね」
「そんな、傲慢な」
「でもー、そんな傲慢な生き方もいいかなー、と思って。悪い?」
まぁ、前向きな傲慢の形を彼女は見つけのだろう。




