7-4:土曜日4
「なにしてんねん!」
また怒っているよ。
「普通にゲームしただけだろ」
「でも、あれは反則やら」
「お前が勝手に自滅しただけだろ」
とんだ言いがかりである。
「なんやと、なめとんのかわりゃ」
彼女は凄んだ。
「そんな怒らなくても」
「怒ったように見えた?」
にぱーっと笑い顔に変わった。
「?――怒ってないのか?」
「あったりまえじゃん。怒ったらこんな言い方せえへん」
「でも、怒ったときの関西人の言い方じゃあないの?」
「なにゆうとんねん。今時そんなきつい言い方、じじばばしかゆわへんわ」
十分きつい言い方だが。
「そうなんですか?それで、どうします?」
「なにがや?」
「いや、これ以上ゲーム続けても、意味ないだろ」
「意味ないことないやろ?」
彼女はまっすぐな目だった。
「でも、俺には勝てないだろ。今までの感じだと」
「勝ち負けなんかどうでもええやん」
「はぁあ?」
俺は顔にしわを寄せて困惑。
「兄ちゃん、勝ち負けなんか気にしていたん?」
「そりゃそうだろ。お前が勝負とか言い始めたからだろ」
「そんなんどうでもいいやろ」
「なんだお前」
よくわからないやつだ。
「勝負なんかどうでもいい。楽しかったらなんでもいい」
「楽しかったらだと?」
「そうや。勝負したのは楽しむためや」
やさしいやつか?
「そうだったのか。それはすまない」
「それで、楽しめたか?」
「いや、全く」
「どうしてや。何が不満や」
「お前が全くゲームできねぇからだよ!」
俺はずーっと思っていたことを言った。
「できてるわ!」
「できてない。今まで全て全くできていない」
「それは、たまたま選んだゲームが悪かった」
「ゲームのせいにするな。というか、お前が選んだだろ」
コイツは。
「でも、勝負だけが全てではないで」
「負け惜しみみたいな事を言うな」
呆れた。
「楽しめばそれで大丈夫や。例えばさっきやったこのゲーム、こんな楽しみ方もあるで」
そう言って、得意げに舌なめずりしてゲームを再開した。
「何をするんだ?」
「死体を無駄に撃ったら楽しめる」
ゲーム画面で倒した敵を打ち続けていた。
「何してんだよ」
「死体撃ちやで。死体蹴りみたいなもんやで」
死体からブチブチという鈍い音がした。
「そんなことして楽しいのか?」
「楽しいやろ。無駄にボコボコやで」
「いい趣味してますね」
「ありがとう」
「ほめてねぇよ。皮肉だよ」
俺の頭の血管がブチブチと鳴った。
「でも、そういう欲望もあるやろ?」
「どういう欲望?」
「人をなぶりたい欲望」
「そんなのねぇよ」
笑顔で物騒な事を言ってくるよ。
「そう言うけど、実際はそういう欲望があるはずや」
「どんな偏見だ」
俺は土に閉じ込められたような変な気分だった。
「さっきやったゲームもそうやで」
そう言いながらソフトを格闘ゲームに変えた。
「いや、自分で変えるの?」
「なんか文句でもあるんか?」
「さっきまで俺にさせていたから」
「そんなんどうでもええやん」
「たしかにどうでもいいけど」
でも、俺はやるせない気持ちになった。




