6-3:金曜日3
「2人七並べしましょう」
彼女はそう言って、仕切り直し。
配り直し。
ババ抜きの時と違って、手札は大量にあるので、持つだけでも大変だ。
手も指も痛い。
「これって、あれですね」
「なにですか?」
「相手の手札がまるわかりですね」
「そう?動揺させるつもり?」
このやりとり、デジャブ?
「いや、カマをかけているとかではなく、文字通り手札がわかるでしょ?」
「あら?すごいですね」
ここまでくると。
「馬鹿にしているのか?」
「いいえ。どういう手段を使っているのですか?」
「2人しかいなかったら、自分の持っていないカードを相手が持っているのはバレバレだ。当たり前だろ」
「あら、バレたようですね」
「やっぱり馬鹿にしているのか?」
「では、はじめましょう」
彼女はゲームを始めようとした。
「無視すな!」
俺は机を叩いたが、それすら彼女は淡々と無視した。
……
俺たちはゲームを始めた。
……
「――おい、あんた」
「なんでしょうか?」
俺の問いかけに彼女はコールセンターのように答えた。
「ダイヤ以外の6と全部の8、出してくれないか」
「なんのことですか?」
「持っていることはわかっているのだよ!」
俺は目を鋭くした。
「――仮に持っていたとしても、それを出す理由はない」
「このままでは、ゲームが終わるけど」
「では、私の勝ちですね」
こいつには優しさはないのか?地獄の沙汰も金次第というというが、そんなに金が欲しいのか?
「俺は一枚しか出してないぞ。ダイヤの6しか出してないぞ。あんたもダイヤの5しか出してないぞ」
「そうですね。大サービスで言うと、ダイヤの4も持っています」
「それくらい知ってるよ!」
俺は声を強めた。
「では、何をイライラしているのですか?」
「俺はゲームを楽しみたいのだ」
「だったら、楽しんでください」
「できないのだよ。お前が止めているから」
「でも、そういうゲームですよ」
「そうだけど、その、あの、ええい」
俺は反論したくても反論出来なかった。
「それでは、私の勝ちでいいですよね」
「あぁ、それでいいよ」
俺は机の上にカードを投げ出すように置いた。
「それでは10円いただきます」
俺の目の前に置いてあった10円玉が持って行かれた。
「――まだ続けるのか?」
「そりゃそうですよ。まだ金儲けに興味が持てないのですよね?」
「あぁ、持てない。むしろ、余計に持てなくなった」
「なぜです?」
「なぜって、こんな面白くない勝負させられたらそうなるだろ」
鬱憤が溜まっていた。
「そうですか、では、次は面白い勝負にしましょう」
「次はなんだ?」
「2人大富豪はどうでしょうか?」




