6-2:金曜日2
数分後、俺の目の前にはトランプが並んでいた。
「ロイヤルストレートフラッシュ。私の勝ちね」
「おい、どういうことだ?」
俺は目の前で数分前と変わらぬ淡々とした雰囲気で賭け事をしている彼女に疑問を問いかけた。
「何?イカサマはしていません」
「そうじゃなくて、なぜポーカーを?」
俺も少し淡々と質問。
「賭け事よ。金儲けしましょうと言ったでしょ?」
「こんな金儲けの勧めがあるか!」
俺は納得できないのでテーブルに手を叩きつけた。
「でも、外に出ないでする金儲けなんてほとんどないですよ?」
「それはそうだが」
「だったら、賭け事で私から儲けてください」
彼女は相変わらず普通に話していた。
「でも、さっきのでわかるように、俺、あまり賭け事は得意じゃないぞ。ポーカーだって、ほとんどルール知らなかったし」
そもそも、さきほどの『どういうことだ』は、状況もさることながらロイヤルストレートフラッシュを詳しく知らないところからも来ている。
「そうですね。何なら知っています?」
「賭け事というかわかりませんが、ババ抜きや七並べや大富豪くらいです」
言うのが少し恥ずかしかった。
「だったら、それをやりましょう」
「え?でも」
俺の困惑をよそに彼女は。
「いいからいいから」
そう言いながらカードを集めてシャッフルし始めた手つきは特に早いものではなかった。特別得意というわけではなさそうだ。
「では、ババ抜きからします」
そう言って交互にカードを分け始めた。俺はなぜこんなことをしているのかと自問自答していた。特に賭け事は得意でも好きでもない。パチンコはゲームセンターで1度したが、玉が落ちていくなーと思っただけではまらなかった。スロットはテレビゲームのスロットコーナーでしたが何も面白くなかったから、敵を倒してお金を集めて景品を買っていた。あと、友達に誘われて馬券を買ったことがあったが、その馬が出走取消になった記憶しかない。
要するに、賭け事に無縁である。
「配り終わりました」
気が付くと、目の前にカードが積み上がっていた。初めての2人ババ抜きで知ったことだが、すごい量の手札の数である。
俺はそのカードの大群を取り、2ペアのカードを抜いていった。初めての2人ババ抜きで知ったことだが、大量の2ペアが抜けていった。
すごい勢いで互いの手札がなくなっていった。始めていの2人ババ抜きで知ったことだが、ババ以外は全てペアになる。
「あのー、これって、途中からで良くないですか?」
手を動かしながら言った。
「なんで?トランプだから53枚全部する必要ありますよ」
「いや、ないでしょ。だって、もう4枚と5枚じゃないですか。それまではノンストップだったじゃないですか?」
だいぶすっきりした手札と手札との間に、乱雑となったカード置き場がジェンガの崩れたあとのようになっていた。
「だからいいのです。勢いがあって楽しいでしょ?」
「はぁ、ある意味楽しいですが」
普段しないことは新鮮だ。
「それに、ここまでババがでなかったら、本当にババがあるかわからないですよね?本当はないのではないかと錯覚してしまいますよね?」
「……いや、俺が持っていないから、お前の5枚のうちの1つがババだろ?お前が持っているだろ?」
バレバレだ。
「それはどうですかね」
「その心理戦はいらないだろ。俺が持っていないなら、お前しかいないだろ」
「わからないですよ」
「わかるわ!」
だから、バレバレだよ。
「早くとってください」
彼女はカードを持った手を前に伸ばして催促してくる。
「わかったよ」
俺は1枚引いた
ババをゲットした。
「ほらな!ババだよ」
とったババを天にかざして叫んだ。
「あら、心理戦ですか?」
「心理戦になってねぇだろ。馬鹿なの?お前は……」
「では、次は私が」
しゃべっている俺から彼女はカードを取る。
すっと取る。スリのように。
「あっ、おまっ!」
「はい、残り3枚」
「まだ準備していなかっんだぞ」
「準備不足ですか?それはあなたのせいです」
「いや、違うだろ。お前が……」
「次、あなたの番」
「うぉい!」
俺は言われるがまま一枚とった。
「残り2枚」
「俺も残り3枚だ」
俺の手札には、ダイヤの3と8、それからババがあった。
「どれかな?」
彼女の指は3箇所を行ったり来たり。
「ここでババ以外をとったら、あんたの勝ちですね」
「そうね、よっと」
俺のカード2枚、彼女のカード3枚。
「やーい、ババを抜いてやんの」
「そうですね。ではどうぞ」
彼女は淡々とシャッフルした手札を差し出してきた。
「これでババ以外を引いたら、俺の勝ちだ」
「そうですね、引ければの話ですけど」
自信満々の顔。
ババを惹かれない自信でもあるのか?
ゴクリとつばを飲む。
「引くぞ」
「どうぞ」
――ハートの3。
俺の手札からダイヤの3が抜けて、1枚になった。
「これを私がとって」
俺の手札はなくなった。
「俺の勝ち、っか」
「おめでとうございます」
そう言って、10円玉を差し出してきた。
俺は賭け事に勝った。
「10円か」
「どうですか?金儲けした気分は?」
どうですか、と聞かれたから、どうなのかと考えた。
「んー。やっぱり賭け事は嫌だな」
「どうしてですか?勝ったのに」
「勝ったとしても、賭け事は嫌ですね。この胃腸が締め付けられるような感覚は」
俺は考えたことを言った。
「その感覚がいいんじゃないですか?」
「俺にはその感覚はわからないです」
俺は感じたことも言った。
「そうですか。では、もう1勝負」
「そうですか……え?」
今何を言った、こいつ?
「もう1勝負ですよ。もう1勝負」
「いや、でも、俺は」
「金儲けの大切さを知りましょう」
「それなら、賭け事でなくても」
俺はまっとうなことを言ったつもりだ。
「いいえ、賭け事でしましょう」
「なぜ賭け事にこだわるのですか?」
「だって、楽しいじゃないですか」
あっ、こいつ、そっち側の人間か。
「……何をします?」
おれは折れた。




