6-1:金曜日1
6:金曜日
彼女は黄色い姫カットに、青いタンクトップに赤いガチョウパンツだった。その一種特徴的なものと比べたら特徴がない身体的特徴を持っていたが、可愛い方だと思う。
人が一番好む顔は平均的な顔と聞いたことがあるが、この特徴のない顔が一番好む顔かと言われたらそうかもしれない。
でも、そういう美的感覚のことは俺にはよくわからない。金銭感覚なら少しだけわかるのだが……
「あなたが、おとなしい人ですか?」
「そうかもしれないですが、改めて言われると違う気がします」
「では、やんちゃですか?」
「それは違います」
「では、おとなしい人ですね」
そう言われたらそうかもしれない。それにしても、第一印象では見た目も話し方も普通の人だ。
……会話の持って行き方は少し変かな?
「あなたは何の用ですか?」
「わたしはあなたに伺いたいことがあって来ました」
「何ですか?」
「あなたはあまり食欲がないようですね」
「まぁ、ないことはないですが」
勘定が合わない商売人みたいに首を軽くひねった。
「でも、少しやつれている」
「まぁ、食べるのが面倒くさくなるとかなら」
「それを食欲がないというのではないですか?」
「そうかもしれません」
僕はなんとなく返事した。
「食べるお金はあるのですか?」
「あるにはあると思います」
「なんですか、その言い方は?」
彼女はなんとなく聞いてきた。
「あまりお金を数えたことがないので」
「あなた、お金にあまり興味がないようですね」
彼女は普通に聞いてきた。
「まぁそうですね。必要最低限の生きていくお金があれば、それで十分です」
「そうですか。お金持ちになりたいとかは?」
彼女による普通の質問。
「ないですね。お金持ちにはお金持ちなりの苦労があると思うのです。周りから集られるとか、嫉妬がすごいとか。まぁ、俺にはわからないですけど」
「なるほど、あなたは恵まれていますね」
彼女は蜂のようにチクリと言った。
「どういう意味で恵まれているのですか?」
「あなたは今、親に養ってもらっています。それはあなたが思っている以上に恵まれていることです。そういう意味です」
「なるほど。それはそうかもしれません。ありがたいです」
ありきたりな意味とありきたりな返事を言い合った。
「それで、あなたは本当にお金に興味がないのですか?美味しいものを食べたいとか、いい服を着たいとか、いい家に住みたいとか」
「ないことはないですよ。でも、そこまでして欲しいとは思わないです。たぶん、今までそれなりにいい食事・衣服・住居を親に用意してもらったから、そういう欲望がないのだと思います。あなたが言う、恵まれている、というものです」
俺はやり返した気分だった。
彼女は少し思案した。
「なるほど。しかし、親がいなくなったらどうするのですか?いつまでも親がいるわけではないでしょ?」
「それはわかっています。しかし、それはそれ、これはこれです。将来のことはわかりません」
「あなたがそれでいいのなら仕方ないですね」
彼女は淡々とだった。
「仕方ないですか。それでは、これで話は終わりですか?」
「いいえ。食欲を出して欲しいです」
終わらないんだ。
「どうしてですか?」
「わたしはあなたに食欲を出して欲しいのです。そのために来たのです」
「とても正直ですね」
「はい。遠回りしても面倒くさいだけですから」
ん?
「いや、すでにお金という遠回りの会話していた気が……」
俺は至極まっとうな質問。
「いえ、遠回りではないです」
「そうなのですか?」
「お金と食欲は関係します」
彼女は相変わらず淡々とだ。
「どういうふうに?」
「お金があって余裕があれば、美味しいものを食べられます。そしたら、食欲が出ます」
それが答えらしいが。
「そういうものですか?お腹がすけば勝手に食欲が出るのでは?」
「それは今のあなたの生活では起きないです」
「そうかもしれませんが」
「だから、食欲を掻き立てるためにも、金儲けしましょう」
そういうが。
「でも、俺は思うのです。『1つの食欲は多くの苦労で帳消しにされる』と」
それを聞き、彼女はさっきまでと変わらない感じで言った
「そんなの、やってみないとわからないです」
「そうかもしれませんが」。
「では、金儲けをしましょう。それで変わらないのなら、それでもいいです」




