5-4:木曜日4
「次に、ハンカチを落として拾ってもらう出会い。これはもうステレオタイプを通り過ぎて古典です。だれもしません」
「古典って、勉強じゃああるめぇし」
「そういう難しい意味ではないのです。時代遅れすぎるのです。オバタリアンみたいなものです」
「なんだ?オバタリアンって?」
「俺も知りません。昔に流行っていたらしいです。でも、俺たちが知らないくらい古いものだということです」
「そんなに古いのか」
しみじみ言う。
「そして、ハンカチを落としての出会いもそれくらい古いです」
「そんなに古いのか?!」
反動的に言う。
「はい、だから、そんなことをしているあなたはステレオタイプというか時代遅れというか……本当に異性に興味あります?」
「当たり前じゃねぇか。ぶっ殺すぞ」
つんけんドン。
「でも、缶ジュースへの関節キスとか、俺みたいなモテない人間からしたら興奮しますが、百戦錬磨のスペシャリストからしたらなんてことないでしょ?」
「お前、馬鹿だなー。お前みたいなやつに興味を持ってもらうためにわざとレベルを下げているんだよ。わ・ざ・と」
「じゃあ、本気のプレゼンしてください」
「はひぃ」
なんか変な声が聞こえた。
「本気の異性に対するアピールの仕方を教えてください」
「いや、でも、童貞には刺激が強すぎてー」
汗をドバドバと出しながら顔を背けてくる。
「どうですか?なにかないのですか?」
「いやーいいのかなーあれをしてもー」
目がグルグルになっている。木目のようにグルグルと。
「なんでもいいので」
「ぢゅええぢゅえでも」
体がグニャグニャに硬直している。
「何をします?」
「……ツイスターゲーム」
俺は頭を抱えた。
「いや、ツイスターゲームって」
「な、なに?」
「いや、ボケでしょ?」
「ほ、本気だ」
「いやいや、漫画か何かでギャグとしてある流れでしょ。ツイスターゲームを通して接触したりやらしい姿になったりするやつ」
「ち、ちゃうわい」
彼女はろれつがギリギリだった。
「いやいやいや。あなた、本当に詳しくないないですね。ステレオタイプや古典を通り過ぎて、ボケですよ」
「ボケじゃない」
「というか、さっきから男口調のくせにいちいち女々しいな」
「なんだと?」
胸ぐらをつかんできた。
「あれだろ?何か理由があって男らしく振舞おうといているが、本当は女性らしいことしたいのだろ?」
「何を根拠に?」
「根拠はないけど、そういう人はいるらしいですよ。フロイトがどうとかの心理学の世界の話らしいですけど」
「詳しいのか?」
「詳しくはない。あなたの恋愛知識くらい」
俺は小学生みたいな挑発をしてみた。
「んだと?」
簡単に挑発に乗った。
「そんな口調でいいのか?」
「?」
「あなたは本当は女性らしい言動に憧れているはずだ」
「そんなこと……」
「ある」
「?!」
俺の強い口調に彼女はビクッと肩を上げた。
「そんなことある。自分に嘘をつくな」
「何を」
「どんな女性にも女性らしく生きる権利がある。たとえそれがあなたのようなガサツな女性だったとしてもそうだ」
「そんなこといわれても」
彼女は下の向いた。
「あなた、今まで恋愛してきたことがないのだろ?だから、恋愛にこだわっているのだろ?それでいいだろ?」
「よくない。大きな罪となる」
「いいだろ。七つの大罪じゃああるまいし」
「そんなこといわれても」
彼女は髪を揺らすように頭を振った。悪ガキが木の実を取るために木を揺らすように揺らした。
「俺の恋愛のことなんかどうでもいいから、お前が恋愛してこい」
「……おし、そこまで言われたらやるしかないねぇな」
彼女は覚悟を決めたように顔を上げた。
というか、俺はそこまでは言っていないが。
「その調子だ。じゃあ、頑張れよ」
「おう、またな」
大手を振って去っていった。
さて、やっとうるさい奴がいなくなった。
……
「ひゃーははは。そうだ忘れていた。俺、お前のことを……」
「え?」
俺は水着でツイスターゲームしているところを、帰ってきた彼女に見られた。
彼女は女性らしくしおらかに去っていった。
――
『1つの恋愛は多くの苦労で帳消しされる』ぞ。だから、好きな人ができたら色々と覚悟しておけよ。




