4-3:水曜日3
「とりあえず、もう少し書いていこうと思うのだけれども」
俺はまた中断した。
「何?」
「今後のことを考えて聞きたいことがあるんだ」
「本当は書き上げたあとのほうがいいんですけどね」
彼女はダムのようにせき止めようとした。
「そこをなんとか」
「まぁいいでしょう。なんですか?」
彼女はオアシスの湖のように魅力的に笑った。
「小説を書くにあたって、技術的にはどういうことがあるのですか?」
「そうねー。例えば、背景描写があるわ」
「背景描写?学校とか道路ですか?」
「それも背景だけど、それとは少し違うわ」
彼女は氷が溶けたように話し始めた。
「どういうことですか?」
「例えば、悲しい気分の時には雨が降る、明るい気分の時には晴れる、そういう風に背景を使って心情や状況を説明するのよ」
「そういうことがあるのですか?」
「そうよ。雲行きが怪しくなってきたら、文字通り本当に空を曇らせてしまうのよ。それが背景描写なの」
ということは、今の俺の背景には雲を書けばいいのか。
「では、背景は、というか風景と言ったほうがいいのですかね。学校とか道路はどう書いたらいいのですか?」
「どう書いたらいいのかはわからないけど、最低でも位置情報として、ここにいますと読者に伝えるために書くほうがいいと思うわ」
「そうなのですか」
「ただ、人によるのだけど、人によってはそういう背景を書く事に力を注いでいない人もいるわ」
流れる水のように話し続ける。
「それはなぜですか?」
「それは、比重が軽いかららしいわ」
「比重が軽いのですか」
俺は軽い声で言った。
「そういう人の言うには、背景よりもキャラやストーリーのほうが重要であるらしいの。だから、極論では背景なんかいらないと、キャラがしっかりしているかストーリーが面白いかが重要だと。だから、背景の比重は軽いらしいわ」
「では、その比重が重いものはどうしたら」
「それが分かれば誰も苦労はしないらしいわ」
バケツの水をぶっかけられたような勢いだった。
「それはそうですが」
「ただ、一般的に言われていることとして、キャラクターに関しては一瞬で誰かわかるようにしたほうがいいと言われているわ」
「一瞬でわかる、ですか」
「そうよ。見た目・話し方・性格などで一瞬で分かるようにする必要があるらしいわ。そうしないと、読者にわかりにくいと言われているわ」
ここで冷水をかけてみる。
「でも、皆が皆個性的というわけには」
「そこは役割分担よ。周りを個性的なキャラばかりにしていたら、普通のキャラが立つでしょ?そういう手法もあるのよ」
「逆にですか?」
「そうよ。そもそも、ツッコミキャラは基本的に普通のほうがいいから、キャラがあればいいというわけでもないのよ。キャがある人を立たせるために普通の人も必要になる時があるわ」
その発言の理解のために冷水が溶けていく感覚だった。
「すごいですね」
「そして、ストーリー。内容に関して言ったら主に2通りあると言われているわ」
「それは何ですか?」
「1つは流行に乗ること。その時の売れ筋の真似をすることよ。そうすればブームに乗ってなんとかなるわ。みんなが興味を持つことを作品にしたら強いわ。そのかわり、どこもかしくも同じ作品ばかりになるけどね。異世界転生だとか変な部活ものだとかポップなファンタジーものだとかがそうだったらしいわ」
「なるほど。もう一つは?」
「自分で流行を作ること。基本的には自分が詳しいことを書く事。自分の得意分野で戦うことよ。みんなが興味を持たないことであっても、面白かったらそれでいいのよ。それに、流行のものと違ってライバルが少ないのよ。海賊ものだとか百人一首ものだとかバスケものだとかがそうだったらしいわ」
頭が沸騰しそうだ。
「そんなことを考えているのですか」
「そのようね。あとは、論理構成だってそうよ」
「論理構成って、起承転結ですか?」
「そうとも言うし、そうでないとも言える」
「どういうことですか?」
思考が渦を巻く。
「世界的に見たら、3幕構成の方が一般的なのよ」
「なんだそれ?」
「簡単に言うと、同じようなことは3回やりましょう、という考え方よ」
「そんなのがあるのか」
「そうよ。1つ目と2つ目で同じことをして、3つ目だけ違うとかがあるのよ」
「なんか、色々とあるんだな」
「それから、比喩表現というものもあって……」
……




