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4-1:水曜日1

4:水曜日


 彼女は青髪のハーフアップ、青のティアードワンピース、上から下まで青一色だった。少したれ目の優しそうな顔が、大海のごとくあらゆることを包み込んでくれそうな雰囲気を醸し出していた。

 水の精霊が実在したら、こんな姿なのだろうか?

彼女は俺を見るや、何も言わずに微笑んだ。

俺も一応は微笑んだつもりだが、きちんと返せたかは不明だ。

彼女は俺を上から下まで見定めていた。その後、彼女は俺の部屋を見回した。それでも彼女はまだ何も言葉を発しない。

 俺も何も発しない。

 彼女は一通り見たのか納得したのか、頷き、言葉を発した。

「君と話させていただいてもいいかしら?」

いきなりポンコツと言われないことに軽い衝撃。

「はい。大丈夫です」

「あたくし、思うのですが、『1つの怒りは多くの苦労で帳消しされる』のではないでしょうか?」

いきなり何を言い始めるのだ?この女性。

「どうしたのですか、いきなり?」

「そうね、ごめんなさい。思ったことをつい言っていしまったの」

「そうなのですか……」

「そうね。そうよね。ごめんなさい」

いきなり何を謝っているのだろう?

「謝るのはやめてください」

「それはごめんなさい」

「いや、だから」

「くせなの。ごめんなさい」

ボケてるの?

「――なんのようですか?」

「ちょっと、あたくしの考えを聞いてもらおうと思いまして」

「はぁ。なぜですか?」

「少し、聞いてもらいたい気分なのです」

「まぁ、聞くだけなら」

「実はですね、あたくし、小説を書いているのです」

「へぇー、そうですか」

 そうとしか言えなかった。

「それで、小説というものは、自分が持つ怒りをぶつけるものだと考えているのです」

「そうなのですか?」

「そうなのです。いわゆる心の叫びを書くのです」

「アーティストがよく言いますね」

「そうです。小説家もアーティストですからね」

涼しく話してきた。

「でも、あんたはあんまり怒りを感じているようには見えないのですが」

「見た目が大人しそうだから?」

「まぁ、はい」

「ふふ、そうね。怒りとか無縁に見えるかも知れないわね。怒っているところを見たことがないと言われるわ」

 水を掴むように掴みどころがない人だ。

「でも、怒る事があるのですね?」

「そうよ。そう見せないようにしているだけで、いくらでも内心では怒っているわ。でも、周りには見せないようにしているわ」

「どうしてですか?」

「怒りを周りにぶつけても、仲違いするだけだからよ」

 水を撒くように言ってくる。

「でも、怒らないとわかってもらえないこともあるのでは?」

「それは甘いわね。怒ってもわかってもらえない事の方が多いわ」

「そうなのですか?」

「そうよ、怒ったり説明したりしただけで解決するのは小説とか漫画だけよ。普通はないわ。悪化するだけ」

そう言われたらそのような気もするが。

「そうなのですか。大変ですね」

「そうなのよ。だから小説を書くわけよ」

「そうなのですか?関係あるのですか」

「ストレス発散で書くのよ。現実世界で嫌だったことを書いたり、現実であったら嬉しいことを書いたりするの。そうすればストレス発散するのよ」

「そうなのですか?なんか、小説家は締切に追われてストレスを溜めている印象があるのですが」

 そうなのですか、とただ言う機械と化した俺。

「そういう人もいるかも知れないから何とも言えないけど、でも、本当にストレスを感じるのなら小説家をやめていると思うわ」

「でも、仕事だからやめたくてもやめられないのでは?」

「それでもやめるわ、本当に無理なら」

それもそうか。

「ということは、小説を書く事はストレス発散になるのですね」

「そうよ。実際、ストレス発散のために書き始めてそのまま小説家になった人もいるわ。猫視点の小説を書いた人とか」

「そんなものですかね?」

「そんなものですよ。実際にストレス発散の方法として勧められると言われているのが、文章を書くか犬を飼うかカラオケかと言われているわ」

どこで言われているのだろうか?

「それなら、犬かカラオケでも」

「犬もカラオケも嫌いだわ」

「あっ、なるほど」

なら、何故言った?

「それに、文書で悩み事を書いたら、後で見返した時に、こんなつまらない事で悩んでいたんだ、と思ってしまうの。今の悩みって、文章化して冷静に見てみたら、意外と大したことがないのよ」

「そんなものですか?やったことがないからわからないけど」

「では、書いてみたらどうかしら?」

「いや、でも」

「私も書くから」

 川のように流される俺の言動。


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