3-5:火曜日5
彼女は真面目な顔で言い換えてきた。
「嘘じゃない。安らぐぞ」
諭すように言うが。
「安らごうが楽しかろうが、俺は動画撮影には乗り気ではありません」
「どうしてだ?」
「どうしてって、そもそもどうして動画を作ろうとしているのですか?」
「それは、才能を探すため」
そういえばそうだった。でも、これはチャンス。
「だったら簡単です。才能ないからです」
「決め付けるのは早くないか?」
「いいえ。早くないです。むしろ、遅いくらいです」
「遅いだと?」
彼女は声を熱くした。
「そうです。失礼ですけど、あなたには動画投稿の才能はないと思います」
「……手厳しいことを言うな」
彼女の目は冷たく燃えていた。
「そうでしょ?だって、さっきから1つとして自分1人でできていない。そんなのでできるわけないでしょ?」
俺は言ってやった。
「そうか、たしかにそういう考え方があるな」
「だろ?」
「それは後で考えるとして、とりあえず動画を貯め撮りするか」
「なぜそうなる?」
俺は聞いてやった。
「そんな才能があるとかないとかは、才能がないとダメとは限らないだろ」
「いや、才能がないことをしても時間と労力の無駄だろ?」
「いや、そうでもない。自分がどんなに努力しても埋めることができない力の差を感じて楽しむことも一興だ」
一興とはこれいかに。
「普通、絶望するでしょ。楽しめないでしょ」
「そこを楽しむのだ。自分の努力が無題なる瞬間を、今までの自分の積み重ねてきたことを否定される絶望感を、その自分の死を感じるような背筋がゾクゾクとするような瞬間を楽しむのだ」
なんか般若のように怖い笑顔になっているのですけど。
「それって、破滅主義といいますか、やばい性格といいますか……mですよね?」
「いいえ。どmです」
ど変態か。
「どmの相手なんかできるか」
「もー、こちらとそちらの間柄なんだからいいだろ?」
「どういう間柄だよ」
「動画制作の企画者と協力者との関係だ」
「そっちかよ。ややこしい言い方するなよ」
いや、待てよ。
「協力しねぇよ!」
俺は熱烈に否定した。
「あと、動画編集に関してだけど」
彼女は話を進めていた。
「また編集しろと?俺に」
俺は結局説得された。
「初めのうちは編集しなくてもいい、と書いてあった」
「なんだと?」
「編集は大変だから、そこで心が折れる人が出てくるらしい。だから、初めのうちはとりあえず心が折れないようにする必要がある。だから、編集しないでも大丈夫なようにして、とりあえず継続させようという話らしい」
そう説明されると、そうなんだと納得するしかなかった。
「それでは、いい動画はできないのではないのですか?」
「できないらしい。でも、とりあえず継続させることが大切らしい。継続してたくさんの動画を作って、そのあとに慣れてきたら改良すべきところを改良していく。その時に編集を頑張ってきたらいいらしい」
「要するに、とりあえず動画を作って投稿しろということですね。質より量というか、とりあえず作れと。継続は力なりと」
俺は彼女の熱を理解しようとした。
「そういうことだ。だから、細かいところはどうでもいいから、とりあえず動画をいっぱい作っていっぱい投稿する。それだけだ。そしてそれが成功したらそれでいいし、失敗したら、それはそれでいい」
「失敗してもいいのか?」
「ああ。とりあえずすることが大切だ。それに、失敗した時の絶望感、それは努力すればするほど大きくなる。天才への嫉妬で好みが灼熱の炎で焼かれているかのような快感に教われる。実際に死んだわけではないのにそれに近いことを体験できるなんて、なんて素晴らしいんだ!」
彼女は恍惚と頬を炎のように赤く染めていた。
彼女は嫉妬のせいで、人が変わったようになっている。そうとう苦労しそうな性格だ。『1つの嫉妬は多くの苦労で帳消しされる』ような性格だ。




