3-4:火曜日4
「それでは、次の動画を作るぞー!」
「おー……」
炎のようにやる気のある彼女。燃えカスのようにやる気のない俺。凸凹コンビと言ったら聞こえがいいが。
「それで、動画を作るにあたって何が大切か調べてみたが」
「調べたの?やる気あるね」
「人気ユーチューバーに嫉妬してね」
「また嫉妬かよ」
「嫉妬はやる気を出す原動力だぞ」
「そうかもしれないが」
「これだから天才は」
もうそのやりとりは飽きた。
「それで、調べた結果どうだった?」
「再生回数を稼ぐには方法があるらしい」
「どんな方法だ?」
俺は興味の炎を持った。
「いくつか書いてあった。毎日投稿するとか、タイトルやハッシュタグが大切だとか、企画の質だとか」
面倒くさそうだから、やる気の炎が消えかけた。
「色々とあるのですね」
「そうだ。特に大切と言われているのは、毎日投稿することらしい」
「そうなんだ。意外とふつうだね」
「とんでもない。それが大変らしいんだ」
彼女は熱く言う。
「どう大変なんだ」
「毎日の継続がたいへんなんだ」
「そんなにたいへんなのか?」
「あのな、この世には、三日坊主、という言葉があるだろ?それは要するに、毎日続けることがたいへんだという意味なんだよ。そちらはやり始めてから毎日継続できていることはあるのか?」
歯磨きや食事といった言葉が頭に浮かんだが、自分でも即効で違うと思ってその思考を焼き払って灰にした。
……そういえば、歯磨きは毎日していなかった。
「たしかにないですね」
「そうだろ?それだけ毎日続けることはたいへんなんだ」
「そうですか。そうですね。うん」
「それに、できる人は毎日どころか、1日に何回も投稿しているらしい。すごいぞ。1日1回でも大変なのに」
「一日数回はすごいですね」
歯磨きは朝起きた時と寝る前しかしていない俺からしたら、毎回の食事後にしている人がすごいと思うようなものだろう。
「その継続力は嫉妬するくらいだ」
「でも、意外と継続できるのでは?やり始めたらハマるとか」
「ところがどっこい。辞める人が多いらしいのだ」
ところがどっこい、この言葉を生で聴くのは初めてだぞ。
「そうなのですか?」
「調べたところによると、ほとんどの人は1ヶ月足らずでやめてしまうらしい。というのも、再生回数が少なすぎるからやる気が出ないらしい」
「そうなのか?そんなに少ないのか?」
俺みたいに熱意が少ない人が多いのか?
「そうらしい。最初は基本的に再生家数は1桁が続くらしい。2桁行くことはほとんどないらしい。だから、やる気をなくしてやめてしまうらしいのだ」
「そんなに続くのか」
「基本的には、1ヶ月は最低でも再生回数が伸びないらしい」
「1ヶ月も!?」
俺は発火のように驚いた。
「そうだ。1ヶ月だ。1ヶ月間も再生回数が1桁だったらやる気が出ないだろ?それで辞めていく人が多いらしいのだ」
「では、続けるためにはどうするのだ」
「調べたところによると、50の投稿をしてからが本番らしい」
「ごっ!」
「そう、50だ。だから、1日1つ投稿するとして、50日だ。大方2ヶ月だ。再生回数1桁を2ヶ月だ。心折れそうだろ?」
たしかに心折れそうだが、どうして彼女は言葉と裏腹に少しやる気で満ちているんだ?そんな修羅の道に自ら進んでいくつもりか?
「やっていくのですか?」
「そうだよ。だから、そちらも手伝ってくれ」
「でも、毎日1つの動画を作るのは」
「だから、貯め撮りするのだ」
「貯め撮りって、一度に何個も撮ることですよね」
線香花火のように静かに聞いた。
「そうだ。そうすれば、楽だろ?」
「楽かもしれないけど、するんですか?」
「やろう。思い立ったら吉日。今日一日やろう」
「一日中!」
俺は頭から火花が出そうだった。
「そうだ、1日中だ。合宿のようで楽しそうだろ?」
嬉々と喋るが。
「俺、合宿とか嫌いなんです」
「……合宿と違って、安らぐぞ」
「嘘つけ!」
彼女は真面目な顔で言い換えてきた。




