3-3:火曜日3
「思ったほど、才能ないね」
「うるさい」
無礼な奴だ。
「でも、少し安心したよ」
「何をだよ?」
俺はスマホをいじる彼女に聞いた。
「いや、才能ないところもあるんだなーって」
「馬鹿にしているのか?」
「いや、違うのだ。人ってものは才能がある人間を嫌うところがあるのだ。嫉妬するのだ。だから、才能がないとうれしいのだ」
満面の笑み。
「お前、結構嫌なやつだな」
「へへ、人の不幸は蜜の味」
「口に出して言うな!」
悪い笑み。
「とりあえず、これで動画投稿するね」
「おお」
「……」
「……どうした?」
「どう投稿するのだ?」
「……」
さて、トイレ行こっ。
「どーして手伝ってくれないのだー!」
俺の手を両手で揺すり懇願する彼女。
「やだよ。それくらい自分でやれ」
「むーりーだーよ。才能がいるよ」
「それで才能いるなら、ユーチューバー全員天才だよ」
まったく、こいつは才能なさすぎるだろ。いや、才能というより、努力だ足りないというか、いろいろ足りない。
あと、キャラ変わってねぇ?
「もー、やってやってやってー」
「あー、わかったよ。やるから黙れ」
俺はスマホを授かり、ユーチューブについてネットで調べたりしながら、なんとか投稿した。
「ありがとう」
「どういたしまして」
俺はやれやれとした。
「では、次の動画を」
俺は逃げた。
「出てこい」
「ドアが壊れるだろ」
トイレの攻防。
「出・て・こ・い」
「な・ぜ・だ・よ」
ドラが軋む音、開け閉じする音、筋肉が軋む音。
「そちらがいないと、動画投稿できないだろ」
「それくらい、俺なしでもできるだろ」
「これだから天才は」
「天才の問題じゃねぇ。努力の問題だ」
そう言い合って、押し合いへし合い。
「嫉妬させる天才め」
「勝手に嫉妬しやがって」
「な・ん・だ・と」
「な・ん・だ・よ」
「や・る・ん・だ」
「や・ら・な・い」
「て・ん・さ・い」
「う・る・さ・い」




