3-1:火曜日1
3:火曜日
赤いサイドダウンがマグマのように流れており、ねずみ色のパーカーに青のラップスカートが火山灰とそれを受け止める湖のように見えた。
彼女は泣きボクロが特徴的だが、それに似つかわしくない好戦的な鋭い目が俺に向けられていた。
泣いても出たら蒸発してしまった跡がホクロになったのだろうか?
「そちらがポンコツというものか?」
「そうだ」
そろそろ慣れてきた。
「こちらはポンコツに憧れるものだ」
こいつもポンコツかな?
「憧れるとはどういうことだ?」
俺は彼女のギラギラに燃えている目に向かって冷めた目でこたえた。
「ポンコツっていいじゃないか」
「どこがいいんだ?」
跡形もなく燃え尽きてしまった荒野のような何もない感情で受け答えした。おそらく、今までの人たちで慣れたのか疲れきったのかだと思われる。どちらにしても、今日も巻き込まれるわけか……
「ポンコツってことは、普通と違うということだ」
彼女は俺と対照的に熱を込めて言う。
「まぁ、普通になれなかった落ちこぼれですから」
「いいえ、違う。天才と狂人は紙一重というし、サヴァン症候群というものもある。羨ましいよ」
難しそうな言葉を。
「はぁ」
「こちらは普通の人間であることが嫌なのだ。皆を魅了させる天才になることができないのだからな」
「でも、普通の人間も素晴らしいでしょ」
「そういう慰めの言葉は要らない。こちらは天才になりたいのだ」
誰にでもそういう願望はあると思うが。
「天才と凡人との対比ですか?漫画とかでよくある」
「そうだ。凡人であるこちらは天才である可能性があるそちらに嫉妬しているのだ」
好戦的に言ってくるけど。
「俺、ただのポンコツで天才じゃないですよ」
「天才は皆そう言う」
「いや、本当にただのポンコツだから。紙一重で天才じゃないほうだから」
「そう思っていたら、実は天才ということもあるのだ」
「というか、どちらかというと俺も天才を見て諦めてきた側だから」
「でも、違う分野で天才かもしれないぞ」
「終わらねー!」
俺は火炎放射のように声を荒らげた。
「何が終わらないのだ?凡人にはわからないぞ」
「うっさい。そこまでいくと嫌味だ」
残り火のように会話が続く。
「そうか。すまない、嫉妬だ」
「俺は思うのだ。『1つの嫉妬は多くの苦労で帳消しにされる』と」
「天才の発言ですね」
「そうじゃない。言葉遊びさ」
「でも、わかります。嫉妬していると心労がたいへんだ」
「わかっているのなら嫉妬するなよ」
俺は炎を消すように言った。
「なにを馬鹿な事を言っているのだ?」
「ばっ?」
「分かっていてもするから嫉妬なのだよ」
俺ははっとした。
「それはすまない」
「これだから天才は」
「だから天才じゃないって」
俺はため息をついた。
「そうか、では、才能を探そうではないか」
「どうしてそうなる?」
俺は質問した。
「色々と試すのだ」
「それはいいけど」
「じゃあ、動画投稿するぞ」
彼女のやる気に火が付いた。
「ユーチューバーですか」
「そうだ。これからはユーチューブの時代だ」
そうかもしれないけど。
「やりかたわかるのですか?」
「わからん」
即答かい。
「とりあえず、スマホで動画撮るか」
「カメラじゃないの?」
「わからん」
さっきも聞いた。
「とりあえず、何の企画する?」
「そういうのは、先に決めておくのではないのですか?」
「わからん」
でしょうね。




