2-5:月曜日5
「先生」
「なんでしょう」
おれは英語の文章を読んで、気になったところを質問する。
「ここ、時と条件を表す副詞節のなかなのに未来形があります。間違っています」
「そうですね。しかし、あなたのその知識は高校英語の知識であって、例外はいくらでもあります」
「そうなのですか?」
「分かりました?」
「分かりました……じゃねぇー!」
おれはプリントを叩いた。
「どうした?」
「どうしてごっこ遊びしているんだ?」
「そのほうがはかどるかな、と思って」
「そうかいそうかい」
俺は月の任務から還ってきた宇宙飛行士のように疲れていた。
「聞きたいことは終わりか?」
「それともう1つ」
俺は月明かりでもう一つ発見したように。
「なんだ?」
「さっき習ったこと、意味ないじゃん」
「何がだ?」
「時と条件を表す副詞節の中の未来形は現在形で表す、に関することだよ。例外はいくらでもあるのなら、覚える必要ないだろ。この長い言葉を覚えてしまっただけじゃねぇか。変に語感がいいから覚えてしまったわ。アウストラロピテクスや墾田永年私財法みたいに癖が強いわ、この言葉」
「ほぉ、そこに気づくとは賢いではないか」
「うるさい」
「それよりも、次は国語だな」
「うぉい」
月を掴むかのように届かない相手との距離感よ。
「なんだこれ?」
「引用だ」
おれは本を読みながらパソコンを打ち、文章を書いていた。
「違う。いや、違わないけど、違う」
「何が違うのだ?」
月が急に上がったかのように顔を出した彼女。
「いや、その、国語なのこれ?パソコン使っているけど」
「要するに、論文書く練習」
「論文?そんな恐れ多い」
かぐや姫に求婚するくらい恐れ多い。
「まぁ本格的には知らないけど、一応の触りだけ教える」
「いや、だからこれが国語なの?」
「まぁ、読み書きすれはどれも国語みたいなものだ」
そうなのか?
「それよりも、引用しっかり書かないと」
「そんなに大切なのか?」
「そうだ。むしろ一番大切だ。根拠の問題でも権利の問題でもそうだ。極論、論文は引用だけでもいいといわれるくらいだ」
「誰が言っていたんだ?」
「僕の指導教官だ」
たぶん、本当にそうなのだろう。
「それで、引用した文章と自分の意見を対比させるのだ」
説明続くけど。
「なぜこんなことしているんだ?」
おれは聞いた。
「あんたが勉強したいと」
「言ってないよ!」
俺は拒否した。
「言ってなかったか?」
「言ってない」
クレーターのようにデコボコとした返答。
「そうか、でも、どうせなら」
ん?
「今までつけた知識を使って、『1つの物欲は多くの苦労によって帳消しされる』に関して研究しないか?」
「いやだ!」




