18話 初心者狩り ◆オンライン◆
俺達は格上のプレイヤー達に取り囲まれていた。
彼らはニヤニヤしながら俺達のことを値踏みするように見回している。
どうやら、こちらのステータスを探っているらしい。
このゲームでは相手に許可を得ないと全てのステータスを閲覧することは出来ない仕様になっているが、名前とレベル、そして職業などの基本情報は誰でも見られるようになっている。
「レベル11の弓使いと、レベル7の魔法使いか。雑魚だな」
金髪頭の騎士の男が嘲笑を浮かべながらそう言った。
すると、仲間の呪術士が更に輪を掛けたように薄笑いを見せる。
「やっぱり、初期装備は美味しいな!」
「ははっ、言えてる」
二人は揃って冷笑した。
――やはり、こいつら初心者狩りだ。
丁度、俺達くらいのレベルの人間が狩りをしていそうな場所に張り込み、獲物がやって来たところでPvPを仕掛ける。そういう手口だろう。
彼らのレベルは騎士が6、呪術士と僧兵が共に5。
レベルこそ俺達より低いが、そこは二次職だ。
一次職のステータスを引き継いでいるので、基本ステータスは一次職の同レベルより高い。
とはいえ、クラスチェンジすると再びレベル1からになるので、早くレベルを上げたいという衝動に駆られる。
そんな時、確実に格下だと分かり、少ないながらも経験値もそこそこ入り、運が良ければ金や良いアイテムが奪えたりする。そんな方法があったらどうだろう?
ステータスを覗けばレベルは分かるが、相手に通知が出てしまうので近付く前に警戒されてしまう。
そこで、このやり口だ。
俺達のレベル帯のプレイヤーは、ほとんどが初期装備に身を包んでいる。
そういった装備のプレイヤーだけを選んでPvPを仕掛ければ、ほぼ返り討ちに遭う心配はない。
クラスチェンジしたばかりのプレイヤーが、二次職のレベルを安全に上げるには効率の良い方法と言えるだろう。
だが、こういった行為は大体に於いてプレイヤー達の間で嫌われる。
敢えて悪役を貫き通すことが出来るのも仮想世界の醍醐味でもあるが、ここまで来ると迷惑行為と紙一重だ。
「そんな事より早くやらせてくれよぉ! 俺がエルフの方だからな! 女キャラが苦痛に顔を歪ませる姿が大好物なんだよぉぉ!」
僧兵の男が、両手を震わせ苛立った様子を見せる。
「出た出た! こいつのヤベぇ性癖が!」
呪術士が大袈裟に面白がる。
これにユーノは敏感に反応して、怯えた顔で俺の傍に身を寄せてきた。
「つー訳だから、申し訳無いが俺達の糧になって死んでくれ」
騎士が、そう言いながら剣を抜いた。
――まさか、こんな所でPvPをやる羽目になるとはな……。
だが、レベルでは劣っているとはいえ、ステータスは圧倒的に勝っているはずだ。
今の俺なら、簡単にねじ伏せることが出来るはず。
俺は持っていた杖を体前で構えた。
「防御の構えだと? ははっ、物理防御力が紙みたいな魔法使いが、騎士の攻撃に耐えられるわけがねえだろ!」
騎士は嘲弄すると剣を構え、そのまま俺に向かって斬り付けてくる。
次の瞬間、
ガキンッ
金属同士がぶつかり合うような音が鳴り響いた。
「な……んだと!?」
騎士は眼前で起きた出来事に瞠目していた。
身幅のある騎士の両手剣が、初期装備の繊弱な杖で受け止められていたからだ。
「馬鹿な……こんな事あるわけが……」
――思った通り、衝撃すら感じないぞ。
物理防御力225って、レベルにしたらどれくらいで到達するレベルなんだろうか?
二次職の騎士の攻撃を受けてノーダメージな訳だから、奴の物理攻撃力より上ってことは確かだ。
じゃあ、こっちはどうだろう?
俺は杖を持っていない方の手で拳を握ると、すかさずそれを騎士の腹目掛けて叩き込んだ。
「あがぁぁぁっ!?」
途端、騎士の体が後方に吹っ飛び、近くの木の幹にぶち当たる。
その直後、コンソール上に、
[アーマーブレイク!]
の文字が浮かび上がった。
どうやら装備を破壊してしまったらしい。
しかも騎士のHPは半分以上減っていて、気絶状態だ。
魔法を使わず、拳だけでそこまで追い込んでしまっていた。
「な、ななな、なんだ……!? お、お前っ……本当に魔法使いか??」
目の前で起こった出来事に呪術士が狼狽えた様子で言ってくる。
「レベルを偽ってる……?? いや、そんな事は有り得ねえ……。じゃあ、なんで……??」
彼はブツブツと独り言を呟いている。
だが、すぐに我に返った。
「そうだ……物理攻防を上げる特殊なアイテムを使ったに違いない……。カタカタの実の亜種みたいなのもあるらしいしな……ならば――」
呪術士は顔を上げると、こちらに向かってニタリと笑ってみせた。
「俺の呪術で葬ってやろうじゃねえか!」
彼は杖を構えると、呪術の詠唱に入った。
その長さから、かなり強力な魔法攻撃のようだ。
――それなら、こっちもやらせてもらおうか。
「鈍化!」
俺はスキルを使った。
途端、呪術士の詠唱速度が落ちる。
「な……これは……鈍化スキルか……? だが、この重さ……レベル7が使う鈍化のレベルじゃねえ……!」
レベル3の鈍化だ。
知識と敏捷が30%も下がっているはず。
呪術が発動するまでには相当な時間が掛かるだろう。
さて、奴がのんびりやっているうちに決めてしまおう。
俺は再び杖を構えると魔法を唱える。
「ヘルファイア!」
「……!?」
地面を這うように噴き上がる紅蓮の炎。
周囲にある森の緑が、一瞬にしてオレンジ色に染め上がる。
その光景に呪術士は目を見張った。
「ヘルファイア……だと!? それは大魔導師でないと覚えられない魔法じゃ……ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
彼は全てを言い切る前に、転がっていた騎士共々、消し炭になっていた。
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