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16話 スキルパレット ◆オンライン◆


 明くる日の晩、ノインヴェルトにログインしてみると――、



[Exp 1210]



 経験値が増えてた!



 やはり、俺が考えていた通りの結果が出た。

 リアルでの出来事が経験値に加算されるのだ。



 今日の球技大会で、うちのクラスは見事、優勝した。

 それもほぼ俺一人の活躍によっての勝利だ。



 これほどの能力を持ち合わせているのだから、負けるなんてことはない。

 ただ、今度は少し力をセーブした。

 あんまりやり過ぎると逆に不自然だからな。



 6対0とかいう、それっぽい点数で決着を付けておいた。



 それでもやはり、試合中のプレイは派手に映ってしまうようで、大会終了後もクラスのみんなが寄って集って持てはやす状況が出来上がっていた。



 そういうのはちょっと苦手だから、それとなく抜け出すのに苦労した。



 それはそうと、経験値だ。



 昨晩、記憶しておいた数字は1100だった。

 ログインして真っ先に見た経験値は1210。



 とうことは、110増えていることになる。



 スライムを一匹倒して2~3の経験値。

 イビルバットで7~10の経験値だから、それと比べるとかなり多い。



 サッカーの試合を勝利しただけで110ポイントも入るなら、レベル上げとしては効率が良さそうだ。



 だが、普段からそうそう試合があるわけでもないので、モンスターよりも遭遇率が低いのが難点。



 他にもリアルで経験値を得られるものがあるかもしれないが、地道にゲーム内で稼いだ方が確実かもしれない。



 という訳で、リアルで経験値が入る事が分かったが、レベルアップには至らなかったようだ。

 レベル8になるには、もうちょっと必要らしい。



「それじゃ、今日もレベ上げして行こうか」

「そうだね」



 町中で既に落ち合っているユーノとそんな会話を交わす。



「それとも、昨日出来なかったクエストでもやる?」

「あ、はいはい! それなら私、一つやりたいクエがあるんだー」



 ユーノはエルフ耳をピコピコさせながら手を挙げた。



「何?」

「スキルパレット増加クエ!」

「ああ、あれか」



 俺もそのクエストの情報は知っている。

 スキルパレットとは、スキルをセットする為の枠の事だ。



 このゲームでは、スキルをただ覚えただけでは使うことが出来ない。

 スキルパレットにセットすることで始めて使用することが出来るのだ。



 しかし、このスキルパレット、ゲーム開始時には通常、一枠しかない。

 ちなみに今は〝鈍化〟のスキルがセットされているが、これでは戦闘時にそのスキルしか使えない。



 このままでは今後、冒険を続けて行く上で、なにかと不便だ。

 パレットの数が多いに越したことはない。



 そこでスキルパレット増加クエの出番。



 各国で受けられる専用のクエストを受注してクリアすることで、この枠が増えるのだ。

 最大いくつまで増えるのかは、まだサービス開始間も無いので情報が開示されていないが、前作のアインズをプレイした限り、十枠くらいまでは増えそうな予感がする。



 序盤で枠を増やしておくと、煩わしさからも解放される。

 今の内にやっておくのもいいだろう。



「いいね、それ行こう」

「やった、決まりね」



 ユーノは再び嬉しそうに耳を震わせた。



「で、そのクエはどこで受けるんだ?」

「初級の増加クエは冒険者ギルドで受けられるよ。確か『格闘家の指南・序位』とかいう名前だった気がする」

「ほう、分かり易い場所で良かった。じゃあ行ってみようか」

「うん」



 丁度、町中に居て助かった。

 俺達はディニスの町中を駆け、冒険者ギルドへと向かった。



 ギルドは町の中心部に建っていて、かなり広いロビーのある大きな建物だった。

 中は他のプレイヤー達でごった返している。



 みんなここでパーティを募集したり、クエストを探しにきているので必然的に混み合うことになる。



 だが、俺達が求めるクエストはギルドの受付にあるものじゃない。



 ロビーの隅っこのテーブル席に座っている格闘家らしきNPC。

 そいつにに話しかけるだけで受注できるらしいのだ。



 実際にその場所に行ってみると、恰幅の良い男が椅子に座って酒を飲んでいるのが窺えた。



「あの人だね」

「みたいだな」



 俺達が近付くと、男はこちらに気付いて話しかけてくる。



「よお、兄ちゃん達。俺には分かるぜ? 強くなりたいって顔をしているのが」

「は、はあ……」

「なんだ? 覇気がねえなあ。さては俺の見間違いだったか?」

「いや、そんなことは」

「そうか、やる気があるなら、格闘を極めたこのガイナ様が手解きをしてやってもいいぜ?」



 そんなふうに言ってくる彼の表情や仕草はNPCとは思えないほどリアルだ。

 一見しただけでは中身が人間である他のプレイヤーと区別が付かないくらい。



 しゃべり方もとても自然で、受け答えもちゃんと出来ている。

 それもノインヴェルトの売りの一つでもある超AIの賜物だろう。



「どうするよ? やるのか? やらねえのか?」



 ガイナはもどかしそうな表情で俺達の答えを待っている。



「やるよ」

「そうか、なら、まずはお前達の力量を測らせてもらおう」

「力量?」



「ここから西に行った森の中に洞窟がある。そこに巣くっているゴブリンの親玉を倒してきたら、俺の指南を受けられるだけの力があると認めてやってもいい」



 そこまで話を聞くと、コンソール上に通知が。

 新しいクエストが追加されたらしい。




[格闘家の指南・序位]

 推奨レベル:5~10

 発生条件:レベル5以上

 目標:エルダーゴブリンの討伐

 達成条件:エルダーゴブリンの骨をガイナに渡す

 報酬:スキルパレットの増加+1




「おお、受けれたぞ。しかも、このクエを達成するだけでパレットが増えるんだな」

「そうだよ。これを達成した後に、この人から中位と極位のクエも受けられるから、それで合計三枠増えるの」

「なるほど、詳しいな」

「先行組の情報収集は欠かしてないからね!」



 やっぱり、ユーノは廃ゲーマーだった!



「何をごちゃごちゃ言ってる。分かったら、さっさと行ってこい」

「お、おう……」



 NPCに促されるのも、なんか変な感じだ。

 ともあれ、俺達はそのエルダーゴブリンがいるという洞窟に向かうことにした。



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