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11話 球技大会 ◇オフライン◇


 あの後、俺とユーノはしばらくイビルバットを狩り続けた。

 お陰でたっぷりの経験値とお金を手に入れることが出来たのだが……やはり、レベルは上がらなかった。



 何がいけないんだろうな……。

 最初の一匹目でレベルが上がったってことは、そのモンスターだけ特別だったのか?



 ただ一つ気になるのは、昨日ログインした時点での取得済み経験値が多いように感じた事だ。

 前々日のスライム狩りを終えた際には、そんなになかった気がする。



 経験値の数字をハッキリと記憶していた訳じゃないので、気のせいかもしれないけど。



 ともあれ一夜明けて、今は登校の時間。

 ノインヴェルトの世界でずっと遊んでいたかったが、こればかりは仕方が無い。



 学校に到着した俺は、正門を抜けて教室へと向かう。

 その足取りは重い。

 普段からそんな感じだが、今日はいつもより輪を掛けて重かった。



 その理由は明確だ。



 本日、学校で行われるイベント。

 それが原因だった。



 ――球技大会。



 陰キャにとって地獄の響きを持つ言葉だ。

 体育祭と並んで、陽キャの連中が血気盛んになるイベントでもある。



 奴らは、なんであんなに盛り上がれるんだろうな……。

 やっぱり、女子の前で良い格好を見せたいとか、そういう事なんだろうか?



 運動神経を母親の胎内に置いてきた俺にとっては、全く関係の無い話だ。

 まさに通夜のような一日なのだから。

 しかもこれが一日ならまだしも二日間に渡って行われるというのだから、死ねと言われているようなものである。



 ちなみに行われる球技種目は男女で異なる。

 男子はサッカー、バスケ、ソフトボールの三種。

 女子はハンドボール、バレーボール、ドッジボールの三種だ。

 それぞれの種目でチームを作り、クラス対抗で優勝を争う。



 一応、やりたい種目に希望を出すことが出来るが、端から俺はどれも希望したくない訳で……。



 だからといって拒否権は無いので、そうなってくると自動で振り分けられることになる。



 それで決まった俺の種目はサッカーだった。

 もうこの際、なんでもいいのだが、俺がそこに入ることになるや否や、サッカーを希望していた生徒達が、俺に向かって「足手まといになるなよ」的な厳しい視線を送ってきたのを覚えている。



 すまんな。俺も君達の邪魔はしたくないのは山々なんだ。

 出来れば仮病を使って休みたいけど、うちの担任は誤魔化しが利かない人間だからな……。



 憂鬱な気分で教室に入ると、やる気満々な連中が既に体操服に着替えて騒いでいた。

 俺はそんな奴らを避けるように、こっそりと自分の席へと向かう。



 すると、その最中、一人の生徒と目が合った。

 普段であったら気にせずに通り過ぎていたはず。

 なのに今日に限って目が行ったのは――、



 それが名雪さんだったからだ。



 彼女は教室の隅で窓の外をぼんやりと見つめていたが、俺のことに気付いて目を向けてきたのだ。



「あ……ユー……ノ……」



 俺は「ユーノ、おはよう」と言おうとして、思わず口籠もってしまった。

 いつもはそんな事しない癖に、慣れないことをするからだ。

 しかもゲーム内の感覚で、アバター名で呼ぼうとしてしまい、焦った。



 周囲の人間からしたら、全く接点が無かった二人が急に下の名前を呼び捨てにして仲良くし始めたら、何かあったのではないかと勘繰られるかもしれない。



 彼女も彼女で、俺と目が合うなり顔を赤くして俯いてしまった。



 なんだろ……。

 ゲーム内の積極的な彼女とのギャップが凄い。



 昨晩までずっと一緒にプレイしていたから尚更、同じ人物なのかと思ってしまう。



 ともかく、変な感じになってしまったので、そのまま自分の席に着いた。

 すると、椅子に座ると同時にスマホに着信があった。



 メッセージアプリからのようだが……俺にそんなのを寄越すのは母親か、広告くらいなもんだ。

 だから、何とはなしに確認してみたのだが……そこにあったのは、



 ユーノ『おはよ』



 という一文だった。



「……!」



 俺は驚いて一番後ろの席に座る彼女に目を向ける。

 すると名雪さんは、俺のことをチラッと窺っただけで、再び恥ずかしそうに俯いてしまった。



 そういえば、彼女と連絡先を交換したのを忘れていた。

 というか、友達いないから、そもそもそのアプリを使う機会がほとんどない。



 俺は慣れない手付きで返信する。



 ユウト『さっきはごめん、おはよう』



 こんな近い場所で……直接話せばいいのに、俺達は何をやっているのだろう?

 そう思ってしまうが、よく考えたら名雪さんは普段から全く喋らないので、実はこの方法が最適なのかもしれない。



 彼女にとってネットワークの中が居心地の良い場所なのだと思う。



 そんなことを思っていると、すぐに返信が。



 ユーノ『今日の球技大会、ユウトはサッカーでしょ?』

 ユウト『ああ、そうだけど。良く知ってるね』

 ユーノ『種目決めの時、見てたから』



 見てた……って、その時は俺達の間に何の関係も無かったのに、よく覚えてるな……。



 ユーノ『頑張って。応援してる』

 ユウト『応援って……俺、そういうのあんまり得意じゃないんだけど……』

 ユーノ『大丈夫だよ。ユウトなら出来る。だって、魔法だって使えるんだもん』



「魔法……」



 彼女にそう言われてハッとなった。



 そうか! ステータスがリアルと同期している今の俺なら、球技大会くらい何とかなるかもしれない。



 魔法はさすがに派手すぎてヤバイけど、スキルだったら試合中に使えそうだ。



 ユウト『なんだか、やれそうな気がしてきた』

 ユーノ『うん、その調子』



 彼女に励まされると、考えている以上に力が湧いてくる気がした。



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