小鳥色のタンス
うむむ、お題が上手く調和してない。超展開で何とか押し込んだ感じになってる。しかもよく見たらお題達成したか微妙だ。
オレ、信教院京也には、一つ、秘密がある。それは……。
「……ピヨ?」
俺の部屋に、最強のヒヨコが住み着いているということだ。
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それは、丁度一週間ほど前のこと、俺は先ほどまで飲んでいた、友人の辰巳慎吾と別れ、一人夢見心地のまま、街中を歩いていた。
「ちょっと、そこのお兄さん」
そこに、一人の男が声をかけて来た。年のころは50を超えたような見た目で、しかし、見た目以上に雰囲気が老成したような、陰気臭い……まあ、要するに胡散臭い痩せぎすの男だった。
その男は俺を引き留めると、クククと笑いながら近づいてきた。
「お兄さん、あんた、なかなかいい面構えだね。ねえ、どうだい、あんたよくモテるんじゃないかい?」
その言葉に、俺は酔っていたこともあり、機嫌よく答えた。
「はっ、当たり前だろ?モテモテに決まってる。……まあ、少なくとも爺さんよりはモテてると思うぜ」
「それはそれは、あやかりたいというものですなぁ。しかし、見たところ彼女さんを連れていない様子。どうも、今は彼女も……いないようですなぁ、彼女ができても、すぐに振られてしまう……そう言ったことはありませんかな?」
「は?何言ってんだ爺!喧嘩売ってんのか!」
俺は口でそう言いつつも、内心でドキリとした。確かに、その男の言う通り、俺は彼女ができてもすぐに振られてしまうということを繰り返していたからだ、男友達からは不思議がられていたし、元彼女たちからの評判も、それほど悪いわけではないと思うのだが、何故だか長続きしない。そんなことが続いていた。
「そんなあなたにお勧めしたいのが、このタンス!どうです、かわいいでしょう?これ一つあるだけで、女性のハートを鷲掴み!おまけに運気まで上がってしまう!そんな素晴らしいタンスです!お値段なんと5000円ぽっきり!」
そうして男が提示してきたのは、淡い黄色をしたタンスだった。勿論、重厚で確りしたタイプのタンスではなく、どことなくファンシーさが漂うインテリア的な側面が強いものだ。収納できる量はそこそこのもので、これで5000円ならそれほど高いというわけではない。が、
「誰が客を馬鹿にするようなところから買うかよ爺!もうちょっと商売勉強してから物を売るんだな!」
俺はそう言って馬鹿にしたように鼻を鳴らした。と、いうか、初対面でタンスを売り込むのが異常なのであって、そもそも買う理由がない。
「おや、いいんですか?あなた、また彼女に振られますよ?」
「んだと?あぁ?」
男の手の内だとは内心察しつつも、ここまで言われて黙っていられるほど、酒が入った俺は自制心が強くない。
「あなた、彼女を家に招いてから振られているでしょう?」
「……っ!?」
確かにそうだ、あまり考えないようにしていたが、俺が彼女に振られるのは、決まって彼女を家に招いてからだった。
「あなたの家のなにが問題なのか?いえ、家ではない。あなたの住んでいる家に彼女を招くことの何が問題なのか?」
「てめーにはそれが分かるのかよ?」
「さて?私は商売を勉強しなおさなければならない素人のようですから」
俺はチッと舌打ちをした後、もう一度男に向き合った。
「詳しく聞かせろ。俺の家について話さねーなら、タンスのことについて話せ。俺が納得できないなら買わない。当たり前だな」
「ええ、商談をしましょう」
そう言って、男がにやりと笑った。
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翌朝、
「……あぁ、マズったな」
あの後、男の口八丁にまんまと乗せられ、買うつもりなど微塵も無かったタンスを買わされてしまった。あそこまで不信感を持っていた相手から物を買うなど、本当に信じられないし、今でも何か夢ではないかとすら思っているくらいだ。
そして、何を血迷ったか、俺はその足でタンスを担いで家まで帰って来ていた。素材は木であり、大きさは一般的な3段ボックスの倍の高さ、幅は一回りほど大きくなった感じで、タンスとしてはだいぶスリムな形状をしている。
また、見た目の軽やかさに比例するように、重量もそこまで重いものではなかったため、運搬自体は可能だった。
可能だった……が、そもそも家具というのは歩いて持って帰るものではない。今現在後悔している俺は、絶賛筋肉が悲鳴を上げている状態だ。
しかも、別に何かが壊れて代わりに買ってきたというわけでもない。要するに、使用予定も、置くための場所もないタンスが、俺の部屋の一角に鎮座することになったわけだ。
……本当にどうしよう。
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あれから数日、俺は買ってしまったものはしょうがないと、黄色いタンスを使っていた。使ってみると、軽い割には丈夫で、使い心地はすこぶる快適だ。それが意図せぬ買い物であり、そこにあること自体が業腹な代物であるということに目を瞑れば、まあ、良い買い物だったと言えるだろう。
そして、あれから数日たった俺は、新しい彼女を俺の部屋へ招くことに成功していた。今回は彼女だけでなく、他の友人数人と一緒ではあるがいずれは二人っきりで過ごすことも……なんて夢想している。
そして、俺が友人たちを案内して部屋にたどり着くと、俺たちは買ってきたスナック菓子やジュース、それにいくつかの酒を片手に、ボードゲームなんかをして盛り上がった。ある程度場が温まってきたところで、辰巳が俺に疑問を投げかけて来た。
「そういえば、京也の家に、あんなタンス前からあったか?初めて見たんだが」
「ああ、あれな、実は、前飲んだ後に買ってきたんだ。押し売りされてさ」
現在快適に使っていることもあり、多少苦い思いはあるものの、ゲラゲラと笑い飛ばすと、今日飲みに来ていた来栖恵美子がタンスを見て笑いかけた。
「でも、このタンス、なんだかお洒落だよ?なんていうか、あったかいって言うか、ほっとする、っていうか。……京也ごときが家具のセンスあるとか以外って思うくらいにはいいもんだと思うよ」
「なんだそれ、褒めてんのかよ?」
そう言って苦笑しながらも、俺は内心恵美子に感謝した。俺の彼女、斎宮綾乃がタンスに興味を持ってうずうずしていたからだ。
「ねえ、京くん。このタンス、見てもいい?」
「もちろん、いいよ……あ、でも、パンツとか見ても驚かないでね?」
「ふぇ!?パンツ!?」
その反応を見て、外野二人が大爆笑する。
「ちょ!今時男のパンツでそんな動揺する!?」
「初心っ子ってやつだな!あー!いいねぇ京也!」
「茶化すなよ二人とも……それで、見る?」
それを聞いて、綾乃は恥ずかしそうにこくん、と頷いた。
それを見て、俺は立ち上がってタンスを開けた。勿論こんなところにパンツは入っていない。下着は元あるタンスの方に全て入っているのだ。だから、安心してみていi……。
俺は扉を開けた状態でしばし思考停止した。何しろ、そこには、大凡大きさ10cmほどの大きさの、黄色いヒヨコがいたのだから。
「ヒヨコ?」
「ヒヨコ……」
「ヒヨコ」
「……ピヨ?」
「「「「ええええええええええええええええええ!?」」」」
俺たちの驚きの声が、近所中に響き渡った。
そして、その瞬間部屋の中が一変した。何やら黒い影が浮かび上がり、それが凝縮して何かを形作り始めたのだ。
そして、できた影は……。
「博美……?」
その姿は、俺にとって忘れられないものだった。
博美、それは俺の最初の彼女であり、そして、俺がつまらない理由で彼女を無視した結果、自殺してしまった女性の名前だった。
その影は俺を見ると、ニコリと笑う。でも、その笑顔は全く安心できない、狂気に満ちたものだった。
「ネェ、ナンで京也ハ、ホカノ女トイルの?私はステタノニ、ホカノ女を選ぶの?ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテイツも私が女達を追い払うノニナンでイツも湧いてくるの?ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ……」
そして、その笑顔が一層深くなる。誰かの息を飲む声が聞こえ、しかし彼女は俺だけを見つめてこう言った。
「貴方ヲコッチニツレテイケバイインダネ?」
「ひっ……!?」
驚き、後ずさる俺に彼女はまるで獣か何かのように襲い掛かり……そして……黄色い鳥に捕食された。
「は?」
「ナンデ!?モウスコシダッタノニ!ユルサナイ!ユルサナイィィィィィィィィィィ!?」
博美はもぐもぐと口を動かす小鳥に捕食されるという何とも言えない姿を見せながら、消滅していった。
「……いったい何だったんだ?」
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その後、俺と綾乃は無事にカップルとして過ごしている。無理やり解釈すれば、あの博美の霊が、俺と恋人になった女性に何かをして別れさせていたのだろう。
なお、あの後、俺たちは今回のことを夢だと思い込むことにした。内心はどうか知らないが、あんなことを現実だと思うほうがどうかしている。それに、俺以外にはあの小鳥は姿を見せていないのだから。
そうそう、あの小鳥だが、あれから少しづつ姿を見せるようになっている。最初の登場はものすごくインパクトがあったものの、俺を助けてくれた鳥だ。大事にもてなすことにした。
これが、俺と不思議な黄色い小鳥の話だ。
今回のお題
「黄色」 「タンス」 「無敵の存在」
執筆時間 1h just!!
もしかしたら、小鳥が子取りを撃退するとかそう言うのが暗喩されてるのかもしれない。いや、私はそう言うの想定して書いてないけど。