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サボテンの花と殺戮人形(out)

記念すべき第一作

なおお題とどれくらいで書き終えたかはあとがきの方に書かせていただきます。

 小さなサボテン、それが僕の、唯一の道しるべだった。

~~~~~~~~~~~~~~~

「R2、今日もいい腕だな、おい!」


 愉快そうに笑う男に、R2と呼ばれた女はにこりと笑うでもなく、視線を返す。


「私は命令されたことをしただけよ。次の命令は何?」


 その返答にヒューッと口笛を吹いた男は、R2に向かって言葉を返す。


「脅しが10件、殺しが5件、ここまでしてもまだ足りねえってか。いや、イカスねぇ!」


「茶化しは結構よ。さっさとしなさい」


「残念だが、今日はもう店じまいだ。明日になりゃまた何かあるだろうから、またここに来な」


 その言葉を聞いて、R2は自分の塒へと向かうのだった。


~~~~~~~~~~~~~~

 R2の人生というのは、薄っぺらいものだ。幼い頃の記憶はない。気付いたころには、既に殺しや脅しの訓練を受け、立派な裏社会の人間に……いや、権力者に都合のいい、影の道具になるための訓練を受け続けていた。

 彼女には、名前はない。ただ単に、依頼者が混乱しないためのコードネームR2というそれだけが、彼女を示すものだ。


 そして、それは彼女の部屋にも表れている。何もない。本当に何もない部屋には、仕事で使う武器や工具、あるいは替えの着替え以外には、ベッドくらいしか置いていない。

 生活様式においても、自由な時間は殺しのための訓練をする以外は、部屋で何も考えず待機するような、人間味の無い生活を送っていた。


 しかし、彼女の部屋には、たった一つだけそれらとは全く異なるものが置かれていた。それが、小さなサボテンだった。いつからそれがそこにあるのか、それは彼女ですら分からない。

 少なくとも、彼女の消え去ってしまった子ども時代にはもうすでに所持していたのは明らかだった。

 たった一つ、自信ですら思い出せない、子供時代の忘れ形見。それが、彼女の持つ唯一の人間性だと言えるかもしれない。


~~~~~~~~~~~~~~~

「……サボテンの花が咲いたら、また会おう」

~~~~~~~~~~~~~~~


「……っ!」


 目が覚めたR2は、現在自分が感じている感覚に戸惑いながらも、目を覚ました。なんだか、心がざわざわするような、何かを思い出すような。


 だが、それは雑念だ。R2は頭を振ってそれを吹き飛ばすと、待ち合わせの場所へと向かう支度を始めた。


「さて、今回お前さんに頼むのは、ある男の調査、及び殺害だ」


「調査及び殺害?」


「そうだ。まあ、殺害するかは分からんがな。とあるクライアントからの依頼でな。自分の周りを嗅ぎまわっている奴が厄介だが、実際に自分を嗅ぎまわっているのか、それとも自分の周りにいる別の奴を嗅ぎまわっているのか分からんそうだ。そのクライアント曰く、”俺の周りの奴を殺すならむしろ大歓迎”らしくてな。ターゲットがクライアントを殺そうとしているかを確認せにゃならん。と、言うわけだ」


「……分かった。期日は?」


「クライアントに害が出ないうちならそれでいい、だそうだ。まあ、長くても1週間とみてくれ」


「そう、なら、クライアントとターゲットのデータを貰うわよ」


 二人分のデータを入手したR2は、それから一旦自室に戻り、支給された変装用の服を着こんでから、ターゲットの元に向かった。


~~~~~~~~~~~~~~


「あれが、ターゲットのカタス・バードね」


 その男は、中肉中背、何の特徴もない男だった。年のころはR2と同じ程度、20代の後半と言ったところだろう。


「ハァイ、そこのお兄さん」


「おや、それは僕のことかい?君みたいな美人に声をかけられるなんて、光栄だね」


 いつもでは考えられないほど感情を示す笑顔で声をかけたR2に、彼はニヒルに笑って返した。そしてR2は特に何を思うでもなくそれに微笑み返す。


「私こそ、あなたみたいないい男に会えてうれしいわ。どう、これから一緒にどこか遊びに行かない?」


「マジかよ、そりゃいい。……と、言いたいところなんだが、生憎外せない用事があってね、悪いがすぐ行かなきゃならないんだ」


「それは、私と遊ぶより重要なことなのかしら?」


 そう言うと、彼はおどけたように首を竦めた。


「悪いが、俺一人のことでもないんでね。しかも俺がリーダーだ。君とのひと時は本当にもったいないが、抜けるわけにはいかない」


 おどけながらも譲らない彼に、R2は首を竦めて名刺を差し出した。


「なら、仕方ないわね。でも、私、あなたを諦めきれないみたい。これ、私の連絡先だから、時間ができたら呼んでほしいわ。私はリッツよ。あなたが呼ぶなら、どんな時でも喜んで会いに行くわ……まぁ、私をリーダーなんていう子たちを待たせていなければね」


 R2の返答に、彼は驚いたようにそれを受け取って、代わりに彼の名刺を差し出してきた。


「まさか、初対面でこれほど気に入られるとは思わなかったよ。用事が終わったら、必ず連絡することにしよう。俺の名前は、カタス・バード。また会おう」


 そう言って立ち去っていく彼の背中を追って、R2もまた、人ごみの中に消えていくのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~

 少年と一緒に遊んでいる。


 少年がサボテンの花を私に手渡す。そして……


「サボテンの花が咲くころに……」

~~~~~~~~~~~~~~~~


「……っ」


 またしても、あの夢を見た。R2は被りを振ってその夢を追い払う。益にもならない夢のことを考えるなど、道具には必要のないものだ。


 カタスについての調査は、もうずいぶんと進んでいた。結果は真っ黒。彼はとある政治家の不正を告発するために、仲間と共にいろいろな証拠をつかんで、新聞社にリークしようとしていた。しかも、闇金や賄賂だけでなく、違法な薬物や奴隷売買の詳細な証拠まで掴んでいた。


 これを何とかするには、一刻も早くカタスを消し、証拠を全て消すしかないだろう。


「……あ」


 ふと見ると、この部屋で唯一、彼女が持っている私物であるサボテンの様子がいつもと違っていた。小さなサボテンの頂点に、小さな花が咲いていたのだ。


 心の中には、どこかで聞いた「サボテンの花が咲いたころ」という言葉が浮かび上がる。だが、どこで聞いたかも、誰が言ったかもわからない言葉は、すぐにどこかへと霧散していき、そして、彼女はカタスを殺すための準備をするのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~

 カタスとの待ち合わせは、彼の自室だった。リーダーである彼の自室には、無防備に金庫が置かれており、その中に不正の証拠がわんさかと入っている……ということを、R2はすでに把握していた。


 そして、彼女は、彼への土産として、かなり度数の高い酒を用意してきていた。これでこん睡させてから殺せば、比較的安全に殺害ができるだろう。金庫にしても、素人ならともかくR2ならば少し時間を掛ければ簡単に開けられる。

 もう、この時点でカタスと不正を告発しようとしたものたちの運命は決したのだ。


 そして、カタスの自室ではそうとは知らないカタスが、上機嫌で杯を開けていた。


「そこで俺は、あの政治家を絶対にム所にぶち込んでやろうと決めたんだ!」


 たどたどしい呂律でそんなことを言うカタスに、R2はあまり興味がないながらも相槌を打っていた。そして、もう十分に酒が回り切ったと思われたタイミングで、彼が話題を変えた。


「なぁ、サボテンって、どう思う?」


「サボテン、ですか?」


「ああ、俺はさ、サボテンが好きなんだ。決して、枯れず、しおれず、どんな過酷な環境でも生き残る。そんな生き方がさ。

 俺さ、昔、サボテンをある人にプレゼントしたことがあるんだ。その人はとってもストイックで、いつも体を鍛えてた。そんな姿が忘れられなくて、仕事ができたって、俺ともう会えないって言った時にさ、俺、サボテンをその人にあげたんだ。サボテンの咲くころに、また会おうって……結局、今の今まで会えずじまいだけどさ……今頃、何してるんだろうな」


 それを聞いて、R2は思わず彼の首に伸ばしかけた手を止めた。

 それは……その話は。


 私は道具、権力者たちの影。でも、だけど。


 R2と呼ばれた私は、もう、その時点で壊れてしまった。道具ではなくなってしまった。始めて私を道具でなく、人として見てくれた彼を、どうしても殺すことができなかった。どうしても彼の死を許容できなかった。だから、その凶刃は別のところに振るわれた。


「全く、厄介なことをしてくれたもんだぜ。あぁ?R2よ。まさか、クライアントに牙を剥くとはな」


 慣れ親しんだ男の声も、今は冷たく聞こえてくる。


「分かるだろ?使い手を傷つける道具はいらねえんだ。本当に、残念だよ」


 そんな彼の言葉に、私はニヤリと笑った。


「私はもう、道具じゃない」


 その一言を最後に、R2としても人間としても、私の人生は幕を閉じた。




お題

「影」 「サボテン」 「消えた子ども時代」


執筆時間 1時間2分


 初っ端からタイムオーバーと言う体たらくです。


練習の側面もありますので、ご意見、ご感想など頂けると、本当に助かります。

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