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第14話【二人きり】

「ふふふーん」

「なんだか今日は随分と陽気だね。エリス」


 姿見の前で鼻歌を歌っていたら、エアが話しかけてきた。


「だって。カリナだけでも楽しいのに。今日はアベルも来てくれるんだよ? 絶対楽しい日になるよ!」

「あ、ああ……そうだね」


 今日はこの前約束した、三人でお菓子を食べにいく白竜の日だ。

 約束の時間にはまだ少し時間があるけれど、あまりに楽しみでじっとしていられない。


 そんなことを考えていると、部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。


「すいません。エリス。ちょっといいですか?」


 声はカリナのものだった。

 どうしたんだろうと思いながら、扉を開ける。


「どうしたの? 約束の時間にはまだ少し早いと思うけど」

「それなんですが。実は今日のお誘い、都合が悪くなりまして。申し訳ないですが、今日はいけません」


 中に招き入れながら用件を聞く私に、カリナがとんでもないことを言い出した。

 まさか、今日になって来れないだなんて。


「え!? どうしたの!? 何か急用!?」

「ええっと。そうですね。どうしても外せない用事です。すいません」


「えー。そんなぁ。じゃあ、しょうがない。今日は諦めて、また今度の白竜の日にしようか? あ、アベルも来る予定だったんだけどね。予定合うかなあ……」

「いいえ! それはいけません! アベル様と行くのでしたら、どうぞ、お二人で!!」


 私が言った言葉に、カリナが凄い勢いで返してきた。

 カリナがこんな勢いよく喋るのは初めてだったので、私は目を丸くして驚いてしまった。


「あ、いえ。おすすめの甘味はまだまだありますので。今日はせっかくなので、お二人で行ってきてください」

「そう? じゃあ、そうしようかなぁ。あ、もし買って帰れるなら、カリナの分を買ってくるね」


「ありがとうございます。では、私は用事がありますのでこれで」

「うん。残念だけど、また今度ね」


 それにしてもカリナが来られないのは残念だ。

 そんなことを思ってふとエアを見たら、なんだか妙な顔付きでカリナの方を見ていた。



「えーっと、この店でいいのかな?」

「うん。多分。カリナに書いてもらった道通りに来たし、お店の見た目も名前も書いてある通りだし」


 カリナからもらったメモを頼りに、私とアベルは今回の目的のお店に到着した。

 今回のお菓子の名前は【クレムブリュレ】、どんなお菓子なのか楽しみだ。


「ひとまず入ろうか」


 そう言うと、アベルは扉を開け私を通してくれた。


「ありがとう」


 お礼を言って中に入る。

 店内は簡素な作りで、テーブルも全部で四つしかなかった。


「ひとまず、座ろう。ここでいいかな」

「うん」


 アベルに促されて、入口から一番奥にあるテーブルに座る。

 すると店員が近付いてきて、注文を聞いてきた。


 目的のお菓子の名前をアベルが告げると、店員は頷き奥に戻る。

 そのやりとりを私はじーっと眺めていた。


 今日のアベルの服装は、休みの日にもかかわらず、妙にしっかりしていた。

 そういえば、何か荷物が入っていそうな小さな袋も持っていた。


「どうしたの? そんなにじっと見て」


 私の視線を感じたのか、アベルが私に問いかけてきた。

 なんて答えればいいのか分からず、私は一瞬考えた結果、思った通りの言葉を言うことに決めた。


「なんか、今日のアベルはいつも以上に素敵だなって」

「え!?」


 私の言葉にアベルの頬が赤く染まる。

 よく考えたら、今の言葉は少し不適切だったかもしれない。


『あーあ。エリス。君ってほんとアレだねぇ……』

『うるさいなぁ。アレって何よ。アレって』


 エアに文句を返していたら、店員が戻ってきた。

 トレイに載せられたお皿を私とアベルの前に置いていく。


「それでは、ごゆっくりどうぞ」

「うん! ありがとう!!」


 店員にお礼を言って、私は目の前に置かれた【クレムブリュレ】に視線を注ぐ。

 白い陶器の器に入ったそれは、黄色と茶色のまだら模様をしていた。


「このスプーンですくって食べるんだね。あ、思ったより硬いのかな?」


 私は皿の上に一緒に添えられたスプーンで【クレムブリュレ】の表面をつつく。

 スプーンは中に入ることなく、美味しそうな音を立てる。


「いや、硬いのは上の部分だけみたいだよ」

「え? あ、ほんとだ」


 アベルが自分の皿の中を見せながら言う。

 スプーンで割られた上の部分は薄く、その中は黄色いクリームが入っていた。


「これは一緒に食べるのかな? じゃあ、食べてみようか」


 そう言うと、私はアベルと同じように上の硬い部分を割り、かけらにしたそれと下のクリームを一緒に口へ運ぶ。

 その瞬間、優しい甘さが口いっぱいに広がった。


「うわぁ……美味しい!」

「ああ。本当だ。美味いな。これ」


 アベルも口に入れた味に満足したらしい。

 間髪入れずに二口目を食べていた。


「ほんと美味しいねぇ。カリナも来られたら良かったんだけどね。残念だったなぁ」

「え? カリナが来る予定だったのか!?」


「うん。言ってなかったけど、本当は三人で来る予定だったんだ。でも、急に用事ができたって。あ、アベルなら用事があることは知ってるのかな?」

「あいつ……どうやって気づいたんだか……」


 アベルが何か独り言のように呟いた。

 何か変なことを言ってしまっただろうか?


「あれ? 私もしかして、変なこと言った?」

「いや、なんでもない。気にしないでくれ」


 そんなやりとりの後、私たちは楽しく話しながら、【クレムブリュレ】を楽しんだ。

 アベルの提案で、追加でハーブティまで堪能した。


「ふぅ……美味しかったぁ。楽しかったぁ。ねぇ、もしアベルが良かったら、時間が合う時だけでもいいから、またこうやって甘いもの食べに来ない? 今度はカリナもきっと来られると思うし」

「あ、ああ。そうだな」


 食べ終わった後、私が言った言葉に、なんだかアベルは上の空のようだ。

 顔がなんだかいつもより真剣な気もする。


「どうしたの? なんか心配事?」


 気になって私が声をかける。

 そんな私にアベルはすごく真面目な顔をして言った。


「エリス。大事な話があるんだ。聞いてくれ」

更新遅くなってすいません

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新作異世界恋愛書き始めましたヾ(●´∇`●)ノ

今世は立派な悪女(ワル)になる!〜良い子ではダメだと前世で悟ったので、強かに生きます

【良い子】でいようと頑張ったけれど、不幸な目に遭った女の子が、タイムリープして幸せを掴んでいくお話です。 良かったらこちらもよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
[良い点] カリナ、ナイス判断。よくぞ気づいた。アベル次からはもっと注意を払うのだ。 [気になる点] サルーンの魔の手。 [一言] 今後もちょくちょくデートするのだろうか? 鈍感系ヒロインは落とすのが…
2020/07/25 13:51 退会済み
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