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76話 責任重大

 翌日、一階から聞こえた悲鳴で目が覚めた。 親父がシャワーを浴びていたところを、またも楓は寝ぼけて素っ裸で突入したらしい。


 「お父様、素晴らしい体をしてるのね…… 」


 朝御飯の目玉焼きを突っつきながら、楓は真っ赤な顔で俺に呟く。


 「あれでも自衛官だからな、体作りは有事に備えてなんだと 」


 「アンタも少し見習ったら? お腹出てるんじゃないの?」


 「ほっとけ。 あんなにバキバキにはなれんわ 」


 水泳選手のような逆三角形の上半身に、くっきり割れた腹筋。 親父は優顔のくせに脱いだら凄い。


 「お父様にも迷惑かけちゃったね…… 」


 楓の箸が止まる。 親父は朝御飯を済ませるなり、楓の母親と保護者同士の話をしてくると早々に家を出ていったのだ。


 「そういうのが親の務めなんだと。 だから気にするな…… って言ってたぞ 」


 軽くフォローを入れてトーストにかじりつく。 なんだかんだで頼れる親父の事だ、どんな話をしてくるのか知らないけど、悪いようにはしないのだろう。


 「菜のはは? 」


 「昨日ちょっと遅くまで話してたから、まだ寝てるみたい 」


 昨日菜のはは、『楓と一緒に寝る』と早々に部屋に楓を連れ込んでいた。


 「寝相悪くなかったか? 」


 「ま、まあ…… 普通…… かな? 」


 苦笑いするところを見ると、しっかり洗礼を受けたらしい。


 「昨日話せなかったけどさ…… あの言葉の意味、教えてよ 」


 「あの言葉? 」


 「忘れたの!? 『付き合うとは言ってない』って! 」


 「ん…… ああ、言ったな 」


 「ちゃんと説明してよね。 モヤモヤしてるんだから 」


 恨みがましく俺を上目遣いで睨んでくる楓に、俺はため息を一つ。


 「…… 菜のはが一番だからだよ。 菜のはが幸せになれる相手ができるまで、俺は側にいると決めた。 っていうか、昔からそう決めてる。 俺が彼女を作るのはそれからだ。 菜のはには言うなよ? 」


 「…… シスコン。 ま、アンタらしいと言えばらしいんだけど 」


 そう言う割には楓は笑顔だった。


 「それじゃいつになるか分からないなぁ…… 」


 「うぇ? 」


 「フフ…… なんでもない 」


 楓は何を言うわけでもなく、旨そうに目玉焼きを頬張った。


 「それ、藍と紫苑にも話した方がいいよ? 不公平になっちゃうから 」


 「な、何が不公平なんだ? 」


 「それくらい分かれバカ! 」


 赤い顔をした楓にベーコンを取られてしまった。 分かってるよ、それくらい…… でも敢えてそれを言わなくても、紫苑や藍なら分かってくれているんじゃないかと俺は勝手に思ってる。


 「悪いな、俺はそんなに器用じゃないんだよ 」


 食べ終えた皿をキッチンに片付け、まだ食べ終わらない楓を放って俺は洗濯の準備を始めた。


 「あれ? 何か来てる 」


 洗濯機のスイッチを入れ、脱衣所でスマホのチェックをすると、藍と紫苑からメールが来ている事に気が付いた。


  午後からのやつ、楓も連れてくるつもりじゃないでしょうね? ま、アンタに任せるけど(怒)


 藍はなんで怒ってるんだ?


  午後からの集まりに楓も連れてきたらどうかな? せっかくの機会なんだから、皆に紹介するってことで(笑)


 紫苑は笑ってる。 真っ二つに割れたな…… うーん…… これは悩む。


 「あれ? お兄ちゃん、もう洗濯? 」


 あくびをしながら菜のはが脱衣所に入ってきた。 菜のはが俺のスマホを覗き込むと、ちょうど青葉からもメールが届く。


  昼からは菜のはちゃんは連れてくるんだよな? つーか連れてこい!


 「青葉君? 行かないよーだ! 私だってクラスの集まりにホイホイついていくほど空気読めない子じゃないんだから 」


 菜のははベェっと舌を出して、ちょっと怒りながらパジャマのボタンを外し始めた。


 「洗濯は私がやっておくからいいよ。 あ、お兄ちゃんも一緒にお風呂入る? 入っちゃう? 」


 上目遣いでチラチラとパジャマをはだけさせる菜のはに、いいから入ってこいとおでこを突っついて脱衣所を後にする。 うーん…… 手持無沙汰になってしまった。 掃除機をかけるか……




 掃除を済ませ、洗濯が終わる頃に戻ってきた親父から話を聞く。 楓の母親も親父が出てきた事で、落ち着いて話をしたようだった。 ソファに腰を下ろして一息ついた親父に、俺と楓は揃ってその話に耳を傾ける。 

 

 「君のお母さんも、ずっと寂しい思いをしていたようだ。 結果だけ先に言えば、楓さんはあちらの話が落ち着くまでウチで預かることになった 」


 「あちらの話? 」


 「ああ、うん…… 楓さんの前で話すのも少し気が引けるんだが 」


 チラッと楓の様子を見る親父に、楓は『構いません』と真剣な眼差しで答えていた。


 「君のお母さんは、君の父親と復縁を望んでいる訳ではないそうだ。 あくまで今後の生活の為…… 今の君の姿を父親に見せつけ、色々な問題に心を入れ替えさせたいと言っていた 」


 「あの…… 色々な問題って何ですか? 」


 「生々しい話になるが、親権…… 養育費…… 慰謝料…… まあ大人の事情ってやつだよ 」


 「それじゃ楓が道具みたいじゃねーか! そんなの許せねぇ! 」


 思わず親父に怒鳴ってしまった。


 「俺も同意見だ。 だから彼女を説得して楓さんを預かることにした。 楓さんがどのように生きているか見せるのも、他にいくらでもやりようはあるからな 」


 「アタシは、どうすればいいんでしょう? 」


 「ここで普通に生活すればいい。 普通に生活し、頑張って進級し、胸を張って高校を卒業する。 後の事は心配しなくていい 」


 そう言うと親父は楓に優しく微笑んだ。 うぇ? なんか楓の顔が赤い……


 「燈馬、お前の責任は重大だ。 途中で投げ出すなよ? 」


 「当り前だ。 見くびるなよ 」


 「ははは…… お前も言うようになったな。 昔は友梨にベッタリ泣きついて菜のはに慰められてたくらいなのにな 」


 「ばっ!? それは大昔の話だろうが! 」


 親父は逃げるようにリビングから出て行った。 すぐに『キャー』と菜のはの悲鳴が聞こえてきたのは、バカ親父が風呂に入ろうとしたんだろう。 なにやってんだか……


 「面白くてカッコいいお父様だね 」


 「どうだか。 でも約束を破ったことはないな…… って、なに顔赤くしてんだよ? 」


 「うん? アンタも大人になったらお父様みたいになるのかなって…… それより、小さい頃泣き虫だったとか菜のはちゃんに慰められてたとか! 聞かせてよ! 」


 素直に笑った顔が可愛いと思った。 けどガキの頃の話をするかは別問題だ!


 「言わねー! 絶対言わねー! 」


 「こら! 逃げんな! 」


 逃げようとソファから勢い良く腰を上げると、その瞬間に肩を腕を掴まれて引っ張られた。 うわバカ! 態勢を崩して楓を押し倒すように覆いかぶさってしまった。 キス出来そうなくらい間近に楓の顔がある……


 「…… 危ねぇだろ…… 」


 楓は驚いた表情で俺の目を見つめていたが、スッと首に腕を回して頭を引き寄せてきた。


 「おい…… 」


 「ありがと…… 大好き 」


 言葉と同時に楓はギュッと抱きしめてくる。 どう応えればいいのか分からないだろ…… 皆もいるんだぞ…… と思って視線を横に向けると、リビングの入り口から菜のはと親父が冷たい目線で覗き見ていた。



  


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