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75話 言えよ!

 待ってろと言ったはいいが、肝心のどこのコンビニなのかを聞いていなかった。 が、楓の仮住まいのアパートならば、星院東の近くの青い看板のあそこだろう。 汗だくになりながら走り続け、角を曲がると、店舗の明かりに照らされた楓が公衆電話の横に座っているのが見えた。 二人組の男にナンパされていて、無表情で断っている。


 「悪い! 待たせた! 」


 「なんだ、ホントに男待ちかよ 」


 二人組は俺の顔を見ると、興ざめしたように立ち去っていく。


 「…… 来なくていいって言ったじゃない…… 」


 「じゃあなんで待ってるんだよ? 」


 「だって…… アンタ言い出したらきかないから 」


 そう言う楓は怒っている様子はなく、少し拗ねているように見えた。 向かい合った俺達はしばらく無言…… 先に口を開いたのは楓だった。


 「アタシ、お母さんについて行くよ 」


 「ヤダ。 お前はあの時離れたくないって言った 」


 ヤダというセリフに面食らった楓は、しどろもどろしながらも反抗してくる。


 「ヤダって何? だってもう退学するって学校に…… 」


 「知らね。 生徒会長の俺はそんなの聞いてない 」


 「アンタね…… 生徒会長だからって学校はアンタの私物じゃないでしょ? 」


 「蒼仁先輩は私物化してた。 俺も見習う 」


 呆気に取られていた楓は、目に涙をうっすら滲ませてクスクスと笑い始めた。


 「なんなのよ…… ホントにどうにかしちゃいそうで怖いわ 」


 「だからなんとかしてやるって言ってるだろ。 お前は諦めるのかよ? 」


 「諦めなきゃならないでしょ? だって…… 」


 「諦めんなよ! 死んだって告白を諦めなかっただろうが! 」


 「死んでないわよ! アタシ一人の問題じゃないのよ!? 」


 「関係ねぇよ! お前はどうしたいんだよ? 言えよ! 」


  パァン


 キッと俺を睨めつけた楓は、フルスイングで俺の頬を平手打ちした。 筋力戻ってきてるからメッチャ痛ぇ!! けど、よろけながらも堪えて楓に向き合った。


 「行きたくないわよ! アンタの側にいたいのよ! なんとかしてやるって言うならなんとかしてみせてよ!! 」


 ボロボロ涙を溢しながら、楓は周りの目も気にせず叫んだ。


 「おう、なんとかしてやる。 だから泣くな。 母親に負けんな 」


 「うぅ…… 負けんなって…… 」


 「もう一人じゃないんだ、俺はお前のヒーローなんだろ? 」


 「…… カッコいいじゃない。 わざとアタシに殴られて、バッカじゃないの? 」


 楓は鼻をズズッとすすりながら、平手打ちした俺の頬にそっと手を添えた。 正直痛くて触って欲しくないけど、ここは我慢だ。


 「元気出たろ? 多少文句言う方がお前らしくて好きだ 」


 「…… もうアタシを好きだって聞いたからね。 後悔しても知らないわよ? 」


 「つ、付き合うとは言ってないからな! 勘違いするなよ? 」


 目を見開いて絶句している楓の、頬に伝っていた涙を指先で拭ってやる。


 「はぁ!? 何よその寸止めみたいなの! 信じらんない! 」


 「あ、後でちゃんと話すから! とにかくお前んちに行くぞ! 」


 「どうしてそうなるのよ!? 嫌よ! お母さんの顔は見たくない! 」


 嫌がって暴れる楓を無理矢理背負い、松葉杖を拾い上げた。 『降ろして!』としばらくバタバタしていた楓だったけど、疲れたのか観念したのか、急に大人しくなる。


 「お前は俺の家に連れていく。 お母さんにもそう言っておかないと心配するだろ? 誘拐犯にされても嫌だからな 」


 「そんなの、お母さんが認めるワケないじゃない…… 」


 「認めるんじゃない、言いに行くだけだ 」


 楓はそれっきり無言になった。 足は少しガクガクし始めていたが、俺は黙々と仮住まいのアパートを目指す。 アパートの、玄関付近でオロオロしている母親と目があった。


 「楓! 」


 俺達を見つけるなり、母親は走り寄ってきて俺を困惑した顔で見つめた。


 「ありがとう、連れ戻してくれて 」


 「連れ戻したんじゃありません、俺の家に連れて帰ります。 いいですね? 」


 母親は俺を睨み、背負われたままの楓を悲痛な目で見やる。


 「アタシがそうしたいの。 いいよね? 」


 「…… ちゃんと帰ってきなさいよ? 」


 そう言うと母親は、トボトボとアパートの階段を上っていった。 ドアを開けるまで見送り、俺も自宅に向けて足を踏み出した。


 「…… 降ろして、橙馬。 自分で歩きたい 」


 背中から降りた楓は、松葉杖を受け取らずにゆっくりと歩き出す。 時折涙を拭く素振りを見せる楓に、俺は並んで歩くことはせず、後ろからその小さな背中を見守るように歩いた。


 「何してるのよ? もう大丈夫だからちゃんと横歩きなさいよ! 」


 「へいへい 」


 一人で前を歩いていた楓が、何を思って泣いていたのかは俺には分からない。 でも振り返って文句を言った楓は、何かを吹っ切ったように笑顔になっていた。 強い奴だな…… こいつ。


 「もう少し、速く歩いてもいいよ。 菜のはちゃん待ってるでしょ? 」


 そう言って楓は俺のジャケットの裾を掴む。


 「そうだな、もしかしたら玄関先に出てじっとこっちを見てるかもな 」


 俺の家までの道のりはまだ遠い。 けど、楓は松葉杖を使おうとはせずに自分の足で歩き続けた。


 「お兄ちゃーん! 楓さーん! 」


 家の前の街灯の下、菜のはが俺達を見つけて大きく手を振っていた。 その横には作務衣姿の親父までいる。


 「楓さん! おかえりなさい! 」


 胸に飛び込んできた菜のはを支えきれず、後ろに倒れそうになる楓を支えてやる。


 「…… ただいま、菜のはちゃん 」


 少し涙ぐみながら、楓は笑顔で菜のはの頭を撫でていた。


 「可愛い娘じゃないか。 お前も隅におけないな 」


 「おおお父様!? は、初めまして! 」


 お父様(・・・)はないだろうよ…… 軽く笑ってやると、みぞおちに肘を食らいました。 菜のはに手を引かれて、楓は先に家に入っていく。


 「ごめん親父、これから面倒をかけるかもしれない 」


 大人の事情というものがあることくらい俺にだって分かる。 保護者同士での問題も色々と出てくるだろう。


 「間違ったことはしていないんだろう? なら気にするな。 その為に俺がいる 」


 ポンと俺の肩を叩いて、親父も家の中へと入っていった。 もう頭を撫でなくなったのは、俺を一人の男として見るようになったからなんだろうか…… そんな事を考えながら、俺も親父の後に続いて玄関をくぐった。


   



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