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74話 俺はどうしたい?

 「他所様の家庭をじっくり覗いた事はないが…… 」


 親父はビールを片手に、アルコールで少し顔を赤くしながらも真剣に答えてくれた。


 「親になりきれない大人など腐るほどいるもんだ。 俺も含めてな 」


 「親父は、少なくても俺は親だと思ってるけど。 さっき言った自分勝手な親とは違うだろ 」


 「そうか、それは嬉しい事だな。 だが橙馬、お前はどういう大人が親だと思うんだ? 」


 え…… と。 子供の面倒を見て、子供の…… そう言われると考えたことはなかった。


 「これが親の見本だというのはないし、誰も親というものを教えてくれない。 育てる義務はあるが、子供同様に親も一緒に成長して親になっていくものだ 」


 妙に説得力のある言葉に、俺はただ親父を見つめることしか出来なかった。


 「その友達の親御さんは、失敗も成功もなく言われた事だけをやって来たんじゃないか? 愛情はあったんだろうが、本人は幸せではなかったのかもな 」


 「そんなの、子供が悪い訳じゃないだろ…… 」


 「だが、親御さんの気持ちも分からなくはない。 娘を一人この街に置いて行って、万が一何かあったらどうする? 」


 だからって子供を振り回していい筈がない。 楓はここに残りたいと泣いていた。 それは子供のワガママで、親の事情に付き合わなければならないんだろうか…… 必死な思いをしてこの世に戻ってきて、頑張って編入までして。 アイツの努力は報われるのか?


 「話を戻そうか。 お前はどうしたい? 」


 「俺は、楓に星院東を卒業させてやりたい。 せっかくできた友達と離れさせたくない 」


 「ハハ…… 親みたいな事を言うんだな 」


 「茶化すなよ、俺は本気で言ってる 」


 「そうか、悪かった。 それだけか? 」


 それだけ? それだけ…… どういう意味で親父がそういうのか分からないけど。


 「楓がここに残りたいと泣いたんだ。 俺はそれを助けたい 」


 「なら、何が何でも食い下がれ。 何があってもその子を守り通せ。 それが男ってもんだ 」


 親父はニカっと笑うと、二本目のビールに手を付けた。 それが男だ…… って、なんか勘違いしてるんじゃないのか?


 「べ、別にアイツが好きってワケじゃないからな!? ただアイツの気持ちを…… 」


 「照れるな。 俺も友梨(ゆり)とそんな恋愛をしたもんだ 」


 へぇ、母さんと…… って、そこに感心してる場合じゃない!


 「ばっ!? 違うって言ってんだろ! 俺の一番は菜のはだ! 」


 「菜のはは許さんぞ! この子は俺の大事なだいーじな娘だ! 誰にも渡さん! 」


 ダンとテーブルを叩いて親父は本気で怒鳴る。 すぐに菜のはが俺の横に飛んできて腕にしがみつき、親父を睨め付けた。


 「私はお兄ちゃんが一番だもん! 」


 眉も口元も崩れそうなくらい下がって悲痛な顔になる親父は、『菜のはー!』と泣きそうになっていた。 酔ってるな…… 呆れて冷たい目線を向けていると、フッと親父は柔らかく微笑んだ。


 「まあ…… お前の信じる道を進んでみなさい。 そのかわり、中途半端なことはするなよ? 」


 「…… 自分で言っててなんだけど、かなり無茶を言ってると思うんだが。 ずいぶん信用されてるんだな 」


 「当り前だ。 でなければお前に留守中を任せていない 」


 気持ち良く笑った親父は二本目のビールを一気に開けていた。


 「お兄ちゃん 」


 俺の腕を揺すってきた菜のはを見ると、菜のはも嬉しそうに笑顔で俺を見下ろしていた。 俺の本当の気持ちは、菜のはのこの笑顔を守りたいんじゃないのか…… そんな気がしてくる。


 「菜のはー、背中流してくれー 」


 親父はスキップしながらリビングを出ていく。 『やだよー!』と言いながらも、菜のはは足取り重く親父の後に続いていった。


 「なにが『背中流してくれー』だよ。 親バカもいいところじゃねーか……  」


 俺は少し冷めてしまった夕食に手を付ける。 あんな親だからこんな息子…… 俺のシスコンは親父譲りかと思うと、なんだか可笑しくて笑ってしまった。 とりあえず親の許可は出たのだから、後は頑張って楓の母親を説得してみようと心に決めた。




 明日は午後からクラス皆との約束がある。 夕食後自分の部屋に戻り、午前中に楓の母親ともう一度話をしようと電話を掛けてみたが、『もう話すことはない』と一方的に切られてしまった。 それでも再度掛け直すと、今度は電話に出ず、挙句の果てに着信拒否を食らってしまった。


 「くそ…… こうなったら明日、アパートに突撃してやる 」


 相手の迷惑なんて知った事か! 呆れてもうどうでもよくなるくらい食い下がってやる。 と、ベッドに横になった時だった。 スマホに着信が入った。 表示を見ると公衆電話からだ。 今時、今時間に公衆電話からって……


 「…… はい 」


 ー 楓…… です。 よかった、ちゃんと出てくれた ー


 恐る恐る出てみると、ホッとした声の楓の声がスピーカーから聞こえてきた。


 「公衆電話って、お前今外にいるのかよ? 」


 ー アンタが慌ててどうするのよ? 大丈夫、近所のコンビニにある公衆電話だから ー


 とりあえずホッと胸を撫で下ろす。


 「どうしたんだよ? ワザワザ電話してくるなんて 」


 ー お母さん、着信拒否しちゃったから。 飛び出して来ちゃった ー


 「戻れよ。 明日の朝、迎えに行くから 」 


 ー 無理だよ…… アンタが帰った後も説得しようとしたけど、全然聞いてくれない。 もう学校にも退学の連絡したって ー


 楓の声が暗くなり、鼻をすする音が聞こえる。


 「心配すんな、必ず助けてやる 」


 ー ううん、その為に電話したんじゃないんだ…… ー


 次に出てくる言葉は予想がついた。


 「サヨナラなんて言わせねぇからな! ちょっとそこで待ってろ、今行くから 」


 ー い、いいよ! 菜のはちゃんを一人にしていいの!? ー


 「親父が帰ってきてるからいいんだよ! とにかくそこで待ってろ! 」


 ー か、帰るから! 来ても意味ないからね! ー


 楓の言葉を最後まで聞かず、俺は通話を切った。 ジャケットと財布だけを持って、勢い良くドアを開ける。


 「痛っ!! 」


 内開きののドアと一緒に倒れてきたのは菜のはだった。 どうやらドアの外で聞き耳を立てていたらしい。


 「菜のは…… 」


 「エヘヘ…… 楓さん迎えに行くんでしょ? 」


 「連れて来るかどうかはわからんけど…… 行ってくる! 」


 菜のはは俺を見上げながら、強気な顔で拳を突き出してきた。


 「頑張ってね! 任務失敗は許さないからね! 」


 その拳に俺も拳を当て、勢い良く階段を下りようとして最後の一段を踏み外す。


 「あたた…… 」


 「お兄ちゃんカッコわるーい 」


 何を言われても平気な妹の前だったけど、これは流石に恥ずかしくなって、俺はスゴスゴと玄関を出るのだった。


  



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