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68話 一夜明けて

 翌朝、楓は学校を休んでお母さんが先に行っているという自宅へと戻っていった。 大きな荷物はとりあえずそのままで、後で取りに来ると言う。


 「よう橙馬、あれ…… 今日はお姫様は一緒じゃないのか? 」


 「お姫様って菜のはの事か? 」


 「つれないなぁ、楓ちゃんだよ。 一つ屋根の下で暮らしてるんだろ? いいなぁ…… 」


 すっかり楓ファンになったんだなこいつは。


 「誤解を招くような言い方はやめろ。 今日は朝から自宅の後処理に行ってるぞ 」


 昨日の楓のキスの感覚が今でも唇に残ってるような気がする。 好きだとは口では言わず、重ねた唇は少し震えていた。 あの後楓は結局逃げるように部屋に戻ってしまい、朝起きた後も自宅に戻って手続きしてくると少し話をしただけ。 あの震えていた意味は一体……


 「おい橙馬! 」


 「うぇ? あだっ! 」


 電柱と抱き合ってしまった。 歩きながらの考え事はするもんじゃない……




 「おはよ、橙馬! 」


 「いだっ! 少しは手加減しろ! 」


 生徒玄関前で追い付いてきた藍が俺の背中を思いっきり叩く。 ケラケラと笑う藍はいつものように接しているつもりだったのだろうが、なんとなくぎこちないのがわかってしまう。


 「おはよう、橙馬君 」


 ニコッと挨拶をしてくる紫苑もまた、なんとなくだけど緊張しているように見えた。 背中を擦りながらいつものように挨拶を返すと、二人もホッとしたように笑ってくれた。


 「「楓は? 」」


 ハモる事もないだろうに…… でも二人も楓の事が気になるらしい。 自宅に行ったと伝えると、藍にじっと下から覗き込まれる。


 「な、なんだよ? 」


 「別にぃ 」


 藍はツンとそっぽを向き、紫苑の手を引いて階段を上って行った。


 「どした? なんかあったのかお前ら 」


 「なんもねぇよ、いつもの事じゃないか…… ハハ…… 」


 勘弁してくれ…… お前のキスも泣き顔も鮮明に覚えてるんだぞ。




 昼休みに入ってすぐに、楓からの連絡がスマホに入った。 お母さんの検査も無事終わり、仮住まいも学校近くのアパートに決まったと言う。 手続きと引っ越し準備があるから明日も登校出来るか分からないと、残念そうな声に少し安心した。


 「橙馬、少し話をしたい 」


 改まった口調の遠藤が俺の前の席の椅子を引いて座る。 後ろに立つ伊藤も、あまりいい顔はしていなかった。


 「この顔に見覚えはあるか? 」


 遠藤が見せてきたのは、ボコボコに殴られてあちこち腫れあがっている坊主頭の男の写メ。


 「こいつ…… ひでぇな、原型留めてないじゃねーか 」


 「原型などどうでもいい。 あるのか? ないのか? 」


 「ある。 俺と紫苑を追いかけてきて、顔から地面にダイブした奴だ。 どうしたんだ? こいつ 」


 「昨日の夜、みどりさんをナンパしてきた複数の男のうちの1人だそうだ。 じゃあこいつもだな? 」


 画面をスライドさせて見せてくれた男達は、どいつもボコボコにされた状態だった。


 「おいおい、これ暴力事件にならないのか? 」


 「正当防衛だそうだ。 会話は全て録音してあると言うから心配あるまい。 それより、この三人で全部か? 」


 いや、ロン毛と茶髪が足りない。 その事を遠藤に言うと、遠藤はすぐに吹石先輩にメールを打ち始めた。


 「みどり先輩が1人でやっつけちゃったんだって。 二ノ宮先輩が路地裏に駆け付けた時には、全員土下座で謝ってたらしいよ 」


 「はぁ!? 嘘だろうよ? あの人のボディーガードとか執事さんとかじゃないのか? 」


 「あり得るわよ、みどり先輩なら。 だってあの人、薙刀持たせたら無茶苦茶強いもん 」


 俺の肩に乗っかるように藍が口を挟んできた。


 「腕前は確か五段だけど、審査会が面倒で受けてないって話。 噂では錬士とか範士とも言われてる位強いんだって。 その他に合気道とか…… 二ノ宮先輩に教えたのもみどり先輩じゃなかったかな 」


 ああ、蒼仁先輩が心配無用と言うわけだ。


 「それじゃ、ナンパ事件はとりあえず解決ってことでいいのか? 」


 「お前の言う二人が気になるが、グループ自体は壊滅したと思っていいだろう。 お疲れ 」


 いや、俺が何をしたと言う訳じゃなかったけど。


 「じゃあもう商店街に行っても大丈夫ってこと? ウチちょっと小物欲しいんだ 」


 藍は俺の頭を挟んで無理矢理振り向かせようとしてきた。 ここで目を合わせたら絶対荷物持ちになる! グギギギ…… 精一杯踏ん張って抵抗していると、紫苑まで寄ってきて俺の頬を両手で掴んできた。


 「ふ、二人がかりとは卑怯な! 」


 「観念しろ! アンタの荷物持ちは確定なのよ! 」


 「そうそう! 息抜きは必要だよ橙馬君! 」


 二人の力には抗えず、次の週末に商店街へ買い物に行く…… いや、付き合わされる羽目になってしまった。


 「なになに? 菜のはちゃんも来るって? 」


 唐突に保木が俺の頭を鷲掴みにしてきた。 さすが身長があるだけあって、上から押さえ付ける力も強い。


 「俺も行くぞー! 」


 「藍さんが行くなら俺も行く! 」


 青葉と阿笠までが参戦してくる。 赤西も俺と紫苑を見比べて行きたそうな顔をしていた。


 「両手に花だな、貝塚 」


 「花どころか木や雑草まで生えてるぞ! 」


 「誰が木よ! 」


 「雑草はお前だ! 」


いつの間にかクラス中を巻き込んでの大騒ぎになってしまった。 来週からテストだと言うのに、皆は大丈夫なんだろうか。 あれをしたいだの、ここに行きたいだの収拾がつかなくなり、みんなの視線が一気に俺に集まる。


 「ほら、まとめなさいよ生徒会長 」


 「マジかよ…… んじゃ今週の土曜日、午後1時に駅前集合でいいか? 」


 割れんばかりの歓声が溢れる。 星院祭以来、ウチのクラスの団結力は半端ない。 テスト前ということもあり、あまり長居はしないよう皆に言うと、大ブーイングが襲って来るのだった。





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