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67話 様子がおかしい?

 停電は報道されていたより早く復旧し、昼過ぎには一部を除いて電力が戻っていた。 折角なのでと非常食で昼食を済ませ、藍と紫苑は親が心配するからとそれぞれの自宅へと帰っていった。


 「やれやれ…… 」


 発電機やコードリール、紫苑達が使った布団を一通り片付けてソファで休む。 結局俺が寝ていた時間は一時間位だったけど、藍のマッサージでなんとなく体は軽かった。


 「お兄ちゃん、晩御飯何にする? 」


 なんだかんだでもう夕暮れ。 明日は学校が再開するから少し早めに休みたい。


 「簡単な物にするか。 レトルトのカレーが期限ギリギリじゃなかったか? 」


 「えー! またカレー? 」


 口を尖らせて文句を言っていた菜のはは何かを閃いたようで、キッチンの非常食を入れてある棚を漁り始めた。


 「私作るね。 ド・リ・ア、ド・リ・アー! 」


 鼻歌混じりに菜のははレトルト食品のパックを吟味している。


 「アタシも手伝うよ 」


 「んー? 楓さんも休んでて! お風呂入ってきちゃったらどうです? 」


 窮地をくぐり抜けた仲、みたいな感じなんだろうか? 菜のはと楓は、なんとなくぎこちなさがなくなったような気がする。


 「それじゃ橙馬、ちょっと手伝ってくれる? 」


 「うぇ? 手伝えって…… 風呂の介助か? 」


 「違うわよ変態! ストレッチ! リハビリは続けなきゃならないんだから! 」


 楓だけでなく菜のはにまで白い目で見られてしまった。 早速リビングに両足を大きく開いて座る楓は、背中を押せと指で俺を呼ぶ。


 「まだ本調子じゃないからゆっくり押してよ? 」


 片足ずつ体を倒していく楓は、少し手伝ってやっただけで膝におでこが付く。


 「おわっ! 柔らかっ! 」


 「びっくりしたでしょ。 私も昨日寝る前に手伝ったけど、バレリーナみたいな柔らかさだよね 」


 片足ずつを何回か繰り返した後、楓は続けて床に足を開いたまま体を伏せる。 おお! もう少しで頭が床に付くぞ!


 「凝り固まっちゃったら変な癖付いちゃうから。 歩き方変になっちゃうのよ 」


 そう言えばこいつ…… しっとりと汗ばんできた背中を押しながら、菜のはには聞こえない小声で楓に苦情を入れた。


 「リハビリって言っただろお前! 何考えて…… 」


 「大丈夫、後でちゃんと説明するから 」


 なにくわぬ顔でストレッチを続ける楓を睨み付け、横目で菜のはの様子を見る。 菜のははリハビリと聞いても気にすることなく、パックの白米を電子レンジで温めていた。 10分程ストレッチをして楓は汗を流しに行き、暇になった俺はキッチンを覗く。


 「いいから座っててよお兄ちゃん! 」


 菜のはに軽く怒られてソファに引き返す。 なんだ? 朝の藍の告白といい、昨夜の肩を寄せてきた紫苑といい、皆の様子がなんだかおかしいのが気になった。 



 「アンタは座ってなさいよ 」


 夕飯を済ませ、洗い物をしようとすると楓にその仕事を奪われた。 菜のはは風呂に行き、なんとなく手持ち無沙汰になってボケーッとテレビを眺める。 チラッと楓を見ると鼻歌交じりに皿を洗っている。 レトルトのクリームシチューをホワイトソース代わりに白米と混ぜ、その上にカレーとスライスチーズを乗せてオーブンで焼いたカレードリアが余程気に入ったんだろうか。


 「まあ、いいんだけど…… 」

 

 菜のはは風呂に行き、俺はテレビのリモコンを持ってあまり面白くない番組をポチポチと切り替える。 満腹にもなってウトウトし、気が付けば楓が隣に座っていた。


 「はい、ここ! 」


 楓は俺の顔をじっと見て、自分の膝をポンポンと叩いている。


 「…… は? 」


 「は? じゃないわよ。 ほら、早く 」


 楓は俺の頭を強引に引き寄せて膝の上に置いた。 ミニスカートで剥き出しになった楓の太ももが直に頬に当たる。 なんだこれ…… 膝枕?


 「ちょちょっ! なんだこれ!? 」


 「動かないでよくすぐったい! 耳かきしてあげるって言ってるのよ! 」


 待て待て待て! 膝枕で耳かきってあり得んぞ!? 楓を見ると潤んだ瞳で顔を真っ赤にし、既に耳かき棒と綿棒を手にしていた。


 「は、恥ずかしいからガン見しないでよ! 」


 「恥ずかしいならしなきゃいいだろ! ミニスカートとか生足とか、正気か? 」


 「生足とか言うな! それは失敗したと思ってるんだから 」


 夢か? 朝からこれは夢だよな?


 「藍に告白されたんでしょ? その…… 断られたって笑ってたけど 」


 「なんだよ…… 聞いてんのかよ 」


 耳かきはこいつなりのフォローのつもりなんだな。 プスッといきなり耳に入ってきた綿棒にびっくりしたけど、大人しくしてないとこっちが危なそうだった。


 「入れるなら先に言え! びっくりするだろ 」


 「ゴメン、人に耳かきするのって初めてだから 」


 「いやいやいや! ちょっと待て! 」


 身の危険を感じて起き上がろうとすると、腕と胸で押さえつけられてしまった。


 「危ないって! 動かないでって言ってるでしょ! 」


 あら…… 意外と大きいんですね…… 


 「大丈夫だって! 痛かったら手を挙げて下さいねー 」


 それは歯医者だろ…… ともかく、今は大人しくしてるしかない。 片耳終わったら止めさせよう……


 「どう? 痛くない? 」


 カリカリとかさぶたのような耳垢に耳かき棒が引っかかり、耳の奥を撫でられる感覚がむず痒いような気持ちいいような。


 「うん…… 気持ちいい…… 」


 「よかった 」


 しばらく無言で掻き続ける楓は、大きな塊が取れる度に嬉しそうなため息を漏らしていた。 やべぇ…… 思ってたより上手くて気持ちいい。 覗き込んでいる楓の吐息が耳にかかって、柔らかい太ももが…… って変態だ俺……


 「菜のはちゃんには、交通事故で入院してた事にしてあるから 」


 「ふぇ? 」


 気持ち良くてボケっとしていたところに、楓は耳かきを続けながら囁いてきた。


 「さっきの話! 嘘ではないし、幽体だった事は伏せてあるから心配ないから 」


 「そっか、気を遣わせて悪いな 」


 「ううん、アンタが菜のはちゃんを守りたいって思うのが分かるかも。 可愛いもん 」


 だろ? と答えてやると、『シスコン』と遠慮なくツッコまれた。


 「でも菜のはちゃん言ってたよ? 自分のせいでお兄ちゃんはいっぱい我慢してるって 」


 「うぇ? 」


 「こら、動かない! もうちょっとだから大人しくしてて 」


 菜のはがそんな風に思ってるなんて考えもしなかった。 それが菜のはにとって重荷になってなければいいんだけど……


 「はい、終わり。 反対向いて 」


 少し悩んだけど、思いの他気持ち良くて大人しく反対側の耳を差し出す。 あ…… こっち側を向いたら……


 「目は閉じてろ! 開けたら鼓膜ぶっ刺すからそのつもりで! 」


 はい、言う通りにします……


 「はぁ…… まぁアンタには散々見られてるから別にもういいんだけどさ。 パンツなんて見慣れてるんでしょ? 変態お兄ちゃん(・・・・・・・) 」


 なんとでも言ってくれ…… 眠気と心地良さにどうでもよくなってきた。


 「アンタはさ…… やっぱり紫苑が好きなの? 」


 「あぁ…… 好きだわ…… 」


 またその話題か。 お前まで告白してくるつもりか? もう眠くてまともな返事はできないぞ……


 「そっか。 残念…… 」


 蒼仁先輩一筋な奴が何を残念がるんだか。 薄目を開けて楓の顔を見ようとすると、フーッと耳に息を吹き掛けられた。


 「うふぁは!? 」


 ゾクゾクと寒気に震えると、楓はクスクス笑い出す。


 「何すんだよ! 」


 「カスを飛ばしただけよ。 あ、スマホ鳴ってる 」


 テーブルの上に置いてあったスマホを手に取ると、楓のお母さんからの着信。 そのまま楓に手渡すと、楓は一瞬躊躇して通話ボタンをタップした。


 「…… お母さん? うん、楓。 うん…… 」


 楓の膝から頭を起こそうとすると、楓にこめかみを押さえ付けられた。 なんだよ…… そのまま楓の様子を見ていると、頷く度にトーンが落ちていく。


 「保険屋さんから連絡来たって。 明日の朝、お母さんの所に行ってくる 」


 「そっか、良かったな。 それで、この手はなんだ? 」


 連絡があったのは喜ぶところじゃないのか? なんだか楓の表情はパッとしない。


 「仕上げ残ってる! ほら、目を瞑って 」


 綿棒を構える楓に、ため息を一つついて大人しく言う通りにすると、グリっと上を向かされて唐突に唇に温かい感触が触れたのだった。 





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