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66話 告白

 発電機からコードリールで電気を引っ張り、なんとか冷蔵庫の電源は確保したものの、発電機の容量が思ったほど大きくなくて、他の家電を接続すると発電機が止まってしまった。 仕方なく一旦冷蔵庫のコンセントプラグを抜いてテレビを起動させると、停電地区の詳細がテロップで流れていた。


 「送電線トラブルかよ…… 復旧は早くても今夜、か 」


 全員がリビングに集まり、交互にスマホの充電をしながら今後の予定を話し合う。


 「ウチと紫苑はお互いの家に泊まってる事になってるから、バスが動かないと帰っちゃマズイんだよね 」


 「私も、迷惑にならないよう居させて貰いなさいって言われてるし 」


 「ならゆっくりしていけよ。 冷蔵庫の中身はとりあえず無事だし、足りなければ非常食もある 」


 へぇ、と全員が感心していたけど、菜のは…… お前は感心するところじゃないぞ?


 「準備いいのね。 なんか見直しちゃった 」


 「親父が自衛官だからな、その辺はうるさいんだよ 」


 断水はしていないから水の心配はないし、冷蔵庫だけでも動かせる電力を確保出来たのは親父に感謝だ。


 「お前のお母さんの方は大丈夫なのかよ? 」


 この停電中に楓を放り出すつもりはないけど、保険会社からの連絡も未だにないし、いつまでも居座られるのは正直困る。 


 「うん…… 聞いてみる 」


 楓に俺のスマホを渡すと、楓はリビングの隅に座り込んで母親に電話をかけていた。 その表情を見る限り、あまり良い返事は聞けていないらしい。 


 「痛てっ! 」


 藍に背中を小突かれた。 なにやらムスッとしているけど、俺なんかしたか?


 「少し寝てきなさいよ。 後はウチらが引き受けるから 」


 「うぇ? だって…… 」


 「だっても何もないよ? 燈馬君青い顔してるし 」


 藍達には話していないらしいけど、紫苑は夜中に俺を起こしたことを悔やんでいる様子。 ちなみに、トイレは手動でも流せることを説明しておいた。


 「そうだよお兄ちゃん! 家の事なら私に任せなさい! 」


 菜のはに無理矢理背中を押されて、俺は自分の部屋に押し込められる。 あまり意識はしていなかったけど、ベッドに横になるととても体が重かった。 少し自分じゃない匂いのする枕に頭を預けると、次第に睡魔が襲ってくる。 ここ数日は、ゆっくりした時間がなかったかもしれない…… ちょっとだけ寝るか……



 

 「んあ? 」


 人の気配を感じて目を開けると、目の前にはショートパンツから生える生足があった。


 「あ! ゴメン、起こしちゃったね…… 」


 俺の枕元に座って見下ろす藍は困った顔で微笑んでいた。 頭が気持ちいいと思ってたのは、こいつが撫でていたからか……


 「どうしたんだよ? しおらしい事して 」


 「うーん…… 母性本能ってやつ? 大口開けて寝てたからつい構いたくなった 」


 藍はベッドから腰を上げると、俺を無理矢理うつ伏せに転がす。


 「な、なんだ? 」


 「マッサージしてあげるから力抜け! ほら! 」


 そう言うと藍は俺の太ももの上に跨ってきた。 背中に親指を当て、ググっと押し込んでくる。


 「お…… ほあぁ…… 」


 程よい力でピンポイントに背中の筋肉を押してきて、思わず声が出てしまう。


 「ハハハ…… 情けない声! どう? 気持ちいいでしょ 」


 「最…… 高…… 上手いなお前 」


 「これでもアスリートだからね。 凝ってる筋肉は分かるのだよ 」


 少し息を弾ませながら藍は背中を満遍なく揉みほぐしてくれる。 ヤベェ…… とろけそうだ…… しばらく藍に任せていると、今度は腰に乗っかってきて肩を揉み始めた。 普段泊まりに来たってこんな事しないのに……


 「ホントどうしたんだよ? 」


 「ん…… アンタが好きだからに決まってるでしょ 」


 軽く言ってくる藍は、少し強めに肩を揉んできた。


 「お、おう…… ありがとよぅ…… あだだだっ! 」


 いつもの事かと思って軽く流すと、ギュッと痛いポイントをグリグリされた。

 

 「流さないでちゃんと聞け! これでも本気の告白なんだから 」


 は? なんだ唐突に!


 「いい機会だからさ、ウチも言っておこうかなって 」


 「いや、意味が分かんねぇよ 」


 振り向こうとすると、『こっち見んな』と頭を鷲掴みにされてしまった。


 「アンタが悪いんだからね! ウチの事好きって言うから…… 紫苑とうまくいくようにって、素直に応援出来なくなったじゃん! 」


 え? えぇ? 


 「ウチと付き合ってよ。 彼女にしてくれたら嬉しいな…… 」


 完全に予想外だった。 確かにそれらしい素振りはちょっと見たような気はしてたけど、『友達として』と言っていたからそうなんだと思ってた。


 「ゴメン…… 」


 としか言えなかった。 藍は一瞬手を止めたが、『だよね』と自分を納得させるように言って再び俺の肩を揉み始める。


 「分かってたんだけどね、言わずにいられなかったんだ 」


 藍の声は思ったより明るい。 無理に明るく振舞っている様子もなかった。


 「い…… いつから? 」


 恐る恐る振り返ると、やはり頭を鷲掴みにされて枕に押し付けられる。


 「多分、最初からだったような気がするなぁ。 合格発表を一緒に喜んだ時から 」


 「…… そんな素振り全然見せなかったじゃないか 」


 「当たり前じゃん! ウチだって最近まで気が付かなかったし、紫苑が好きだって聞いたら言えないし! これでも奥手なんだからね! 」


 知らなかった…… 俺、そこまで鈍感なのか……


 「あー、すっきりした。 あ、だからって友達辞める気はないからね? 今まで通りちゃんとウチと向き合うこと! いい? 」


 「お…… おぅ…… 」


 そんなのは無理だ。 絶対に意識してしまう……


 「それと、アンタの彼女は紫苑以外ウチは認めないからね。 わかった? 」


 「…… それ、どういう意味だよ? 」


 「アンタ、楓に惹かれてるでしょ? 『アホかー!』とは言わせないからね! 」


 釘を刺されてしまった。 惹かれてるというか…… 気になる? 放っておけない? ひょっとしてそうなのか?


 「見てたら分かるのよ、ウチをナメんな 」


 「いや、楓は別として! 俺は紫苑にフラれた身だぞ? 」


 「一回フラれたくらいで諦めるの? アンタの好きってそんなもん? 」


 「そんなことあるか! でもフラれたダメージってデカ…… 」


 いや、これは言っちゃいけない。 俺は今藍をフッたばかりだ。


 「悪い…… 」


 「はぁ…… ウチの心配するなら自分の心配しなさいよ。 ほら、こっち向いて 」


 はあ? こっち向けって言われたってお前が背中に乗ってるんじゃねぇか。


 「!? 」


 なんとか反転したと同時に藍の唇が重なった。 


 「ウチの紫苑が好きな気持ちもアンタに全部あげるから…… 頑張って幸せになってよ 」


 そう言ってまた唇を重ねてきた藍は、目に涙を浮かべながら微笑んでいた。


 「ゴメンな。 やっぱ俺、紫苑が好きだわ 」


 俺は藍の頭を抱えて少し強めに抱きしめた。 藍もそれに逆らわず、大人しく体を預けてくる。


 「謝んなバーカ。 謝るくらいならウチと付き合えっての! 」


 泣きながら藍はクスクスと俺の胸で笑っていた。 少し元気のなくなった髪を撫で、藍の涙が止まるまで、俺は細くてもしなやかな体を抱きしめた。  

 




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