表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/81

64話 女は分からない

 冷たくなった手をコーヒーカップで温めながら、今度は楓の話し相手をしてみる。 菜のはは脱衣所からヘアドライヤーを持って来て、ダイニングチェアに楓を座らせて髪を乾かしていた。


 「藍ちゃんは、学校に行かなくなったアタシを連れ戻そうとしてくれたんだ。 あの時はとてもウザくて、酷い事いっぱい言っちゃった…… 今でも構ってくれるなんて、ホントお人好し 」


 「その時の事、ちゃんと謝ったか? 」


 「うん、真っ先に謝った。 もうアタシに構わない方がいいって言ったら怒っちゃったけど 」


 アイツも人の事言えんだろうに……


 「アイツは親友なんだから、あまり面倒かけんなよ? それでなくても世話焼きなんだから 」


 『そだね』と力なく笑った楓は、今度は菜のはと立ち位置を代わって菜のはにドライヤーをかけ始めた。 ほえぇ…… と気持ち良さそうに目を細める菜のはに、楓も満足そうに微笑む。


 「楓さん、お兄ちゃんには藍さんがピッタリだと思うんだけど、どう思います? 」


 「え? 」


 振り向いた菜のはに、楓はドライヤーを向けたまま固まっている。 ハッと気付いた楓は、苦笑いしながら菜のはを前に向かせ、髪を乾かしながら俺をジト目で睨み付けた。


 「ど、どうかなぁ…… お兄ちゃんには他に好きな人がいるのかもよ? 」


 おいおい…… 俺の前でその話を振るのかよ。


 「まさか、楓さん? 」


 一瞬楓の動きが止まったが、楓はケラケラと笑って菜のはの頭をもみくちゃにした。


 「冗談! アタシには蒼仁先輩ってイケメンで頭良くて運動神経抜群の憧れの人がいるんだから 」


 「えー! あの人ハードル高すぎじゃないですか! みどりさんもいるし 」


 「そっ! だから憧れだけなの。 でもね、お兄ちゃんのおかげでちゃんと想いも伝えられたし、蒼仁先輩からのお断りの返事も貰えたから満足なんだ 」


 「じゃあお兄ちゃんは楓さんの役に立ててるんですね! エライエライ 」


 菜のはが俺の頭を撫でてくれるけど、その話題を今出してくるんじゃねーよ! と楓をジト目で睨み返してやった。


 「そうだねぇ…… 命の恩人って言っても過言じゃないかな 」


 「えー!! 何したんですか!? 」


 ばっ!? それを言うかお前!


 「内緒! 菜のはちゃんにも彼氏が出来たら教えてあげる 」


 えー! と文句を言う菜のはを、楓は笑って流していた。 焦らすなよ……


 「そういう菜のはちゃんは? 気になる男の子いないの? 」


 むむっ! それは有意義な情報だ。 楓グッジョブ!


 「うーん…… いないことはないんですけど、物足りないんですよねぇ 」


 物足りないって…… ホッとした気持ちが半分、女の子って怖ぇと思う気持ちが半分。 そんな俺を、楓は面白そうに見ていた。


 「それはお兄ちゃんと比べて? 」


 「比べるものじゃないとは思ってるんですけど、なんか子供っぽくて。 カッコいいとか、好きだなーとか思わないんですよね 」


 「じゃあお兄ちゃんLOVE? 」


 「まさかぁ! 」


 今度は菜のはがケラケラ笑った。 おおぅ…… 一撃で気力持っていかれました…… いや、分かってはいたけど、もう聞いてられない……


 「どこ行くのよお兄ちゃん(・・・・・) 」


 席を立った俺を、楓は意地悪そうな顔で呼び止める。


 「宿題の続き。 アイツらが勉強会始める前に終わらせておくわ 」


 コーヒーカップにもう一杯ブラックコーヒーを注ぎ、俺は力の抜けた体を引きずって自分部屋に逃げ込んだ。




 宿題を済ませて部屋から下りてきた時には、紫苑達は風呂から上がって勉強会を始めていた。 勉強会に混じり、この中で一番成績のいい紫苑に教えて貰いながら…… と思ったのだけど、紫苑が悩んだ問題を楓がサラッと解いてしまった。


 「お前、これで一年の偏差値なのかよ? 十分二年で通用するじゃねぇか 」


 「学校が一年が妥当だと判断したんだから仕方ないでしょ? 」


 「出席日数とか、単位の問題もあるのよ。 だから鳥栖さんはこれから土曜日も…… 」


 紫苑が捕足をした時、楓が弱々しく手を挙げた。


 「あの…… ワガママかもしれないんだけど、『鳥栖』って呼ぶのはやめてくれない? 」


 紫苑は首を捻っていたけど、俺は余計な事を言わずに見守る。


 「じゃあ、楓さん。 私も紫苑でいいよ 」


 「さんはいらないよ、紫苑ちゃん 」


 「呼び捨てでいいんじゃない? ウチも楓にちゃん付けされるの気持ち悪いから 」


 「じゃあ…… 楓 」


 「うん、紫苑 」


 二人はクスクスと笑い始めた。 うーん…… 女同士のこの辺は俺にはさっぱり分からん。


 「笑ってないでここ、教えてよ楓 」


 藍が面白くなさそうに楓の名前を呼ぶ。 『あの子』から『楓』に昇格したのは、藍の中で何かが吹っ切れたのかもしれない。 驚いていたのは楓もだったようで、藍に『早く』と急かされるまで藍を見つめていた。


 「うん、藍! 」


 なんとなく熱血ドラマを見ているような感覚を覚えるけど、ここで茶化すほど俺も愚かじゃない。


 「アンタはなんだかんだでテスト気にしてないよね 」


 恨めしそうな目で睨んでくる藍に、俺はすました顔で軽く返事をする。


 「そんなわけあるか。 俺の成績は中の下だぞ? ついていくのがやっと…… 」


 と、ここで蒼仁先輩との約束を思い出した。


  ばっちこーい、です!


 サァーっと顔から血の気が引いていく。 やべぇ…… なんか特別問題とか生徒会長だからとか、色んなことを言ってたような気がするぞ! 


 「ふおおぉ! 傾向と対策教えてくれぇ! 」


 皆に笑われ、藍と楓にバカにされながら俺は必死に出題予想範囲をメモるのだった。




 夜11時を過ぎ、明日も学校があるので今日の勉強会はここまで。 紫苑と藍には親父の部屋にもう一組布団を用意してやり、俺は今日もソファで寝ることになった。 親父のベッドは、長期出張に出る前に自分で全て掃除していくから使うには問題ない筈だ。


 「あぁ…… なんか怒涛の一日だったな…… 」


 疲れた…… シャワーを浴びながら今日あったことを思い返す。 藍は楓を許し、紫苑と楓は呼び捨てにする仲になり、でも菜のははまだ楓に心を許してなくて、楓は…… えーっと…… 最終的には、皆仲良くなりましたでいいんだろうか? 菜のはは少し紫苑が苦手みたいだけど。


 「女ってわかんないわ…… 」


 シャンプーを手に取ってワシャワシャと頭を洗う。 ゴンゴンとノックが聞こえて、雑に返事を返した。 風呂場まで声を掛けにくるのは菜のはか?


 「どーした? 菜の…… 」


 「女って複雑だけど単純なもんよ 」


 うぇ!? 藍か? 目を瞑ってて分からなかった。 ドアが閉まる音と、背後に感じる人の気配に恥ずかしくなる。


 「何やってんだよ藍! 」


 「いいからそのまま大事な所隠しなさいよ 」


 後ろから頭を鷲掴みにされ、藍はそのまま優しく俺の頭を洗い始めた。 なんなんだこのシチュエーション……


 「どうしたんだよ、突然 」


 「アンタ、結構疲れてる顔してるからさ。 紫苑じゃなくて申し訳ないけど、せっかくだから癒しに来てあげたわよ 」


 ちょうどいい力加減と、人にやってもらう気持ち良さに眠気が襲ってくる。


 「かゆいとこは? あったら言いなよ? 」


 「ない。 上手いな、気持ちいいわ 」


 『そりゃどーも』と素っ気なく答えた藍は、丁寧に頭を洗ってくれた後、背中まで流してくれた。


 「なんだよ、バスタオル姿じゃねーのか 」


 Tシャツにショートパンツ姿の藍に、ちょっと強がりを言ってみる。


 「何言ってんの? ホントにバスタオル姿だったら、アンタ平然としてないでしょう? それともそっちの方が好み? 」


 Tシャツの裾を捲り上げて脱ごうとしている姿が鏡に映った。


 「待て待て! 悪かった! 俺が悪かったー! 」


 「バーカ、脱ぐわけないじゃん。 はい、終わり 」


 しっかり背中を洗ってくれた藍は、泡だらけの俺を残して浴室を出ていく。


 「…… ありがとね、楓を見捨てないでくれて 」


 ドアを閉める直前に藍はボソッと呟いた。


 「なんでお前が礼を言うんだよ? 」


 「とにかくそういうこと! おやすみ 」


 ワザワザそれを言いに来たのか…… やっぱり女って分かんねぇ……





 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ