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59話 楓の裏側 その2

 中学2年生の時、突然自宅に警察が来たのだと言う。 二ノ宮クリニックの関係者から通報があり、横領の容疑で父親が捕まった。 その時に父親の不倫も発覚して両親は離婚、父親は家を残して出て行ってしまったそうだ。 家宅捜索の噂は近所から学校へと伝わり、『犯罪者の娘』と散々虐められたそうだ。 母親の頑張りもあって目に見えた虐めは収まったものの、水面下では卒業まで続いたと言う。


 「離婚したのになんで姓を母方に変えなかったんだ? 」


 「アタシの親権は父親だから。 お母さんは世間体もあるから、旧姓の古千佳(ふるちか)に戻して仕事してる。 だからアタシは鳥栖なのよ 」


 「楓さん、可哀想…… 」


 菜のはは泣きそうになりながら楓の話を聞いていた。 楓はオロオロしながら『そうじゃないの』と菜のはを慰める。


 「親がした事だし、緊急時なんだからいいんじゃね? 」


 「そうはいかないわよ。 蒼仁先輩が良くても周りは認めないだろうし…… 」


「迷惑はかけられない…… か。 お前な、こういう時こそ『助けなさいよ!』ってハッキリ言えよ 」


 「…… 言えるワケないじゃない。 散々アンタには迷惑掛けてるのに 」


 まったく、世話の焼けるやつだ。


 「お前が掛ける迷惑なんて一度も三度も十度も変わらねーんだ、素直に助けろって言えばいいんだよ! 」


 「なっ!? なによそれ! 」


 「うるせーよクマパン、お前がしおらしいのは調子が狂うんだよ。 1人で悩むことじゃねーんだ、もっと周りを頼れ! 」


 「アタシは白だバカ! 」


 「そーだよお兄ちゃん! クマさんは私だって履かないよ! 」


 パンツ話に食いついてきた菜のはに楓は目を丸くする。 


「ぱ、パンツは別にいいのよ! なんでそこまで面倒見てくれるのよ! アンタだってアタシで迷惑してるって言ったじゃない! だから出来るだけ遠ざかったのに! 」


 涙目で怒鳴り散らす楓に、菜のはの前にも関わらず俺もついヒートアップしてしまう。


 「それが迷惑だって言ってんだよ! 謝りたくても取り合ってくんねーし、顔見せなきゃ心配するだろが! 」


 ポカンと口を開けて楓の動きが止まった。 おい…… そんなにマジマジと俺を見るなよ……


 「心配、してくれてたの? 」


 「…… お、ぅ。 紫苑や藍にもちゃんと謝っておけよ 」


 「う…… 佐伯さんにも似たような事言われた 」


 「紫苑はなんて言ってたんだよ? 」


 紫苑のあの自信に満ちた『とっておき』が気になる……


 「…… 勝負をしましょう…… って。 アタシが勝てば副会長は引き受けるよ…… って 」


 「なんの勝負だよ? 」


 「言えるかバカ! アンタはボーッとしてればいいのよ! 」


 楓は突然菜のはに視線を向ける。 キョトンとしている菜のはをジーッと見て、頬を赤らめながらため息をつく。


 「なんだよ、人の妹に失礼な奴だな 」


 「つくづく可愛い子だなと思っただけ。 気を悪くしたのなら謝るわ 」


 「意味わかんねぇ…… とりあえず謝れ 」


 楓は柔らかく笑って菜のはに『ごめんなさい』と頭を下げた。 少し調子が戻って来ただろうか…… 笑顔を見てやっと俺も一息つく。


 「お兄ちゃん、なんで楓さんにそんなに冷たいの!? 私と差がありすぎ! 」


 頭を楓を直らせてギュッと抱きしめる菜のははちょっとご立腹のようだ。


 「いや、コイツはだな…… 」


 「仕方ないのよ菜のはちゃん、お兄ちゃんは妹が可愛くて愛しくて特別で心配で妹離れ出来なくて構って欲しくて誰にも渡したくなくてあわよくば俺の嫁とか思ってるんだから 」


 当たらずといえども遠からず…… 最後の俺の嫁は間違いなく違う。


 「お前な…… 」


 「なによ? あながち間違ってもいないでしょ? 」


 なんだかややこしい関係になってきた。 菜のはの馴れ合い度を見る限り、藍は別格として紫苑より楓の方が上らしい。 でなきゃ自分から抱きしめるような事はしないのだ。


 「まぁいいけどよ…… 保険会社から連絡っていつ来るんだ? 」


 「知らないわよ。 連絡はお父さんの所に入るんだろうから、時間もかかってちょっとややこしくなるかもしれないし。 その間はホント…… 」


 楓は菜のはからスッと離れて俺に向き直る。 膝の上に両手を揃え、仰々しくお辞儀をした。


 「ふつつか者ですが、よろしくお願いします 」


 「いやそれ違うから 」





 気が弛んだのか、あくびをし始めたので一先ず俺のベッドで寝かせる事にした。 成り行きで預かると言ったものの、半壊した家を身一つで出てきた楓は貴重品しか持ち物がない。 明日からまた登校すると言うのだから、せめて制服や勉強道具は取ってこなければならない。 蒼仁先輩と連絡を取ると、ずっと寝られなかったという楓を昼まで寝かせ、それから荷物を回収しようという予定になった。


 ー そうか、鳥栖家の事を聞いたんだね。 楓君がそれを話すということは、君を余程信頼しているのだろう ー


 「どういう事です? 」


 ー 中学校後半はかなり荒れていたからね、みどりがいなければ彼女は道を踏み外していたかもしれなかったんだよ ー


 蒼仁先輩の話では、両親が離婚をしてから楓の色んな噂が後を絶たなかったらしい。 楓の従姉妹にあたる鳥栖 椿(つばき)さんから吹石先輩に話が流れ、二人で陰ながら楓を支えたのだそうだ。


 「道を踏み外していたかもって…… どのくらい酷かったんですか?」


 ー それは彼女のプライバシーがあるからね、直接本人に聞いてくれ ー


 「色んな噂というのは? 」


 ー 万引きにケンカ、暴走族やら売春やら…… まあ様々だったよ。 黒髪の孤独姫なんてニックネームで呼ばれてたこともあったよ ー


 そのほとんどが噂でしかないんだろう。 今の楓を見ていると、そんなことをするとは間違っても思わなかった。


 ー ちょっとおしゃべりが過ぎたようだ。 また後程…… 頼むよ? 橙馬 ー


 「はい、よろしくお願いします 」


 蒼仁先輩と通話を切り、俺は寝ているだろう楓の様子を見に行く。


 「…… なんでもアリなんだな、女同士って 」


 静かだと思ったら、楓と一緒に菜のはもベッドで寝ていた。 スウェット越しではあるが、楓の胸を菜のはは鷲掴みにして抱き枕のように抱え込み、楓は腹を出して大口を開けてよだれを垂らしている。 なんにせよゆっくり休めるのは良いことだ…… 気持ち良く寝ている二人にタオルケットをかけ直し、俺は静かにドアを閉めた。




 

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