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57話 嫌な予感

  橙馬…… 話があるの……


  なんだよ? 耳まで赤くして改まって


  うん…… あのね…… んと…… その……



 「!? 」


 という夢で目が覚めた。 真っ赤になってモジモジしながら、潤んだ目で俺を見上げてくる夢の中の楓は別人のように可愛かった。 まるで紫苑のような仕草で……


 「ならそこは紫苑だろうよ…… 」


 なんだか寝起きからどっぷりと疲れてしまった。 時計を見るとまだ5時過ぎ…… タオルケットを被り直すも、目が冴えてしまって寝られそうにない。 二度寝を諦めて、とりあえずシャワーを浴びることにした。 6時になる頃には手持無沙汰になり、リビングでホットコーヒー片手にテレビの電源を入れる。


  ― 昨夜、○○市のアパートで火災が発生し、付近の住宅3棟を焼く…… ―


 ニュースの内容はこの街で起きた火事。 アパートの一室が爆発して、付近の住宅をも巻き込む大きな事件だ。 原因は大学生が住む部屋で鍋パーティーで使っていたガスボンベらしく、死者は出なかったものの6人が重軽傷だという。


 「…… どっかで見たことある風景だな。 どこだっけ…… 」


 生中継されている映像には辺りに黄色い規制線が張られて、まだ消防車やパトカーが止まっていた。 建物から煙は出ていないものの、全焼したアパートは壁が吹き飛び、隣の一軒家の壁も黒く焦げていた。 コーヒーカップを口に運んだ左手が止まる。


 「これ…… 楓の家じゃないのか? 」


 塀は崩れてしまってはいたけど、家の形や門構えが似てる気がする。 すぐにスマホを構えて楓に連絡を取ろうと思ったが、肝心の連絡先を俺は知らない。


 「くそ…… 」


 嫌な予感が頭を駆け巡る。 アイツの夢を見たのは偶然なのか? ケガは? 無事なんだよな? そんな思いに我慢できず、行くだけ行ってみようと部屋に戻って着替えに手を伸ばした時だった。 俺のスマホに蒼仁先輩から着信が入る。


 「はい! 」


 ― …… 燈馬? 楓です…… ―


 …… は? なんで蒼仁先輩からの電話で楓の声が聞こえる? いや、今はそうじゃない!


 「おまっ!? 家! ケガ!? 死んでないよな!? 」


 ― 死んでないわよ失礼ね! 心配してるかなと思ってせっかく連絡してあげたのに、もういい! 」


 一方的に通話を切られて、慌ててリダイヤルをする。


 ― 何よ、死んでる方が良かったんでしょ! ―


 「アホか! 今朝のニュース見てびっくりしたんだぞ! 」


 ― アタシだってびっくりしたわよ! ガラスは割れるし壁にはヒビ入っちゃうし近所は大騒ぎだし…… ―


 「待て待て! ケガは? とりあえず大丈夫なんだな!? 」


 ― …… 大丈夫。 幽体離脱もしてないから ―


 それを聞いて全身の力が抜けた。 ベッドの端に座り込んだ瞬間、軽く笑いが込み上げてくる。


 ― なに笑ってるのよ! こっちは笑い事じゃないんだからね! ―


 無事だと聞いて安心したのと、『幽体離脱も……』なんて普通言わないよな。


 「悪かった。 んでなんで蒼仁先輩のスマホをお前が持ってるんだよ? 説明してくれ 」


 ― 蒼仁先輩が私とお母さんを一時的に保護してくれたのよ。 消火活動で家は水浸しになっちゃったから、保険会社から連絡待ちなんだけど…… 」


 楓の家は火事の影響で住める状態ではないと言う。 アパートの管理人が保険会社に連絡して、仮住まいを手配しているそうだけど、夜間に起きた火災のため中々進まないらしい。 二ノ宮クリニックが夜間救急で騒がしくなったのを蒼仁先輩が気にかけて、楓の家も被害にあったと知って駆け付けてくれたのだと言う。


 「お母さんは? 」


 ― 倒れてきた本棚の下敷きになっちゃって…… 大したことはないと思うんだけど、二ノ宮クリニックで検査受けてる ―


 「そっか、大変だったな。 何か出来ることあったら言えよ? 」


 ― だってまた迷わ…… え!? ちょっとセンパ…… ―


 なにやら電話口が騒がしい。 蒼仁先輩と代わってるのか?


 ― おはよう燈馬。 随分と早起きみたいだけど、楓君の危機でも感じ取ったのかな? ―


 「おはようございます先輩。 冗談はやめて下さい 」


 とはいえ、楓の夢で目が覚めたのだからあながち間違っていないのかもしれない。


 ― 何か出来ることがあったらと言ったね? 早速だが、君にしか出来ないことを頼みたい ―


 「…… お断りします。 二ノ宮クリニックはそんなに狭くはないでしょう? 」


 ― ハハハ…… 察しが良くて話が早い。 さすが僕の燈馬だよ ―


 あなたのじゃありませんよ!


 ― 確かに病床はまだ空いているが、一病院として断りなしに受け入れる訳にはいかない。 入院している母親の付き添い人としてベッドを用意することも出来るが、楓君も休める環境が必要だろう? ―


 最もらしく言っているけど、二ノ宮先輩は楓を俺に押し付けるつもりらしい。 その手には乗りませんよ!


 ー そう言えば、もうすぐ中間テストの時期だねぇ。 生徒会長である以上、下手な点数は取って欲しくないなぁ ー


 むぅ…… 高得点を取らないと許さないということか。


 「ば、バッチこーい…… です 」


 ー おや、釣れないなぁ。 そうだ、この間の〈リラ・シャングリラ〉の時の、プールでの彼女のとっておきの写メがあるんだけどね ー


 むむっ! 


 「か、彼女とは? 」


 ー さあ、君が一番よくわかってるんじゃないのかい? フフ ー


 会話の途中でメールの着信音が鳴る。 ふうおぉ! 撮りたくても撮れなかった紫苑の水着姿だ! にっこり笑ってメッチャ可愛い……


 「わ…… 分かりました…… 」


 受け取ってしまった以上引き受けるしかない。 紫苑の水着姿を切り札に持っているとは…… 蒼仁先輩、流石です!


 ー 保険会社から仮住まいの連絡がくるまでの何日かだから、よろしく頼むよ ー


 通話を切る寸前に、楓の『バーカ』という声が聞こえた。 まあ、保険会社からの連絡はすぐに来るだろうし、とりあえずベッドを貸しておけばいいだろ。 送られた紫苑の写メに、俺はただ浮かれていた。



 



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